原文 民、威を畏れざるは、則ち大いなる威の至りなり。 その居る所に狎れることなかれ、その生まれる所を厭うことなかれ、それただ厭わず、これを以って厭わず。 これを以って聖人、自らを知りて自らを見ず、自らを愛して自らを貴ばず。 故に彼を去りてこれを取る。 解釈 人民が君主の権威を畏れずに暮らしているなら、それは君主の最高レベルの権威である。 人民のいるところを軽視してはならない。 人民の動きを軽視してはならない。 ただ、人民の意見や動静を軽視しないということ。 これを以って
原文 知らぬを知るは上、知るを知らざれば病。 それただ病を病となす。 聖人は病ならず、その病を病を以ってす。 これを以って病ならず。 解釈 自分が知らないということを知っているのは、レベルの高い知者であり、知っているということはどうゆう事なのかを知らない者は、病気である。 知っているという事はどういうことなのか知らないということを病気とすることを知らない者は、病気である。 聖人は病気ではなく、知らないことを知っているということを病気となすことを、知らないということを病気
原文 吾言は甚だ知り易く、甚だ行い易し。 天下よく知ることなく、よく行うことなし。 言に宗あり、事に君あり。 それただ知らず、これを以って我知らず。 我を知る者は希なり、我に則る者は貴し。 これを以って聖人、褐を被りて玉を懐く。 解釈 私の言葉はカンタンで、すぐに行える。 しかし、天下の人々は理解できず、実行する者もない。 言葉には法則があり、何事を為すにもリーダーがいる。 それを知ろうともせず、それゆえに私のいう事を理解できない。 私の言う事を理解するものはまれであり
原文 兵を用いるに言有りて、吾あえて主と為さずして客と為し、あえて寸を進みて尺を退く。 これ無行の行と言い、無臂を攘い、無敵につき、無兵を執る。 禍は敵を軽んずるにおいて大なるは、なし。 敵を軽んずれば、いくらでも吾宝を失う。 故に兵で抗すこと、相のごとくなれば、哀しむ者が勝つ。 解釈 兵を用いるにおいて、こんな言葉がある。 「こちらはあえて戦いをしかけず受け身でいて、あえてわずかに進んでは大きく退く。」 これを無行の行と言い、見えない腕を振るい、見えない敵に付き、見え
原文 善く士たる者は武ならず。 善く戦う者は怒らず。 善く敵に勝つ者はあらそわず。 善く人を用いる者はこれ下にあり。 これを不争の徳といい、これを人の力を用いるといい、これを天の極みに配すという。 解釈 善なる士は、武力を使わない。 善なる戦士は、怒らない。 善く敵に勝つ者は、争わない。 善く人を使う者は、へりくだっている。 これを争わずの徳といい、人の力を使うといい、天の法則という。 コメント 武術家は、相手と同じ場所に立っていない。 あくまで自分の道を真っ直ぐ行
原文 天下皆、我が道大なるも不肖に似るという。 それただ大、ゆえに不肖に似るなり。 もし肖なれば、久しいかな。 その細なることや。 我に三宝あり、持ちながらこれを保つ。 一に曰く慈、二に曰く倹、三曰くあえて天下に先んずることなし。 慈、ゆえによく勇なり。 倹、ゆえによく広し。 あえて天下に先んずることなし、ゆえによく器長となる。 今、慈を捨てて、かつ勇ならんとし、倹を捨てて、かつ広からんとし、後を捨てて、かつ先んじ、死すかな。 それ戦を以って慈しめば、則ち勝ち、守りを以って
原文 江海、よく百谷の王者たるゆえんは、その善、これ下るを以ってなり。 ゆえによく百谷の王となる。 これを以って民に上たらんと欲すれば、必ず言を以ってこれを下り、民を先んぜんと欲すれば、必ず身を以ってこれに後るる。 これを以って聖人は、上に居りても民は重しとせず、前にいても民は害とせず。 これを以って天下を楽しみて推すといえども厭わず。 その争わずを以ってゆえに、天下、よくこれと争うことなし。 解釈 大河や海が、多くのものを生み出し育むのは、その善行が、集まる水の下流だ
原文 その安きは持ちやすく、そのいまだ兆さざるは謀りやすく、その脆さは溶けやすく、その微なるは散じやすし。 これ未有において為し、これ未乱において治むる。 合抱の木は、毫末に生ず。 九層の台は、塁土に起きる。 千里の行は、足下に始まる。 為す者はこれ敗れ、執る者はこれ失う。 これを以って聖人、無為、ゆえに無敗なり。 無執、ゆえに失くすものなし。 民の事に従うは、常に幾ばくか成ってこれ敗るる。 終に始まるがごとく慎めば、敗れる事無し。 これを以って聖人、不欲を欲し、得難きの貨
