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【part6】セックスって何歳までできるんだろうね。


ひょんなことから、そのものの意味と限界値が気になったという話。
 

困ったときは先生頼み

「なあ、森逸崎もりいざきの彼氏って精力剤飲んでるの?」
一年以上前のことである。会社の先輩から、唐突にこんな相談を受けた。

朝8時だぞ。何を言ってんだこの男。

「朝ごはん何食べた?」くらいのテンションでそう聞いてきたこの先輩は、聞くところによると奥様との間にその手の悩みがあるらしかった。
だから少しでも参考になる情報を収集している、と言っていた。
だとしたら収集相手間違っているけどな、既にな。

「うーん、飲んでるかどうかは知らないっス。」
なんでそうなってしまっているのかという要因は、なんとなく聞かないでおいた。
私が回答すると、
「そうか、じゃあさ、元気の秘訣は何か今度聞いてみてくれよ。」
と頼まれた。なんだか本気で悩んでいる様子だったので、「御意です」とだけ言ってその場は終わらせた。

元気の秘訣。詰まるところ、性欲と体力を維持するにはどうしたらいいのかって話か、と私は捉えた。


全方位に全力であれ

相談を受けると一日中そのことを頭の中でこねくり回してしまうのは、私の悪い癖の一つである。

最初は「性欲と体力の維持方法」の話だったのに、「私もツレも何歳までできるんだろう」だとか「そもそもセックスの目的って何だっけ」など、頭の中で余計な疑問を投げては回答を探し、その回答に違和感を感じてはまた、しっくりくる言葉を探してしまう。

付き合いたてのころ、
「私、出産願望ないですよ。」
「うん。俺も遺伝子を残すことに対しては興味ないから大丈夫。」
という会話をツレとしたことがある。

その言葉をそのままお互いの共通認識とするならば、ツレとする目的は生殖のためとは違うことになる。
ただ、ツレとは自然に「したい」という欲が出てくるし、ツレはどう思っているかは知らないが、万が一(億が一?)子どもができたとしても、彼との間にできた子どもなら、責任を持って育てたいとは思えている。
でも性欲があることとその行為ができることはまた別物だ。できなくなったらなったでいいんだけど、人間って何歳までできるんだろう。

 ・・という感じで脳みそを仕事以外の言葉で埋めて、ぼーっとしている状態の私のことを、上司は「またワールド入ってる」とよく指摘する。


「ねえ、性欲と体力を維持するためにはどうしたらいいと思う?」
「は?」
その週の木曜の夜、いつもの楽天ポイント蓄積タイム(part2参照)に、私はツレに質問を投げてみた。
「先輩の話。相談受けた。」
「ああ、そういうこと。」

ツレはスマホゲームの画面から目を逸らさないまま、「うーん」と唸ってから、お得意のおどけた顔と声で私を見て、
「仕事と同じくらいの全力を、仕事以外のことにも注ぐことかなー。」
と言っていた。

「と、言いますと?」
「仕事にも遊びにも恋にも、全力で取り組むんですー。そうすればそんなこと悩まなくて済むんですー」

ああ、このテンションでツレが煙に巻くときは、こそばゆくて言いにくいか、言いたくないときだ。
あまり性に対してオープンな人ではないから、これ以上深掘りするとおそらく顔の中心にキュッとシワを寄せて「回答したくない」の顔をし始める。

「ありがとうございます、先生」
その話はそこでやめておくことにした。


 翌日その先輩には、
「『全方位に全力であれ』って言ってました。まあ、多分ググった方が早いっス。」
とだけ添え、参考になりそうなURLを送っておいた。


リバイバル

「ねえ、人間って何歳までセックスできるんだろうね。」
「は?」

過去にこねくり回した疑問を、ふとした瞬間に思い出して目の前の相手に脈絡なく話してしまうのも、私の悪い癖の一つである。

このときも、その一年前の話から連想した新しい疑問をツレに文字通り、ぶつけていた。
「先輩の話。朝8時の。」
「朝8時からそんな話するのか。」
ツレはもちろん忘れている。

「あなたは自分で、何歳までできると思う?」
と改めて聞くと、ツレはスマホゲームの画面から目を逸らさないまま、「えー?」と唸ってから、お得意のおどけた顔と声で、
「もうできないー。もうとっくに限界超えてるー。」
と、言った。

ちょん切ってやろうかな、この男。

このときも私はツレとの会話はそれで終わらせたが、夜寝る前に、またぐるぐると思考を巡らせていた。




実際私は、生物学的な興味があるのだ。性欲と体力が共存できる限界に。そして生殖以外の目的で、その行為をすることの意味みたいなものに。

前者に関しては、ある種これからじっくり知っていけばいい。ツレだけじゃない。私にだって限界は来る。
もしかしたら冗談めかして一年前にツレが言っていた、「全方位に全力で生きること」が鍵なのかもしれないし、また別の回答があるのかもしれない。

そのときが来たら、互いの思考や感覚や感情を、そっと大事にしてみたい。

「後者に関しては明日調べてみよう」と思いながら、私はゆっくり眠りについた。


そんなこんなで翌日Google検索していたら、石川隆俊さんという方の『東大名誉教授の私が「死ぬまでセックス」をすすめる本当の理由』という書籍を見つけた。

興味本位で読んでみたら、それはもうあっさりと、「私にとってしっくりくる言葉」が記載されていたのだった。その書籍には「世の中の高齢者80名がどのような性生活を送っているのか」を詳しく調査した内容がまとめられていた。いろんな夫婦やパートナーの事例が記載されていて、普通に気づきが多い。

その冒頭で石川さんはこう書いていた。

「死ぬまでセックス 」をすすめると言っても、決して、若いころと同じような猛々しいものを強いるのではありません。年老いた今だからこそ味わえる、「成熟したセックス 」があることを知っていただきたいのです。誰でも年を取ります。肉体的にも精神的にも、さまざまな衰えが来るのは自然の摂理です。しかし、それを悲観して、セックスを諦めてはいけません。 
<中略>  人は、この世に生まれてきたことを認めてもらえるようなほっとする安らぎを、今まさに生きている喜びを感じることができるのです。そして、命を全うする自信がわいてくるのです。

石川隆俊『東大名誉教授の私が「死ぬまでセックス」をすすめる本当の理由』

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この文章を読んで、「ああきっとそうだ」、と思った。

「命を全うする自信」だ。

「したいからする」の欲求の根底で、おそらく人間は「これが私という人間である」と全身全霊で訴えている。

普段言葉で着飾っている分、言葉にならない部分を含めて、自分という人間を余すことなく相手に伝えている。そしてそれを受け入れ合っている。


私は言葉が好きだし、自分が言葉にできないことを誰かが言葉にしてくれることも好きだけど、「言葉にできない何かそのもの」も好きなのだ。

昨日の夜寝る前に「大事にしたい」と思った限界の瞬間も、普段ツレの隣にいるときにだけ感じられる空気も、私が私を構成する色んなモノ・コト・ヒトに対して考える行為も超越して、「それ」は私に、命を全うする自信をくれる。

うーん、面白い。

なんてことをぼんやり考える雨の日、師走。
また上司に「ワールド入ってる」と言われてしまうから、この話は、また次ふと思い出すその瞬間まで、そっとクローズさせることにする。


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