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連作短編|揺られて(後編)❼|吾輩はみた(特別編2)

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朝からパパさんもママさんも忙しそうだ。
いつも休みの日のパパさんはソファーでごろごろしているのにね。

「今日はお客さんがくるのよ」

キョウハ オキャクサン ガ クルノヨ

玄関のベルが鳴り、知らない人間の男がリビングに通された。

よくわからないタイプの男だけど、おもしろそうだから足元に近づいてみると、ボクのことを撫ではじめた。

気持ちよくてごろごろ寝転んびながらこいつの顔を見上げると、じろじろとママさんのことを見ていてるのがわかった。

嫌な男だな……

パパさんとママさんはそわそわしているし、その男がイライラしていることは触られている手から感じ取れた。まだ他に来る人間がいるらしい。次はどんな人間がくるのだろう。

また玄関のベルが鳴ったので、男の手をするりと抜け、ママさんと玄関へ向かうと、かわいらしい人間の女が入って来た。

「遅れてすみませんでした。これを……」

「あら、ご丁寧にありがとうございます。急がせてしまったかしら。さ、どうぞ上がって」

ママさんは紙袋を受け取り、その女を家に上がらせ、ドアの内鍵をかけようとしたその時、勢いよくドアが開けられると、また知らない人間の男が……

いや、知っている!この男の顔はずいぶん前に、パパさんがテーブルに広げたたくさんの紙の中にあった顔だ。

コウシンジョ デ イッパツダ

の顔だった。

「麻里!話を聞いてくれ!」

きゃぁ~!
女が悲鳴をあげた。

「何してるの?!帰って!」

女は脱いだ靴をまた履き直し、自分よりすごく背の高い ”コウシンジョ デ イッパツダ ”を泣きながら手で押している。

「誰だ!おまえ!」

パパさんが玄関にやって来たが、その後の声がでずに固まってしまった。

ん?何か様子がおかしいぞ。

”コウシンジョ デ イッパツダ ”は、ママさんを見つめていて、ママさんは自分の口を手で押さえたまま固まっている。

ん?ボクを撫でていた男も玄関まで来たが、こいつも目を見開いたまま固まった。

この騒ぎで、二階にいた我が家のひめが階段から降りてきた。いつもパパさんが ”ワガヤ ノ オヒメサマ" や "ヒメ"と呼んでいる。

「なんなの?この騒ぎは!」

すると、僕を撫でていた男が階段の姫に目をやり、また固まった。

姫はとても背が高くて、ママさんに負けないくらい美しい。”ザッシ モデル”をやっている。男の表情が変わったところをボクは見逃さなかった。

この女より、こっちの姫の方がよかった!と悔やんでいるな。馬鹿だな人間って。この女だってとても美しいじゃないか。いつも窓の外を歩く人間たちを眺めているけれど、こんなに美しい人間の女はそういないぞ。

「何なの?修羅場ってやつかしら?」

シュラバ?

姫だけが動いてしゃべっている。
女は”コウシンジョ デ イッパツダ ”を押すことをやめ泣いているだけ、他の皆は固まったままだった。

「あなたが邪魔者なのね?はい!出ていって!!」

”コウシンジョ デ イッパツダ ”は姫に軽く押され、簡単に玄関ドアの外へ出されてしまった。さっきの勢いはどうしたのだろう。

「大丈夫?」

姫は玄関にへなへなと座り込んでしまった女に手を差し伸べた。

「モテる女はつらいわね」

女にウィンクした姫だけが笑顔で、他の皆は表情も全身の動き止まったままだったが、姫が勢いよく手を叩くと、はっと動き出した。

ママさんが観ていたテレビの『サイミンジュツ』みたい。

姫は何事もなかったかのように二階へ昇っていき、他の皆はリビングへ移動していった。

ボクはママさんの足元に丸まった。

”コウシンジョ デ イッパツダ ” の騒ぎのことを女は謝っていたが、それほどその話が続くことなく、ぎこちなかった場の雰囲気もだいぶ和み笑いがでるようになってきた。

さっきの皆の固まり様は何だったのだろう……

”コウシンジョ デ イッパツダ ”は何者なのだろう……

色々考えてもよくわからなくて、それでも考えていたら眠くなってしまい、ボクはそのまま深い眠りに落ちた。

後編❽へつづく


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