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「ナースの卯月に視えるもの」本日発売です!

 本日、拙著「ナースの卯月に視えるもの」が発売となります。私の、初めての商業出版小説です!!

 

 趣味で小説を書いていた私がプロとして商業出版をするまでの道のりは、けっして楽ではありませんでした。荒涼とした山道を一人で登るようなものだと思いました。しかし振り返ってみると、私の体には太くて丈夫な命綱がついていました……

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 創作大賞2023で別冊文藝春秋賞を受賞した、と知らせを受けたのは、2023年10月のことでした。驚きと喜びと、本当に私が? という困惑の入り混じる中、すぐに文藝春秋の方々と最初の顔合わせをzoomで行うことに。
 編集者さんという未知の存在に怯えつつ、とても緊張したけれど、noteのスタッフさんが一緒に参加してくださり、打ち解けた雰囲気を作ってくださり、とてもありがたかったと思い出します。
 このとき「改稿して書籍化を目指したい」と言われ、飛び上がるほど嬉しかったです。商業出版は私の夢であり目標だったから。その道へ近づいたのだ、と興奮しました。同時に、2万5千字程度だった受賞作品を「書籍化するなら原稿用紙350枚くらいにしたい。文字数だと、12万字くらい。締め切りは、年内をめどに」と言われたときは、その量と期間の短さにものすごく驚いたし、これがプロの世界か……と正直恐れ慄きました。書籍化への道のりが、遠く険しい山道に見えました。ゴロゴロとした石が転がり足場は悪く、乾燥した風が吹きすさぶ、荒涼とした険しい山道。木々や小川はない。その道を、私は登ることになった……。このときはまだ、一人で登ると思い込んでいました。

 作家の新川帆立先生とも、何度も打ち合わせをさせていただきました。新川先生は受賞の選考のときから関わってくださり、改稿時にも本当に丁寧なアドバイスをたくさんくださいました。「複数人でしゃべっている場面になると誰のセリフかわからなくなる」「悪人を書くのが難しい」「ハッピーエンドにする勇気がない」などの私の悩みに対し、技術的なものからメンタル的なものまで、さまざまな助言をくださり、大きな励ましもいただき、支えていただきました。創作大賞授賞式のあとに一緒にお食事をしながら「このキャラは……」「そもそもミステリーって……」などと熱く語れたことが夢のよう……。
 改稿時の、新川先生とのオンライン公開打ち合わせも、初めて体験した貴重なものでした。私は人前で話すのがあまり得意ではないのだけれど、編集者さんが話しやすいように質問をしてくださったり、新川先生がわかりやすく説明してくださったりして、緊張しながらもなんとか終えることができました。このとき新川先生が「編集者さんは絶対に味方!」と言ってくださったことが強く印象に残っています。そして、私は長い道のりを行く中、自分の体に命綱がついていることに気付いたのです。

 ……そうか、荒涼とした山道は、一人で登るものじゃないんだ。

 編集者さんや新川先生のように支えてくださる方がいる。これなら滑落しない。遭難もしない。発見した命綱をぎゅっと握り、私はまた一歩踏み出しました。

 大幅な加筆修正が必要になるとわかったので、文章を書き始める前にキャラクター表とプロットをしっかり作りました。もともと4章だった作品を6章にし、ボリュームも増やすとなるとプロットの段階からけっこう大変。
 受賞作品は、叙述トリック的なしかけを作り、その種明かしをするような終わり方をしていたのだけれど、そのようなしかけは、効果的な作品とそうでない作品があり、私の場合は「叙述トリックにしないほうがより良いと思う」と言われ、そこを大きく変更する必要がありあました。だから、特に終わり方が難しく、最後の6章のところは「未定。何も決まっていません」と書いてプロット表を提出しました。新川先生に「編集者さんは絶対に味方!」と言われたことを思い出し、かっこつけても仕方ない、できていないことは正直に相談しようと思い、ありのままを伝えました。もしかしたら怒られるかもしれない、呆れられるかもしれない、と心配はあったけれど、実際に打ち合わせを始めたら、まったくそんなことはなく。逆に「1~5章まですごくしっかり書いてあったから、6章未定って書いてあってちょっと安心しました」とまで言ってくださいました。私が締め切りに追われ、自分を追い込みすぎていないかを気にしてくださったのでした。「未定」と素直に言えて良かった……。
 そこから、どういう終わり方がよりこの作品にふさわしいか、どうまとまっていくべきか、ということを一緒に話していくと、しだいに作品のテーマが見えてきました。「卯月はどうして『思い残し』が視えて、視え続けた果てにどうなっていくのか」という、作品の軸となるものがはっきりしていきました。軸が見えてくると、おのずと6章はどんな話になるのかが浮き上がってきます。物語というものは、こうやって編集者さんと一緒に作り上げていくものなのだ、と実感しました。
 最初は、増やさなければならない量に驚いて不安でしたが、書き始めてみると、書きたいことを書いていれば量はちゃんと増えてくることがわかった。そのうち、量への不安はほとんど気になりませんでした。

