見出し画像

【ショートエッセイ】キックボクシングを始めてみました

50歳を過ぎてキックボクシングのジムに入会した。
妻に嘆願して、1年間という期限付きで許してもらった。

通い出した頃はただサンドバッグと戯れているようだった。
周りの強者たちの練習の様子を見ながら、見様見真似で練習を繰り返していたら、それなりの格好になってきた。

サンドバッグは思っていたより硬い。
それを素足で、渾身の力で蹴るから、両足は青く腫れ上がった。
妻は心配して退会を促した。
妻の立場になったら、そう言うのはもっともだ。

素人がサンドバッグにパンチすると、あっという間に手首を痛める。
会長からバンテージを使うように言われて、すぐに買いに行った。
ボクサーが手首をぐるぐる巻きにするテーピングのことだ。
痛みはそう軽減されなかった。
効果があったかどうかは定かじゃない。

仕事をしている間も手足は常に痛かった。
コーチはぼくが50歳を超えているからと言って容赦はしてくれない。
遠慮なく殴られるし、時には投げ飛ばされることもあった。
その時はメガネがひん曲がってしまった。

それでもなぜだろうか。
やめようと思うどころか、楽しくて仕方がなかった。

スパーリングを始めた時は防戦一方だったが、次第に反撃できるようになった。
ぼくは手が長いから、左ジャブでけん制しながら右ストレートを打ち込む技術が自然と身についた。

右ストレートをフェイントに使えば、右足のローキックが決まりやすくなることも自然と覚えた。

知り合いもできて、お互いに技を競い合うようになった。

身体の痛みより楽しさが遥かに上回って・・・、だから格闘技ってやめられない。


ちなみにキックボクシングを始めたきっかけを会長に聞かれて、
「那須川天心に憧れて来ました」
と、いい歳をして胸を張って言った。
「本当ですかぁー、そりゃ嬉しいなぁ!」
と、会長はいたく感激してくれた。

ただのキックボクシングばかだ。

小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。