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(読書感想文)「黄色い家」

川上未映子著「黄色い家 (Sisters In Yellow)」読了。
600 ページある長編だったが、ほぼ一気に読んでしまった。
読みながら苦しくて悲しくて。頭が痺れるような感覚になった。

2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。長らく忘却していた20年前の記憶――黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな〝シノギ〞に手を出す。歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい……。
善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作!


登場人物の生い立ちが悲しい

花、黄美子、蘭、桃子、琴美、映水 (ヨンス)。皆、出自に決して幸せではない事情があり、数ある選択肢ではなく、選ばざるを得ない道を生きている。
社会的にどうこうではなく、生きるため。生き抜くため。
いくら社会に福祉や支援する仕組みがあっても、そこには届かない。届きようがない。
銀行に口座を作ることさえ、身分を証明することさえ、学校に行くことさえ困難になってくると、そこに手を差し伸べるルートはなく、あるのはそのような人を狙って犯罪に誘う道があるのみ。

映水さんは言う。

もっと言えば、そういうのを専門で探している奴らもいるわけだよ。手っ取り早く、確実に金になるから。なんも言えねえし、誰も聞く耳持たないし、もともと世間はそういう奴らを存在してないことにしてるからな。フラフラしてるとこに、ちょっと優しくして甘い言葉でつけこんだら、あっという間に思い通りにできるんだよ。親身なふりして借金つかませて、利子だなんだいって、あとは無限に毟りとるだけ
<中略>
何があるかわかんねえから。
だから家出してるとか、親と連絡とってないとか、自分のことをいちいち言わないようにしろよ。誰がどこでどんな絵描くかは、わかんねえから。金の成る木に思われないようにしろよ、目つけられねえようにな

P220,224

その中で、花は同居人や同年代の友人を作っていくわけだが、そこの関係性も変化していく。
同じ痛みを抱えた者同士が寄り添って生きていけるほど甘くはなく、その中でも嘲り罵る場面が出てきて、女子同士のマウンティング含め、3人組ってこうなるよなと読んでてしんどかった。

経済的貧困

たまたま生まれた場所、時代、家族、周りに恵まれていたことは、自身でコントロールできるものではない。
そこの環境差異があるうえで、下剋上を為せるのは、それすらも恵まれた立場であると、主人公とその周りの事情を鑑みて思う。

金はいろんな猶予をくれる。考えるための猶予、眠るための猶予、病気になる猶予、なにかを待つための猶予。世間の多くの人は自分でその猶予を作り出す必要がないのかもしれない。ほとんどの人間には最初からある程度与えられるものなのかもしれない。
<中略>
もしすべてがバレたら私は警察に捕まってニュースになって、世間の人々が口々に私を非難して責めることもわかっていた。誰だってみんな金が必要で、だからこそ汗水たらして働いているのだと。でも私は半笑いで言ってやりたかった。私も汗水をたらしていますよと。誰の汗水がいい汗水で、誰の汗水が悪い汗水なのかを決めることのできるあなたは、いったいどこでその汗水をかいているんですか?多分とても素敵な場所なんだろうね、よかったら今度行き方を教えてくださいよ、と。

「黄色い家」P488,489

必死に働いて貯めたお金を盗まれ、母親や友人の借金返済に使うことになる。母や友人自身はちょっと迂闊ではあっても大きな悪人のようには描かれず、彼らを追い込んで罠にはめる真の犯罪者や組織がある。

宮部みゆき著「火車」も思い起こされた。

フィクションとノンフィクション

出し子などの詐欺やカード偽造などは完全にフィクションの話ではなく、実際の詐欺や、花の母(愛さん)が嵌められたようなネズミ講のような組織絡みの犯罪は現在でも横行しており、より巧妙になっている。

SNS やインターネットの未成年の入口も多様になった。
まずは知識を付けて自衛する。そして自分の子供や親に伝える。
自分のリーチできる範囲で伝える。
そのうえで、社会構造として、経済的貧困に手を差し伸べる方法はあるのか、それにどう自分が寄与できるのか、考え続けていきたい。

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