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ショートショート 春ギター(410文字)


大型スーパーの3F。

本を買う帰り道。


掲示板の広告に「春に音楽を始めませんか」とキャッチコピーを見てしまった。


少し離れたところの防音室で50代の女性がギターを練習していた。


「ギターか…」


私は独り言を呟いた。


冴えない独身男性がギターを始めてもな。


心に湧いた何かを諦めるように帰ろうとすると防音室の向こうから微かにメロディが聞こえる。


F6・・G・AM・・F6・・G・AM・・F6・・G・AM


聞こえてきたのは拙いが心に染みるようなメロディーの春よ、来いだ。



「春よ。遠しき春よ。瞼を閉じればそこに…」


私はなぜか瞼を閉じてしまった。


この拙い春よこいの何が魅力なのだろう。


私が思い返した春は高校生の春だった。


高校2年生の春。


当時付き合っていた女性と桜並木を何気ない会話をしながら帰った頃をなぜか思い出していた。


「愛をくれた君の懐かしの声がする」


幸せだったな。


ギターを弾いていた女性は同い年くらいだ。


「あの〜ギター始めたいですけど.…」






たはらかにさんの毎週ショートショートに参加しております。

お題 春ギター

今回も読んで頂きましてありがとうございました。

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