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【part12】乳首つねってごめんなさい。

フェチは宗教用語で「呪物崇拝」のことを指すらしく、古来より「それをもっていると災厄が近づかず、幸運がもたらされる」とされてきた。
であるならば、大義名分は十分だ。

二の腕

私はツレの体のパーツの中で、二の腕がダントツで好きだ。
特に夏の半袖の時期。クーラーでいい感じに冷えた二の腕が最高である。運転中、ハンドルを握ったまま無防備に放り出されたそれは、もはや尊い。

ちなみに最初、ツレの二の腕を揉む度に私は「これこれ」と小さい声で言っていたらしい。ほぼ無意識。はたから見たら気持ち悪いことこの上なかっただろうとは思う。
最近だと開き直って大げさに「こりぇこりぇー!」と言うようになった。我ながら何のプレイなんだろう。

とにかく車の助手席やソファの定位置に座ると必ず、無言で私はツレの二の腕を揉むのが習慣になっていた。



ある日、例のごとくソファに並んで、左手にスマホ、右手でツレの二の腕を揉んでる時にツレが聞いてきた。
「なんでそんなに二の腕がいいの?」

私は答えに窮した。こんなにニギニギしときながらあれだけど、「なんで」なんて考えたこともなかった。

そもそも歴代彼氏の二の腕はこんなにも触りたくなるものではなかったし、そもそも触った記憶もない。
柔らかさ?温度?触った時のフィット感?
ツレの二の腕は何かが違う。何が違う?

変な回答をして、金輪際この二の腕が揉めなくなるなんてことになったら禁断症状が出てしまうかもしれない。
私は答えた。

「あれよ。男性が女性のおっぱい揉みたくなる心境と同じよ。」

知らんけど。



寛大な御心

その後もツレは、何も言わずに二の腕を揉ませ続けてくれている。彼の心の広さと二の腕に感謝である。
でも、いつも通りツレの二の腕を触っていると、私はその視線の先に新たなるターゲットを捉えてしまった。

その日、気がついたら私は、ツレの乳首をつねっていた。
テレビを見ていたツレはもちろんギョッとした顔をして私を見てきた。目が合った。笑ってしまった。

「すごくないか私。服の上からあなたの乳首の位置を一発で当てられた。」
「何言ってんだ。やめなさい。」
「乳首当ての才能があるかもしれない。」
「そんな競技ないから、やめなさい。」

今考えたら普通に乳首の位置なんて毎回変わる訳ないんだから、当てられて当然かもしれないのだけど、その「初回で当てられた」という事実は、なぜか私を喜ばせた。
小さい子どもが初めて何か成し遂げた時の達成感って、多分こういう感じなんだろうな。だから繰り返しちゃうんだろうな。

私はその後もツレが本気で拒否しないことをいいことに、ことあるごとに「乳首の位置当てゲーム」をひとりで敢行していったのである。

断っておくがツレは乳首が性感帯な訳ではない。二の腕と違って私も触り続けることで何かリラックス効果があるわけでもない。つまり乳首を触るのは誰得でもない。



それは大変ご無礼を


「割と本気で嫌なんだよね。」
とツレに真顔で言われたのは、つい先日のことだった。
乳首をつねるようになってから、半年は経過していただろうか。ツレは実は、本当に嫌がっていたらしい。

「え、まじで?乳首?」
「うん。痛いのよ。」
「え、なんか、ごめん。」

ここにきていきなりの乳首嫌だ宣言。この半年間、ずっと触らせてくれていたではないか。半ば習慣になりつつあったのに。
つまり私は、この半年間、ずっとツレに不快感を与えていたことになる。それはかなり申し訳ないことをしてしまった。

ということは、二の腕だってその実どう思われているのかわからない。これもずっと不快だったのではあるまいか。

「じゃ、じゃあ二の腕も?」
「二の腕はいいよ。」

いいのかよ。


かくして私は、ツレの二の腕を揉むことを正式にお許しいただいた。
付き合い始めて2年ちょい。改めて何が人の快・不快かはちゃんと確認しようと思ったできごとである。

とりあえず、乳首つねってごめんなさい。




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