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連載:城東の奇跡~大激戦!東京15区選挙レポート 第2節:混沌

 4月に入っても立憲民主党の東京15区総支部長は空席のままだった。

 3月に東京15区ではかなり候補予定者に動きがあった。日本保守党、参政党からそれぞれ候補予定者が出て、IR企業から賄賂を受け取っており裁判で有罪判決の出ている元自民党衆議院議員も再起を期しての出馬を表明した。立憲民主党、および自民党の両方が候補予定者を出せていない中で、構図は複雑怪奇となって来た。
 私は、自民党の候補予定者の質が良ければ、同じく自民党議員の不祥事がもとで発生した千葉5区補選(2023年4月実施)のように、結局また自民党が当選する可能性もありうるとみていた。しかし、自民党はもたついている。立憲民主党から候補予定者が立つとすれば、2023年12月の区長選を戦った酒井なつみ前区議が最も適任だろうとは思っていた。12月の区長選は個人的な事情で忙しく、現地に応援に行けたのはたった一度であった。その際に酒井さんに初めてお会いしたのだが、優しく凛とした人柄が魅力的だと感じていた。この方に投票できる江東区民がうらやましいほどだった。「選挙は本来美しいもの。」という名言はインターネット上でも反響が大きかった。結果は残念だったが、報われてほしい逸材であった。

 そんな折、一報が入った。立憲民主党が、酒井なつみさんを擁立するというのである。これは党員として嬉しかった。既に現職/前職の擁立が決まっていた長崎と島根に加え、立憲は全ての補欠選挙で候補を出せることとなった。一方で、野党側の構図としてはどんな形になるのか、気がかりでもあった。長崎、島根は共産党が候補擁立を最終的に見送る(島根は取り下げた)形となり、東京はこの時点で小堤東さんが候補予定者で事務所開きも行っていた。告示まで2週間もないとなれば、いくら立憲と共産の関係が良好な東京(しかも区長選で共闘)と言えども競合も止むを得ないだろうし、仮に統一候補だとしても無所属も考えられると踏んでいた。
 しかし、それから数日して、共産党は小堤さんの立候補を撤回し、酒井さんの支援を表明してくださった。これにはただただ感謝するしかない。既に体制を組んでいたところで候補を下ろすというのは並々ならぬ決断だっただろう。自分が小堤さんの立場で同じことができただろうかと訊かれれば自信はない。結果、共産党が3つの選挙区すべてで候補を立てず、各地で強弱の差はあれ立憲候補サイドに立ってくださったため、立憲はある程度の塊を作って戦うことができることとなった。自民党が候補を擁立した島根では一騎打ちとなり、自民党が不戦敗を決めた長崎では維新との一騎打ちとなった。
 しかし、東京15区は立憲と共産(社民や新社会党、緑の党、東京生活者ネットワークもここに合流することとなる)が間際に連携できたとは言えど、その後も野党統一候補となることを模索していたとされる元格闘家が正式に出馬を表明し、また選挙戦最大の話題を生むこととなる諸派も名乗りを上げ、さらに『五体不満足』で高名な作家も参戦を決めたことで(当初はこの人に自民党が推薦を出すことを視野に入れており、最終的に小池百合子都知事率いる都民ファーストと国民民主の推薦を受けることになった)構図は今までになく複雑化していた。
 結果、自民党も公明党も候補を擁立/推薦できず、この選挙戦は与党不在の中、過去最多の9人で議席を争うこととなった。自民党が出さなかったこともあり、「保守系」の候補も複数出馬表明をしている。これは我々からすれば都合の悪い話ではない。保守票をそれぞれで奪い合う中でリベラルや左派側が一塊になれば、勝ち目は十分ある。

 だが、問題がふたつあった。ひとつは、江東区が立憲の弱い地域であること。もうひとつは、区議を2期務め区長選に出馬したとは言え、酒井なつみさんの知名度が地元出身/地元で長く活動し国政選挙に出馬した/著名人の各候補に比べるとまだまだ浸透しきっていないのではないかということ。区長選でも、次点ではあったものの、何度も出馬している候補や諸派の候補がかなり食い込んでいたのだ。
 なお、一部で「左派色が強かったから負けた」といういわれなき総括まで為されたが、街宣を聴取した際には、共産党の区議が立憲ブルーのジャンパーを着用する等かなりまとまりの良い印象を受けていたため、私としては上記2点が要因であろうと踏んでいた。しかし、電車で1時間以内の街ならば出かけて力になった方がそうした懸念をしているよりもよほど健全だ。それに、この選挙により、国政の景色は少々ではあるが変わってくることに違いない。12月にお会いした時の印象も忘れられず、久しぶりにがっつり選挙ボランティアをやってみようと思い立ったのである。

 告示まで、あと1週間を切ったある日、私は江東区の東陽町に向かった。


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