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連作短編|揺られて(後編)❺|江上

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大学生のときに、ルナちゃんと出逢った。

女性と知り合う機会が欲しくてマッチングアプリをやり始め、最初は食事をするだけで満足していたのだが、だんだん食事だけでの出費が馬鹿らしく思え、女性と会う回数は減るけれど、その分いい思いができるならと、勇気をだして『大人あり』にしたときの最初の相手だ。

こんな綺麗ながパパ活をしているなんて信じられなかったが、車や土地、ブランドの服にバッグ、時計、アクセサリーと、とにかく高価なものの話ばかりするので、きっとお金持ちになるためにこんなことしてるんだなと思った。

マッチングアプリで女性を買うことに抵抗はあったし、万が一、相手が未成年だったら逮捕されていまうかもしれないと、どこかびくびく女性たちと会っていたが、回数を重ねていくうちにそんな罪悪感も消えていった。

数回目のデートの時、いつになくイライラしている不機嫌なルナちゃんにどうしたのか聞いてみたら、汚いものでも見るかのような目でこちらを睨み、小さな声だけど絶対に彼女はこう言った。

「きもっ」

自分の中の全てが凍りついた。

確かに太っていたし、顔も整ってはないけれど、こんな酷い言葉を吐き捨てるように言われたのは生まれて初めてだったし、あまりの衝撃にすぐには返事もできず、なぜか謝ってしまった。

「ご、ごめん……」

ルナちゃんは、はっきりは言わなかったけれど、その月のお金が足りないみたいだった。

ルナちゃんを助けてあげたい気持ちはあったのだけれど、″きもっ″が心のどこかで引っかかって、その後はルナちゃんに連絡することができなくなってしまった。

マッチングアプリでの出会いで、たくさんお金も使い、そのお陰で女性に対する接し方も覚えてきた。

しかし、″きもっ″が頭から離れない。

就職するまでに自分磨きに精を出すことにした。見た目が就職活動に不利なるかもしれない。自分が採用側の立場なら、同じ成績の二人を並べてどちらかを選ばなくてはならないのなら、見た目の良い人材を選ぶ。

運動は苦手だけれど、スポーツジムに通ってインストラクターを雇い、緩んだ体を絞っていくと、見た目も徐々に良くなり、汗をかくことも快感になっていった。

顔か……

一重の目はキツく見えるのかな…と、テレビに映る人気の男性アイドルを観ながら思うようになった。

鏡に映る自分をじっくり見ると、腫れぼったい瞼に、ぼってりとした鼻、髭は朝剃っても夕方には生えてくる。

人気の美容整形外科クリニックの相談事前予約はインターネットで簡単にできた。どの部位を整形したいかの質問には『全部』と入力した。

話を聞いてみて怖かったらやめればいいんだと自分に言い聞かせ、約束通りの時間にクリニックへ行くと、肌がつるつるで目がぱっちり二重の院長が話を聞いてくれた。

相談事前予約時、理想の顔を書く欄に人気の俳優の名前を入力したのは、いささか図々しいかなとは思ったけれど、お金を出して整形するなら、かっこいい顔がいいに決まっている。

院長のすべすべな手がパソコンを操作すると、手術後の自分の新しい顔のシュミレーションが次々と画面に表示される。それを見ていたら、もうこれが自分の顔のように思えてきて、手術の怖さは吹き飛んでしまった。

はやくこの顔になりたい……

スポーツジム、美容整形外科クリニックへの支払いは親が全額もってくれた。

スポーツジムには大賛成してくれた母に美容整形の話をしたときは大反対されたが、なんとか説得した。

就職活動前の試験休みの長い期間を利用して手術を行い、新しい顔を手に入れた。

顔の腫れも引き、見違えるほど綺麗な顔になった息子を見て母はまんざらでもなさそうだった。あれほど美容整形に反対していたくせに、どんなにお腹を痛め大変な思いをして産んだ息子の顔も醜いよりも綺麗な方がいいってことだ。

顔のおかげか、痩せたせいなのか、就職活動はうまくいった。第一希望の今の会社に入社できて本当に良かったと思う。

そして生涯のパートナーと生きていく。
自分はなんて幸せ者なのだろう。

後編❻へつづく


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