 書き始めてからも、何度も編集者さんとzoomで打ち合わせを行い、どの部分は冗長だから少し削るべきなのか、どの部分はもう少し膨らませて書いたほうがいいのか、具体的にアドバイスをいただきました。私の場合、看護の手技や病気のことを説明的に書きすぎるところがあったので、そこはわかりやすく端的にとどめて、より主人公の内面やほかの登場人物とのエピソードの描写を増やすことを意識しました。また、登場人物の一人が最後に病棟を異動になるシーンで語るセリフが個人的にとても気に入っているので、ぜひ読んでいただきたいです。そのセリフは、最初はもっと淡々としたものでした。でも、編集者さんに「ここはこの登場人物の集大成になる」と言っていただき、とても良いセリフが書けたと思っています。まさに、編集者さんに引き出していただいたからこそ書けたものです。

 執筆する時間はとても楽しかったです。私が書けば、書いただけ物語が進む。それは本当に嬉しくてわくわくすることです。一番書いていたときは、朝の10時頃から書き始め、食事とお風呂以外はずっとパソコンに向かい、22時頃まで書いていました。こんなに書いたのは初めてでした。
 気付けば、険しい山道を登る私の命綱は頑丈で太いものになっていました。揺らがない、安心してゆだねられる力強い命綱。いつどんな相談をしてもすぐに返事をくれる編集者さんとの信頼関係、大きな支えのおかげです。そして、荒涼としていたはずの景色に、いつの間にか草木が生え、花が咲き始めました。noteやXで執筆状況を報告したときに応援してくださるフォロワーさんたちのおかげです。遠く険しく思えた道のりでも、このまま歩いていけば大丈夫。そう思えました。

 校正校閲を終えて校了したときは、達成感とともに大きな安堵感がありました。良かった、無事に校了できた。私のやるべきことはやれた。命綱を抱きしめて振り返ると、山道は豊かな森になっていました。ここまで来る間に、私はきっと成長できた。それは、多くの人に支えていただいたからです。感謝の気持ちで胸がいっぱいでした。そして、表紙のイラストを見たとき、感動のあまり「わあ!」と大きな声を出してしまいました。それは、あまりにも作品世界にぴったりの、美しく優しい素敵な絵でした。

 今回初めて書籍化をしてみて、一冊の本には想像以上の人たちが関わっていることがわかりました。著者、編集者さん複数、表紙を描いてくださるイラストレーターさん、そのデザインをしてくださる人、校正校閲に関わる方(初校と再校にそれぞれ複数関わってくださる)、プロモーションをしてくださる方々、営業の方々、印刷してくださる方々、そして売ってくださる書店員さんたち……。たぶん、私の見えていないところでもっともっとたくさんの方々が関わって、やっと一冊の本ができあがるのです。関わってくださった全ての人に感謝したいです。そして、そのたくさんの支えに恥じない良い作品に仕上がったと胸を張りたいです。

 一つの山をようやく登り終えた私には、清々しい充実感があります。頑丈な命綱を体に巻いたまま、また次の山を目指したいと心から思います。
 
 関わってくださったすべての人に感謝します。

 2024年5月8日 
 秋谷りんこ
 



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