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連載:城東の奇跡~大激戦!東京15区選挙レポート 第1節: 背景

 2024年4月28日、午後8時。
 東京の江東区にある酒井なつみ選挙事務所は「当選確実」と映し出されたテロップに沸き立った。
 
 酒井なつみ、当選確実。
 
 しかも、ゼロ打ちである。

 補欠選挙は何度も行われていたが、2023年春は地元の区議選とかぶり、最も近くで行われた千葉には行けず、同年秋の補選も徳島高知と長崎であったためインターネット上で応援するしかなかった。
 しかし、今回の東京15区補欠選挙は訳が違う。電車で1時間弱とは言え、都内である。しかも、私の住む東京都北区と似た下町である。加えて、私は現在は休業中だが、所属しているオーケストラの練習で度々江東区の施設に通ったことがあり、土地勘があった。古石場、森下、東陽町、砂町、豊洲……。街を歩く中で私が頻繁に目にしていたのは、「下町の太陽」と呼ばれた柿沢未途氏のオレンジ色のポスターであった。
 その柿沢氏が公選法違反で逮捕され、議員を辞職したために行われる今回の衆議院補欠選挙。選挙期間だけでも十分物語にはなるが、それ以前から候補予定者の名前が取りざたされるたびにインターネット上では議論になっていた。
 柿沢氏が議員辞職した2月1日に、日本維新の会が2021年総選挙にも出馬した支部長を公認することを決定した。この支部長は前回衆議院選でも惜敗率が良く、同じ党の12区で比例復活した議員との差はわずかであり、落選後も総支部長として辻立ちや地元周りを重ねていた。そのため、ネット上では維新が議席を取るのではという見方が広まった。立憲と維新は国会内で協力することこそあれ選挙ではぶつかることが基本であったため、立憲候補の擁立が理想ではあった。だが支部長を今日の明日で決定できるなどという単純な話はあろうはずがない。
 2月以降は立候補決定の話題だけで東京15区はネットの政治界隈をにぎわせた。ある時には国民民主党の代表(この人は「共産党と組んでいる政党とは組まない」などと立憲民主党との連携を否定する言動を繰り返してきた)が公認決定した人を立憲に「推薦してくれ」と頼むこともあったが、突然公認取り消しをしたこともあった。またある時には、当時現職の参議院議員で、4年前に立憲民主党を離党した地元出身の格闘家が野党統一候補となるのではという情報も出回り、これには私も含めネット上の野党支持者が猛反発した。
 もともと江東区は立憲民主党の地盤が弱い地域であり、2022年夏の参議院選でも、当時候補者だった松尾明弘氏(現在は衆議院東京7区総支部長)の得票数が23区内でも特に伸び悩んだエリアである。街宣も殆ど入った記憶がなく、一度豊洲で行った際もビラの受け取りは悪かった。そんな地域で立憲民主党の候補を待望する声は多かった。だが、15区は2021年衆議院選でそれまで野党会派に属していた柿沢氏が直前に自民党入党を模索しはじめた際に国替えで候補を擁立したものの支部長に再任されることもなく空白地帯となっていた。加えて、2023年春に区議に当選した立憲民主党の3人の内、1人が離党し、もう1人、つまり今回の主役である酒井なつみさんが区長選出馬のため区議を退職(結果は次点惜敗)した結果、区議が高野はやとさん1人だけとなっていた。都議はいない(なお、2021年都議選に出馬したのが高野さんであった)。
 そんな地域で、候補を擁立できるか。私は、自分の住む地区(衆議院東京12区)も支部長空白の状態(しかも候補すら立ったことがない)であったため、空白区の空気感を知っていた。不戦敗も考えられた。
 国民民主党が候補擁立を決定した際には、ネット上で一部に立憲も相乗りすべきではとの声もあったが、東京では立憲は共産党社民党諸派との関係が強固であり、そのうえ国民民主党と都民ファーストの関係を踏まえればその対応はありえないと私は踏んでいた。共産党からは、30代の小堤東さんという好青年(20代の私が恐縮ではあるが)が立候補を決定していたので、先の区長選(酒井なつみさんを立憲、共産、れいわ、社民、諸派が支援)体制を引き継ぎ今度は国政で共産党候補の支持に回ることが自然だろうと思われた。やがて国民民主党も候補公認を撤回し、国政野党では日本維新の会の支部長と小堤さんが立候補を予定しているだけという状態になった。
 だが、補欠選挙実施の事由が敵失であるし、立憲に候補を擁立してほしいという思いは当然党員としてはあった。

 4月に入っても、立憲民主党東京15区総支部長は空白のままであった。




 
 

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