ショートショート 雪解けアルペジオ(573文字)
「アルペジオ上達方法は繰り返し練習することです」
ギター教室の先生が私に教えてくれるのは基本的なことばかりだった。
期待はずれだったかも。
私は心の中でこっそり呟く。
先生がピックを持ってギターを弾くと手がまるで別の生き物のように動いている。
ギターもそれに応えるように素敵なメロディを奏でる。
それに比べて私のギターはなんて不恰好な音を鳴らしちゃうんだろう。
なんとなく新しい趣味を始めたかった私は「春に音楽を始めませんか」という大型スーパーの掲示板の広告が忘れられなかった。
どんな趣味を始めてもいつも3日坊主の私は、今回も3日坊主になりそうだ。
先生が見本で演奏してくれた春よこいを聴きながら高校生の頃付き合っていた彼氏のことを思い出していた。
彼も私の演奏するギターのように少し不器用だったけど、彼はずっとサッカーを続けていた。
たとえプロの選手になることはできなくてもずっと自分の好きなことに打ち込む姿は私に持ってないものだった気がした。
コロコロ彼氏を変える私だったのになんで彼とは長く付き合えたのだろう。
それから、なんで別れちゃったんだっけ。
今頃彼は何をしているだろうか。
髪の毛薄くなってるかな。
結婚してるかな
「あの~ギター始めたいんですけど」
現れた男性はいかにも不器用な雰囲気を醸し出している。
にも関わらずずっと長く続いた冬の雪が解けて春の音が聞こえた。
たはらかにさんの毎週ショートショートに参加しております。
裏お題 雪解けアルペジオ
今回も読んで頂きありがとうございました。
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