時空警察 【三話】
「よろしくおなしゃーっす!」
そう元気よく挨拶すれば、険しい顔を浮かべる男女が2名。
特に女の方は巫女服を着ていて、美人なのにジトーっと恨めしそうな顔で俺を見ていた。
男は俺をここへ連れてきた張本人の琥珀島だが、やっぱり今の挨拶はまずかったかと、俺はなんとも言えない表情をする。
「ヨ、ヨロシクオネガイシマス。」
カタコトながらに敬語で挨拶すれば、満足気な顔をする美人な女。
「よろしい。で、あなたが予言書に書かれていた赤倉三來?私は椎奈蒼音、階級はFランク。」
「あー、予言書とかよく分かんないけど、俺が赤倉三來なのは間違ってねぇよ。」
「・・ねぇよじゃねーよ、''間違ってないですよ''だ!先輩には敬語で話せ!」
「うっへぇ、年功序列こわ・・・」
「何か言った??」
「イエナンデモ。」
所長、俺はすでにこの業界に馴染みそうにないんだが。
とはいえ高校でも施設でも馴染めていなかったから、今更かと思い改める。
「赤倉、椎奈は赤倉のためを思って言っているんだ。仮にも国家公務員だからな、この部署は知る人ぞ知る部署だが、逆に言えば上層部の者しか知らないということになる。必然的に仕事で部外者と会うとするなら、警察か上層部のお偉いさんだ。敬語は使っておいて損はないぞ。ちなみにお前たちは同僚だ。」
そう補足した琥珀島に、ハッと鼻で笑う椎奈と呼ばれた美人。
ちなみに今いる場所はエレベーターの中で、どうやら最上階へと向かっているようだった。
「そして一応言っておくが、俺は17歳、椎奈は18歳だ。3ヶ月前から捜査第1課対異次元生命体第2班に所属しており、晴れてお前で3人目になる。」
「へー。じゃあ2人とも年齢的には先輩なんだ?」
「そうよ、だから敬いなさい。」
「え、ヤダ。」
「はぁーーーん??」
ガン睨みしてくん椎奈にヒィッと声が漏れるものの、結局は仕方なく頷くしかなかった。
美人が怒る顔ほど怖いものはない。・・・いやマジで。
エレベーターが最上階に着けば、そこから長い廊下が続いていて、一番奥に本部長の執務室があるらしく、そこは迷路になっていた。
「この迷路、いつまで経っても覚えられないのよね。毎回道が変わるみたいだし。琥珀島はどうやって覚えてんのよ。」
「勘。それに道が変わると言っても数十パターンほどあるだけだ。何回も来てれば覚える。」
「へーへー、さすがはAランクのエリート様ねぇ。」
「あ、そういや俺って階級は何になる感じ?Cランク?」
そう聞けば首を振る琥珀島と、はあ?と言った風にガン飛ばしてくる椎奈。
思わず苦笑いをすれば、椎名の口から出てきたのは予想外の言葉だった。
「あなたはFランク。私と同じ規格外の存在で、あの過去予言者の書記に書かれている数少ない予言の子の1人。過去予言者の書記に記された人間は現在までに大きな事を成していて、とても重大な存在なの。ここまではいい?」
「あ、ハイ。って、そんな俺すごいの?」
「すごいらしいから今本部長執務室に向かってるんでしょうが。」
「はへぇ……」
なんだか現実味がなく実感が湧かないものの、いくつもの角を曲がった先に待ち構えていた執務室のドアに、少しだけ緊張してきた。
琥珀島が前に出ると、コンコンとドアを二回ノックをして返事を待つ。
「琥珀島です。例の赤倉三來を連れてきました。」
「・・・入ってこい。」
その声は、低音でも凛とした女性の声で、直後にドアが内側から開いた。
そこには黒いスーツを着たアラフォーぐらいのオジサンが立っており、「こちらへ。」と言って俺たちを招く。
部屋の中に入れば、まるで社長室のような場所に、生きていたら俺の親と同い年ぐらいだろう女性がじっと見つめていた。
「お前が赤倉三來か。」
と言って、女性は一瞬顔を和らげたように見えた。
しかし次に見た時にはお硬い顔になっていて、一瞬見間違いかと首を傾げる。
「・・・・琥珀島や椎奈と同じ色使いだと聞いたが、本当か?」
「は?」
「あっハイ。赤色のモノならなんでも操れるし、変形させたりデキマス。」
驚く椎奈を横目に、俺は2人からのキツい視線によって最後だけカタコトながら敬語を使った。
それに対して、考えるような素振りを見せた女性は、顔を上げて立ち上がる。
「改めて、私は御蛇本白奈。警察庁対異時空対策 東京本部長だ。」
「・・・???」
漢字の羅列に頭の上にはてなを浮かべるも、話を続ける御蛇本は、俺を見つめる。
そうしてこの界隈について説明しだした。
「あらかたの説明は琥珀島から聞いていると思うが、私から改めて説明をしよう。」
「お、お願いシマス。」
こくりと頷いた御蛇本に、俺もまたごくりと唾を飲んだ。
なんとなく、纏う空気が変わったと感じたからだった。
「まず、タイムレンジャーになるにあたって、規約が三つある。これは絶対厳守、守らなければタイムレンジャーから地位を剥奪される。」
「お、おぉ・・・その規約って、どういう・・」
そう言葉を続けようとして、背筋がピンと立つような部屋の空気に襲われる。
