「月夜の逢瀬」

「月ノ君。貴女の事は今宵からそう呼ぼう。」

「月ノ君?其の様に大層な名で呼ばれては恥ずかしゅう御座います。」

「では、誠の名をお教え下さいますか?貴女が名をお教え下さらぬ故、月ノ君とお呼び致すのです。」

「名を知れば、貴方は去ってしまうでしょう。名等、どうでも良いことではございませぬか。貴方の名を私は聞きませぬ。」

「貴女が高貴な方だということは気づいております。私等が手の届かぬ御方だと。それでも、こうやって月の綺麗な晩にはお逢いできる。一時の事だとしても私は幸せなのです。どうか、貴女の誠の名をお教えください。」

「誠の名…。誠の名をあかす事は出来ませぬ。名をあかせば、貴方と逢えなくなってしまいます。どうか、御許し下さいませ。」

「…承知しました。では、どうか、「月ノ君」とお呼びすることは御許しいただけますか?」

「わかりました。御許しいたしましょう。」

「月ノ君、無粋な願いを申し上げたこと御許し下さい。」

「良いのです、もう。忘れてしまいましょう。ほら、月の光りもそう言っています。」

「月ノ君…。」

「今宵の月も綺麗。」

「ええ、誠に。笛でもお聞かせいたしましょう。」

「はい、出逢ったあの時の笛を。」

「わかりました。では…。」

(笛の音)

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