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自殺した友達が夢に出てきた話


 卒業式の2日前。

 親友が死んだことを学校から知らされた。

 10月後半、受験も大詰めにかかる頃。

「〇〇さん、今までありがとう。ばいばい。」

 彼からこうLINEが来た。

 すぐに彼の家の近くまで駆けつけて、バクバクな心臓を抑えて、同じメッセージが来ていた友人と待ち合わせて、夜の公園で一緒に味のしないおにぎりを食べた。


 その後、何度電話をかけても、彼から反応は無かった。

 学校にも、もうずっと来なかった。

 それから数ヶ月、彼の誕生日は過ぎ、時間は当たり前のように流れ、共通テストを受けて、冬を過ごし、そして温かい風が吹き始めた、3月。

 卒業したら彼探しの旅にでも出ようと思って。受験勉強中、君のことが頭から離れなくて逃げ出したくなった日だって、そうやって気持ちを切り替えて、君とまた話せる日を楽しみに、乗り切ったのに。


 私は生きたのに。


 命日もお墓も知ることができず、お線香をあげることもお葬式に出ることもできず、ただ、君がいなくなったことを知らされ、よく分からない気持ちのまま卒業した。


 昨日見た夢に、彼が出てきた。

 はっきりと覚えているのは、私が彼を呼び出してボコボコに殴った瞬間。

「何で死んだんだよ、どれだけの人が悲しんだと思ってんだよ!!」

 一度も放ったことの無いような暴言で彼をただただ罵倒し続けた。
 嫌だった。嫌なのに。こんなこと言いたくないのに。一度放った言葉はどんどんと毒づき、怒りが抑えられなくなった。
 彼は怯える顔でこちらを見るばかりで、その姿を見ながら、私はただ変わらず彼を罵倒し続ける。


 朝、起きると不思議な感覚が心をめぐっていた。

 起きてしばらくしてから、じわじわと夢の輪郭がはっきりとしてきて、あぁ、彼が出てきたな、彼が泣いていたな、どうしてだっけ?、あ、私が彼を泣かせたんだ、私が彼に罵声を浴びせたんだ。と、段々と、ゆっくりと、思い出していった。



 もし、もう一度彼に会うことができたら、私は同じことをするのだろうか。罵声を浴びせて、君が死んだことを恨んでいると言うのだろうか。君が死んだせいで、残された私たちの関係だってぐちゃぐちゃになった、と彼を責めるのだろうか。




「あいつの分まで生きないと。」

「彼に、逃げ道は沢山あったんだよって教えてあげたかった。」

 君が死んだことを、私は君と繋がりがあった何人かの友達に伝えた。その時、彼らが言った言葉だ。

 こんな風に言ってくれる人が、沢山いたんだよ。
 君のこと、ずっと心配して、私に聞いてきてくれた友達が沢山いたんだよ。

 彼の親友で彼の死を知っていた友達と相談して、詳細までは言わないこと、それを言うだけの日にはならないようにすることを条件に何人かの友達に彼の死を伝えることを決めた。

 学校側からは、親御さんの意向で彼が亡くなったことはなるべく広めないよう言われていたが、卒業した今、彼らには私の口からどうしても伝えなければいけないと思った。

 彼のクラスメイトや部活の仲間は、学校側から彼の死を知らされていた為、じわじわとその噂は広まっていた。だからこそ、その噂で彼の友達だった人に彼の死が伝わるのがとにかく嫌だった。私の口から伝えないと、とやけに焦っていた。

 それは正義感からくるものなのか、よく分からない。それでも、彼の関わってきた友達、少しでも交流のあった友達、班が一緒だったり、席が近くだったり、教科書を貸してくれたり、何か相談をしたり、ただのクラスメイトだったとしても、彼が亡くなったことを知らない状態で、彼がただ「不登校になってしまった人」で終わるのが嫌だった。


 友達の自殺というのは、誰しも自分のことを一度は責めてしまうかもしれない。
 あの時話を聞いてあげていれば、自分が止めてあげられたら。

 責めるのは仕方のないことだと思う。それでも、自分を責めてしまうぐらい、私達は君の死としっかりと向き合おうと思えるぐらい、君のことを大切に思っていた。


 誰が悪いのかなんて考えたくない。君は最悪の決断をしたけれど、それは多分、君が生きることより死ぬことに魅力を感じてしまったからで、いや、君はずっと、死にたかったけど頑張って生きていた。


 君は優しくて、自分のことは卑下するけど、他人にはとても優しくて、でも、その優しさを自分に向けてあげられなかっただけで、君にもらった優しさを私は返せなくて、君は呆気なく、いなくなった。


 声も、朧げになり始めた。もう10月から会っていない。写真を見れば顔は分かる。それでも、卒業アルバムに写る君の笑顔を見た瞬間、全身が熱くなった。あー、君もこうやって笑っていたのに。


 死ぬんじゃないな。


 希死念慮は、私もある。自分を許せない夜もある。

 それでも、死んじゃダメだ。死んだら、本当にダメだ。

 今の時代、見つけるのは難しくても逃げ道は沢山ある。君の逃げ道を探す手伝いだったらいくらでもした。君が逃げる道を、私は作ってあげられなかった。

 私はその道を探すことすらできなかったけれど、だからこそ、大学で心理学を学んで、君みたいな人の逃げ道を一緒に探せるような人になるよ。

 君みたいな優しい人になるよ。

 心理学を学びたいと思わせてくれた君に、心から感謝してるよ。大学受験は大成功しなかったけど、入学式を終えて、早速友達ができて、授業がもうすぐ始まる。君が学べなかった分も私が沢山学んで、知らなかったことを沢山吸収するから。

 いつも教室で話してくれてありがとう。数学も物理も、沢山教えてくれてありがとう。私のことを褒めてくれてありがとう。どんな時でも真剣に話を聞いて、向き合ってくれてありがとう。


 最後の最後に、君の辛かったことを話してくれてありがとう。何もしてあげられなくてごめん。


 君に感謝しかないから、私は君を夢で罵倒したんだと思う。

 ごめんね。次夢で会えた時は、笑顔で。笑顔で話せるように、私は日々を一生懸命生きて、友達と家族を大切にして、君が向こうから「もう少し生きてりゃよかったなぁ」って思えるぐらい頑張って、懸命に生きてる姿を見せるから。見ててよね!!!!!!!!!!頑張るからね!!!!!!!
 と気持ちを切り替えて。明日も楽しく頑張ります。


 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 皆さんは最高に素敵な人だから、生まれてきただけで、めちゃくちゃすごいから、マイペースに、自分に優しく、余った分の優しさを周りに振りまいて生きていきましょ。


 18歳の備忘録。



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