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【ショートエッセイ】信じてくれてありがとう

子供の頃から野菜が嫌いだった。
その代わりお肉ばかり食べていた。
だから少しぽっちゃり体型だった。

お袋は何も言わなかった。
"もっと野菜を食べなさい"と言われたことがなかった。
カレーライスを作ってもらっても、野菜が入らないようにすくっていたけど、何も怒られなかった。
ぼくはそれに甘えて、ほとんどの野菜を食べようとしなかった。

小学生の高学年になって、こんな食生活をしていてはダメだと自ら悟った。
ぼくはその日から、野菜を克服しようと頑張った。

いろいろな野菜を鼻を摘んで食べ続けた。
すぐには克服できなかったが、数年後にはほとんどの野菜を食べられるようになった。

自分の自慢話をしたかった訳じゃない。
伝えたかったのは、子供の頃に何も言わなかったお袋のことだ。

家族のために作った料理なのに、ぼくは選り好みして食べていた。
たぶん怒りたかっただろう。
でも何年も何も言わなかった。
それはとてつもない我慢だ。

ぼくが自ら気付いて、行動を起こすと思っていたのだろうか。
それともぼくが野菜嫌いのまま大人になってもいいと思っていたのか。
それは定かじゃないし、今さら問うつもりもない。

ぼくが自分で気付いて、自分で行動することに賭けたのだろうか。
賭けに失敗すれば、ぼくは大人になって偏食者になる可能性もあっただろう。
それでも信じようとしたのだろうか。

もしそうだったなら、いやそうだとしよう。
たいした人だ、ぼくのお袋は。
なかなかできることじゃない。
人を信じて疑わないことなんて。

お袋に一つ謝らなければいけないことがある。
玉ねぎだけは克服できなかった。




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