幸せに、って?
お互いに家庭があったから、最初は、私は彼の幸せを祈っていた。
彼がお家で幸せなら、それが一番いい、って。
そんなふうに、彼の幸せを祈る、から始まったはずの私の思いはいつしか、彼の幸せは私といること、に変わり、そして、私は彼を幸せにする、という男みたいな決意にまでなっていた。
祈る、なんてまどろっこしいことはしたくなかった。
私は私の手で彼を幸せにするのだ、という決意。
彼を幸せにできるような女になるのだ、そのために私は力をつけるのだ、という決意。
その一方で、じゃあ、彼を幸せにするために私にどんな力が必要なのか、と考えると、私ははたと立ち止まる。
どうすれば、私は彼を幸せにできるのか。
どうすれば、私は彼を支えられるのか。
何の資格も特技もない、ただのパートの50女は一体何から始めればいいのか、と途方に暮れる。
そして、そんな力をつけることなんて、私には一生できないのではないか、それはつまり、彼とまた会うことなんて二度とできないのではないか、という思いにまでつながってしまう。
そんな思いを持ちながら、そんな気持ちをなだめすかしながら、私は自分に力をつけようとする。
ひとつひとつ、目の前のことをただ愚直に、彼といられる未来を信じてやってゆこうとする。
久し振りに彼に会った私は、今自分が挑戦しようとしていることを話す。
軽ーい感じで。
それが私の光の仕事に、ひいては真の自立へとつながるのを願っていること、それはとりも直さず、彼との未来を見据えているから、ということは心にしまったまま。
私の話を聞いた彼は言う。
「確かに今、充実してるのかもしれないけど、Risaさんは幸せそうに見えないの。どうして?」
私は何も言うこともない。
幸せそうに見えないのはお互いさまな気もするけれど、そもそも好きな男といて幸せそうに見えないのなら、生きている中で私が幸せそうに見える瞬間なんて、もはやないのかもしれなかった。
神猿さまが言う。
『彼のどこが好きだ?』といきなり。
『彼に神を見ているのであれば、お前もまた神なのだ』
『神ならば、もっと大事にせねばいかんだろう?』
私は泣いている。
つらいです、って私は龍神さまに言う。
会いたいのに会うの怖い、訳が分かんない。
『心はつながっておる』
『心がつながっている、ということを言葉で確認したい、それはお主の欲だ』
仰る通りです。確認したい、確かめ合いたい、安心したい、全て私の欲です。
『自分を信頼してみろ』
『それだけでいいではないか』
神猿さま。
『彼の何がほしい?』
ああ、そうか、私は、彼の心を得ている。
それ以外求めるものはないはずだった。
時間とってほしいわけでもなかろうし、ましてや体、でもないだろう、と。
ただ一緒にいたい、って涙声で言った私に占いの先生が言う。
「それは彼もおんなじ。でもそれをしたら彼は全て失う、彼は一人になる」
それだけは避けなければいけない。
彼と、彼の立場と、そういうものを私は守らなければいけない。
それは年上として、私が死守しなければならないことだった。
「二人は進んだら行くところまで行くと思う」
先生の言葉が、今の私には体感として分かる。
私たちは、私たちの魂は、求め合っている。
もし今彼がいなくなったら、私はまた、いつ死んだっていいとか思いながら生きるだけで、それは彼が、何のために生きてるんだろう、って言ってたのとおんなじで、口では彼は綺麗事しか言わないけれど、でも本当のところでは私を、私からの愛を切実に必要としている。
あなたにとって、私は生きる意味になる。
私と一緒にいるなら、生きる意味を見いだせる、ってあなたはそう思ってる。
だって私もそうだから。
こんな言い方するのはあれだけど..。
占いの先生の前で、私は一瞬口ごもる。
自分がどれだけろくでもないことを口に出そうとしてるかが分かるから。
彼が一番大事、って思っちゃう。
「それでいい」
間髪入れずに先生が断言してくれる。
「母親失格とか思わなくていいから」
やっぱり私は泣いている。
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