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連載:城東の奇跡~大激戦!東京15区選挙レポート 第11節:懸念

 現場で着実に感じられる手ごたえとは裏腹に、ネット上ではどこからともなく不安が広がっていた。

 東京15区の情勢に関しては、序盤中盤にかけてかなりの数の報道があった。「優勢(4月19日日経、4月21日JNN)」、「やや先行(4月21日共同通信)」、「わずかにリード(4月21日朝日)」、「一歩リード(4月21日読売)」、「やや優位(4月23日時事通信)」と表現の仕方には多少の幅があるが、いずれも酒井なつみさんがリードしているという点で共通していたし、デッドヒートの際に使われる「激戦」「互角の戦い」という表現は全く見当たらなかった。しばらく前に自民党の世論調査と題した数字がネット上をにぎわせた際には全く信用していなかったのだが、酒井さんがある程度のアドバンテージを持っていることは間違いないとこの結果には前向きな心持になれた。

 だが、ネット上では、長崎、島根に比べ不安視する声が多かった。
 まず、その不安の要因を私なりに分析する。
 ➀東京15区の選挙活動の内容の投稿が大きく制限されてしまったこと、②市民連合を介した共産党との共闘体制をかなり前面に打ち出していたこと、③他の選挙区での候補と異なり酒井さんが新人候補で彼女のことをよく知らない方も多いこと、④大混戦の中で、城東である程度の勢力を持つ創価学会が他候補に動くと情勢が急変する可能性があること。以上の4点がインターネット上での懸念を醸造していたように思う。
 まず➀について。これは私からしても大変に心苦しいことではあったが、今回の妨害行為は動画で見ても危険極まりないものであり、「身の危険を感じることもあった」(投開票後の取材に対する酒井さんのコメント)ほどで、とても日程を公表できる状態ではなかった。陣営にボランティアに入っていた私ですらごく一部しか知らされておらず、当然応援に来て動画を撮りたい、ネットを盛り上げたいと思っている方はさぞもどかしい思いだったろうと推察するが、その影響で長崎島根のように候補の日程や活動の様子がネット上にはそれほど上がらなかったということから、「東京ではいったい何をやっているのか」という懸念もあったに違いない。実際には、妨害をどうにか潜り抜けてスポット街宣などを中心に酒井陣営は江東区を周り、別動隊の本人なし街宣カー、それに他党諸派、市民連合やフェミブリッジなどの有志による独自の宣伝活動などで酒井なつみの名前を周知していた(このことは③にも関わるが)。このトピックは、改めて別に1節を割いて振り返ることとするが、地元での運動量は結果的にこうした共闘陣営全体でかなりの量にのぼり、最大の課題であった知名度をカバーしていたのだ。もちろん、別動隊の受難や「つばさの党」以外のヘイターの乱入や狼藉もみられたが、酒井なつみさん本人以外による幅広くきめこまかい広報活動(実際、私もポスター貼りの状況を確かめに街を歩いているとかなりの確率で本隊ないし別動隊の宣伝カーに遭遇した)の影響は大きかったと思う。加えて、日程非公開な分、「その場で偶然出会った街の声」を酒井さんも聞くことができたという「けがの功名」も見られた。
 ②について。先述の通り、別に1節を割いて振り返るが、これはプラスに作用すれどマイナスに作用することは殆どなかったと確信している。なぜなら、先述の「別動隊」活動や合同街宣による「地上戦」で酒井なつみの名前が多方面から連呼された影響は少なからずあったからである。おまけに、酒井なつみポスターの掲示は他党諸派の力によるところも大きく、仮に共闘が成立していなかったとしたらここまで街中に酒井なつみポスターは存在しなかったというほどだった(詳しくは後日の記事を参照されたい)。また、特に市民連合主体の街宣のような市民参加型の政治運動にアレルギーを覚える人は野党支持者にも多いが、それこそがまさに「草の根からの民主主義」ではないのか。そもそもこの国においては政治活動に参加すること・意見すること自体に忌避が強い中で、「世間体が悪いから」と市民の政治参加をネガティブに評価していてはいつまで経っても日本の政治は硬直したままであろう。期間中、私がそうした街宣に入ったのは終盤のことであったが、そこでネット上に見られたような反応の悪さはリアルでは観測しなかった。ビラの受け取りも変わらず良かった。今回の暴力的な場面が多々観測されたイレギュラーな選挙戦の中で、市民が主体的に正当な方法で政治参加しているさまを見て引かれたということは考えにくく、逆に健全に映った可能性すらある。むしろそれを理由に引くような人の投票先は決まっていることも多いだろうし、それを見て初めて「刺さる」人だっているだろう。そうした街宣を取材しながら、私はネット向けに酒井なつみさんを中心に宣伝するよう腐心した。例えば街宣動画は酒井なつみさんのものに絞り、応援弁士は立憲民主党側含め紹介にとどめる、というように。
 ③について。これは先述の部分と重複することもあるが、私は酒井なつみさんの最大の課題を知名度ならびに立憲民主党の江東区における基礎体力の弱さ(区議1人、都議無し)の2点であると考えていた。前者に関しては、別動隊の車で時に泉代表や岡田幹事長などの大物、都連の所属議員・支部長が乗り込んでかなり活発に宣伝を繰り広げ、何度も地区を巡回していた。今回は無所属・諸派の候補が多い中で、我々にとって有利だったのは政党カーを回せたことも要因としてあるだろう。そして後者をカバーしたのが、②の懸念点でもあった共闘の力である。南砂での朝街宣には酒井さん、長妻昭立憲都連会長のみならず共産党の地元区議や諸派の現・前区議も応援に駆け付け、皆酒井なつみの魅力を伝えようと精一杯アピールしていた。あるいは、別動隊としてそうした他党諸派・市民団体が呼びかけた影響で酒井なつみという名前のインプレッションは相当なものになっただろうと確信する。私としては、ネットの酒井陣営の発信がやや寂しいのも事実であると感じ、後半戦では本人の街宣ダイジェスト動画や画像をかなりアップした。その甲斐あって、事務所のスタッフからも「SNSはお前に任せた」とまで声をかけてもらえるようになったし、ネット上の反応もすこぶるよかったため、私も取材により一層熱が入った。
 ④について。これは机上の空論であり、心配しても仕方ないと私は割り切っていた。情勢的にはある程度の余裕がある上、公明党の看板の横に特定候補のポスターが貼ってあるということも特になかったことから過度に気にすることはないと思っていた。そもそも、公明党が推薦しているはずの自民党候補が島根で立憲候補に先行されているのに推薦も支持もしていない特定の候補が票を集められるのかという話である(公明新聞に「〇〇危うし」という文言が載ることもなかったため、動きがあっても限定的と私は踏んでいた)。とはいえ、私としては、SNS上で「酒井なつみさんの政策は公明党がポスターで訴えている政策と大差ない」ことをアピールすることは大事だと思ったし、公明党のポスターの隣に酒井なつみポスターが貼られていることまであったので、これもすかさず写真をアップした。

 以上のように、ネット上の懸念を打ち消すべく、私はかえって実地での活動とネットの発信の両方に力を入れるようになった。
 1週目の活動はそもそも「選挙が行われていること」を街に周知することも兼ねていたが、2週目になると「期日前に入れました」「入れる予定」という声が街角でも電話でも増えてくる。
 そして、私はこの戦いに勝ち目があることをだんだんと認識し、ついに確信するに至る。


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