原文 無為を為し、無事を事とし、無味を味とす。 大小、多少、徳を以って怨に報いる。 難をその易に図り、大をその細に為す。 天下の難事は必ずの易に作られ、天下の大事必ずその細に作らるる。 これを以って聖人、終に大を為さず、ゆえに能くその大を為す。 それ軽諾、必ず信、寡く、易多ければ、難必ず多し。 これを以って聖人、なおこれ難とす。 ゆえに終に無難となる。 解釈 無為を行い、無事であることを出来事とし、無味を味わう。 大と小、多いと少ない、恨みには徳、全て道に従っている。
原文 道は万物の奥なり。 善人の宝、不善人の保つ所なり。 美言は以って売るべし、尊行は以って人に加えるべし。 人の不善、何を棄つるこれ有らん。 ゆえに天子を立て、三公を置き、壁を拱し、四馬を先んずることありといえども、坐してこの道を進むことならず。 古のこの道を貴ぶ所以は何ぞ。 求めて得るを以っていわず、罪有りといえども邪、免れる。 ゆえに天下の貴をなす。 解釈 道は万物の奥にあるものだ。 善人の宝であり、善人でない者の中にもある。 美しい言葉は売り物になり、人はその言
原文 大国は下流なり。 天下の交わりなり。 天下の牝なり。 牝、常に静を以って牡に勝つ。 静を以って下すなり。 ゆえに大国を以ってっ小国に下れば、則ち小国を取る。 小国、大国に下るを以って、則ち大国を取る。 ゆえにあるいは取るを以って下り、あるいは下りて取る。 大国、兼ねて人を養わんと欲するに過ぎず、小国、人に仕えんと入るを欲するに過ぎず。 それ両者、各々その欲する所を得る。 大者、宜しく下を為す。 コメント 大国は川の下流である。 水が流れ集まる場所だ。 例えるならば
原文 大国を治むるは、小鮮を煮るがごとし。 道を以って天下にのぞめば、その鬼、神ならず。 その鬼、神ならずにあらずして、その神、人を傷つけず。 その神、人を傷つけずにあらずして、聖人、もまた人を傷つけず。 それ両にして相傷つけず。 ゆえに徳、帰りなし交える。 解釈 大国を治めるには、小魚を煮るようにする。 道にしたがって天下を治めるならば、鬼も力を発揮しないだろう。 鬼が力を発揮しないだけではなく、国民を傷つけることもないい。 その鬼の力が、国民を傷つけないばかりではな
原文 人を治め、天につかえるは、薔にしくは無し。 それただ薔を早服という。 早服、これを重く積んだ徳という。 重く積んだ徳は、則ち克たずということ無し。 克たずということ無ければ、その極みを知ることなし。 その極みを知ることなければ、国をたもつこと可なり。 国の母をたもてば、長久なるべし。 これを深根、固柢、長生、久視の道という。 解釈 人を治め、天下に仕えるためには、垣根を設けるのが一番良い。 この垣根は、征服の証ではなく、早服の証である。 すなち、勝ち取ったものでは
原文 その政、悶々たれば、その民、淳淳たり。 その政、察察たれば、その民、欠欠たり。 禍は福の拠り所、福は禍の伏す所。 たれかその極みを知らん。 それ正は、無し。 正はまた奇を為し、善はまた妖を為す。 人の迷い、その日久しく、固くす。 これを以って聖人、方にして割らず、簾にして切らず、直にして伸びず、光りて耀かず。 解釈 その政治、悩み多く何も手につかなければ、国民は、素直に自分の生活を営む。 その政治、いろいろ目を光らせて取り締まりがきついならば、国民は悩み多く、何も
原文 正を以って国を治め、奇を以って兵を用い、無事を以って天下を取る。 吾、何を以ってその然なるを知るや。 これを以ってす。 天下に忌韋多く、民、いよいよ貧す。 民に利器多く、国家、ますます昏し。 人に技巧多くして、奇物、ますます起きる。 法令、ますます彰かになり、盗賊、多く出る。 ゆえに聖人云う、我、無為にして、民、自ずから化す。 我、静けさを好みて、民、自ずから正し。 我、無事にして、民、自ずから富む。 我、無欲にして、民、自ずから樸なり。 解釈 正義を以って国を治
原文 知る者は言わず、知らぬ者は言う。 その兌を塞ぎ、その門を閉ざし、その鋭さを挫き、その光を和し、その塵を同じくす。 これを玄同という。 ゆえに得て親しむべからず、得て疎んずべからず。 得て利するべからず、得て害すべからず。 得て貴ぶべからず、得て賤しむべからず。 ゆえに天下の貴となす。 解釈 本当のことを知る者は、それを言葉にしない。 よくわかっていない者は、それを言葉にする。 あれこれと情報に左右されず、自分が流されることなく、自分を誇示することなく、どんな功績