そこで思い出した、来る前に琥珀島から聞いた言葉。
『強いレンジャーになればなるほど、その体から湧き出る気が具現化することがある。無論超能力を持っている者なら誰しも見えない気が存在するが、より強い気は具現化されたソレを見るだけで膝をつき、最悪意識を失うことまである。そしてこれは異次元生命体にもある。』
『つまり・・・?』
『気に当てられても、意識を保て。膝をつくな。時空の狭間で会ったヤツは精々Bランク級だったが、今後それ以上に出会す可能性もある。』
じっと、東京行きの新幹線の中で真剣な顔をして話していた琥珀島。
『いいか、もう一度言うぞ。気に当てられても意識を飛ばすな、膝をつくな、そしてその気を放っている本人から目を逸らすな。』
そう言われた言葉を思い出せば、じっと御蛇本を見つめる。
そんな俺に驚いて、少しだけ目を見開いたように見えたものの、規約を話しだした彼女はピンと人差し指を立てる。
「一つ、異次元生命体と交流してはならない。
二つ、超能力及び超次元能力を一般人の前で使ってはならない。
三つ、同能力で人に害を為してはならない。
四つ、ローグに加担してはならない。
五つ、他の時間軸に行く場合、その時間軸の自分自身に出会してはならない。」
ローグというのはここに来る前に琥珀島が言っていた人に害をなす超能力者のことだろう。
それにしてもこの五つの中で三つも似たような事があるのは、それだけ無法者が多いのか。
御蛇本の言葉に頷いて理解を示せば、彼女もまた頷き返す。
「そして、お前が気になっているだろう過去予言者トロワの書記。ここにはレンジャーとして名を馳せる著名なレンジャー及びレンジャーの旧名、巨獣討伐者が載っている。そしてそこに赤倉三來、お前の名前があるんだ。」
「・・・なんか、責任重大デスネ。」
「そうだ、責任重大だ。そして詳しくは書かれていないが、お前の役目はそろそろやって来ると言われる外つ神・・アンダーゴッドの撃退。」
「あ、あんだー・・?」
「これは''赤倉三來''にしか出来ないと書記には書かれてある。」
わけがわからず頭にはてなマークを飛ばしていれば、いつのまにかオーラのことを忘れていて、琥珀島は平然としていたものの、隣で椎奈が疲弊していた。
「なん、なの・・よ!あなた、本部長の気に当てられてなんで平然としてるの!?これが予言の子ですってか!?先輩に喧嘩売るのも大概にしなさいよね!つか本部長も手加減しなさいよ!茶野芽さんが気ぃ失ったじゃない!」
「「えっ。」」
後ろを見てみれば、茶野芽さんと呼ばれたアラフォーぐらいのオジサンがいい笑顔のままグッと手を上げていて、心なしか魂が抜けているのが見えた。
(ワタシノコトハオキニナサラズニ〜)
なんて言っていれば、御蛇本が近づいてきて、身体をぶん殴って茶野芽を無理やり起こす。
「よし、起きたな。」
「いや武力行使怖すぎなんですけど〜!?フツーに痛いですし!」
「とにかく、赤倉にはこれからその外つ神の撃退のために、レンジャーとして経験を積んでもらう。だが私の気を耐え切った以上、才能はあるだろう。なので・・琥珀島と椎奈の第1課対異次元生命体第2班に任命する。」
「あれ無視??」
後目に殴られたお腹を抑える茶野芽を見れば、あれだけ本気で殴られたのにピンピンしていて、思わずドン引く。
レンジャーはこんなオジサンになってまでも頑丈じゃないと生きていけないのか。
それはともかく御蛇本に任命された俺は「ハイ。」と返事をした。
「まず、最初の一週間は私による稽古だ。その間琥珀島は単独任務、椎奈も明日から朝5時にこの亜空間に赤倉を連れて集合。いいか?」
「了解です。」
「わかりマシタ。」
「それでは解散。」と言ってパンッ!と手を叩いた御蛇本によって、強制的に俺の意識がブラックアウトした。
その後ハッと目覚めれば、そこは新しく3人で暮らすことになった社宅の玄関で、上には小柄な琥珀島とその上に椎名が乗って眠っていた。
「おい、起きろよ・・」
と声をかければ、目元をこすりながら目が覚める2人。
そうして状況を把握した2人は、深いため息を吐いた。
「また茶野芽さんにしてやられたわ。いつから亜空間だったと思う?」
「・・・エレベーターに乗った時から既に、茶野芽さんの亜空間に入っていたのかもしれない。だがそうなると、御蛇本さんはただの新人の顔合わせに亜空間を・・」
「あくうかん?」
数秒の沈黙の後、また2人はため息を吐いた。
「亜空間や外つ神のことについても、後で茶野芽さんから説明があるでしょ。にしてもそろそろ本当に厄災が来そうね」
「もし、それが来たら、どうするんだ・・?」
「戦う他ないでしょうね。私たち、タイムレンジャーだもの。」
平然とそう言った椎奈はかっこよかくて、思わず目をぱちくりと瞬きさせた。
「なんか、カッコいいな。」
「ふん、もっと褒め称えなさい。」
続
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?