見出し画像

連載:城東の奇跡~大激戦!東京15区選挙レポート 第19節:総括

 過去最多9人が立候補し大乱戦となった東京15区。
 酒井なつみさんは、この戦いを制した。

 今回は、得票数や出口調査、世論調査なども加味しながら、私独自の分析・総括を行う。


上位5人の開票結果。NHKサイトから引用。


 酒井なつみさんは、以下のリンクの開票結果の通り、49476票、パーセンテージからいうと、29%の票を獲得し、次点の須藤元気氏には20000票近く、ポイントにして11ポイント差をつけゴールインした。「勝ててもせいぜい辛勝」「東京15区は危ないのではないか」「6-4で負けると思う」などという根拠のないネット上のコメント(このうちひとつはこともあろうに立憲民主党の東京都連外の自治体議員の発言であった。)が並んだのに対し、結果で黙らせることとなった。次次点で日本維新の会の金澤結衣氏が須藤氏のすぐあとにつけ、4位に日本保守党の飯山陽氏、5位で無所属(国民民主党・都民ファーストの会推薦)乙武洋匡氏と続いた。1位が酒井なつみさん、次点以下が混戦で続くという構図はおおかた予想された通りだったが、詳しい分析を加えたい。

https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/local/shutoken/20507/skh54852.html

 まず、NHKが出した当日の出口調査の結果のグラフ(上位5人)と期日前投票の円グラフを検討することとする。


NHKによる当日出口調査上位5人の結果。


NHKによる期日前投票出口調査。

 当日出口調査の結果を見ると、酒井さんが30%あまりを得てトップに立ち、次点の須藤氏も18%ほどの票を得ていることがわかる。維新の金澤氏は16%ほどの票で続く。諸派の飯山氏と無所属乙武氏は、ともに10%台前半の得票である。
 それに対し、期日前投票の割合を見てみよう。酒井さんがトップなのは変わらず、25%以上の票を得ている。しかしここで注目すべきは、飯山氏が20%ほどの得票で追っているということだ。それに僅差で維新金澤氏が続く。須藤氏は当日票ほど得票していない。乙武氏は期日前と当日でさほど得票率に差が見られなかったようだ。
 ここから何が言えるか。
 各種情勢調査での、(多少の幅があれど)酒井さんが一歩リードしている、という表現は間違っていなかったようだ。しかし、期日前投票の時点ではその差は5-6%ほどと「一歩」の差であったことが窺える。つまり、酒井さんが10%以上の差をつけて勝った要因は、どうやら当日票にありそうだ。この辺りは、後述の党派別得票率とも関連させて述べるが、当日に票を伸ばしたのは、酒井さん、そして須藤氏であった。逆に、期日前投票の時点で善戦していた維新金澤氏と諸派飯山氏は当日票が伸び悩んだということになる。小池都知事の応援もあり、小池氏とも関係の良い創価学会の票が動くと言われていた乙武氏は期日前も当日もほぼ変動はない。

 続いて、党派別得票率を見て行こう。


NHK出口調査による支持政党別当日得票率。

 まず、自民候補が出馬しなかったことにより票の行方が注目されていた自民支持層であるが、その投票先は綺麗に分散した。その中で目だって得票しているのは須藤氏、維新金澤氏である。諸派飯山氏、無所属で元自民党衆議院議員秋元氏にも一定数流れているのは想定内だが、酒井、乙武氏もそれぞれ1割ほどを得ている。このうち、地元出身あるいは地元で政治活動を行っていたのは、酒井(前江東区議)、須藤(江東区東陽町出身)、金澤(日本維新の会東京15区総支部長)、秋元(元東京15区選出衆議院議員)の各氏で、これら4人の合計割合は自民党支持層のおよそ7割以上にのぼる。このうち、酒井氏、須藤氏はいわゆる保守系候補ではない。他方、地元出身ではない「落下傘候補」である飯山氏、乙武氏は本来であれば両者とも保守票をもっと多く得てもおかしくないと予想していたが、その割合は須藤、金澤氏の後塵を拝し、酒井さんともさほど差はない。
 次に、公明支持層であるが、街のポスターの割合とこの調査のパーセンテージが全く照合しないことから、投票に行かなかったあるいは白票を投じた人の割合が多かったものとみられる。投票先は、乙武氏の割合が多いが、自民支持層と同様、須藤氏にも一定の投票がみられる。「創価学会が動く」という心配は杞憂に終わったようである。
 立憲民主党、共産党支持層に関しては、酒井さんがそれぞれ8割前後を固めている。この混戦の中ではまず「自陣」を固めることが肝要だが、そこをきっちりクリアしているということになるし、野党共闘がしっかり票に結びついているということになる。自民党議員の不祥事辞職で行われ、野党が候補を統一できずに臨んだ2023年春の千葉5区補欠選挙(結果は5000票差で自民党新人に議席を得させる結果となった)とは対照的な結果になった。今回も「野党オールスター」に近い状態ではあるが、立憲民主党、社民党、共産党、新社会党、生活ネット、緑の党のブロックがきっちりとまとまったことで有権者に「今回は勝ちに来ているな」「この人が野党のしっかりとした候補なのね」という印象を与えたとみてよいだろう。維新支持層に関しては大半が金澤氏であるが、酒井さんはその次に得票している。その他党派に関して、国民民主支持層に飯山氏の得票が一定数みられるのが興味深いところである。
 そして、注目は分厚い無党派層である。43%もの割合のどれだけを取り込めるかがこの前代未聞の混戦においては重要になるが、ここでは3割台前半の得票で酒井さんがトップであり、次いで2割あまりを得た須藤氏、以下飯山氏、乙武氏と続き、金澤氏はここで票が伸びていないという特徴がみられる。

 以上を加味すると、今回の選挙は以下のように分析できる。

➀酒井さんは、立憲民主党・共産党支持層を着実に固め、無党派層からは最も多くの票を得た他、一部自民支持層にも食い込んだ。
②須藤元気氏の健闘の要因は、無党派層を取り込んだ他、自民・公明支持層にも食い込んでいたことであり、保守票の取り込みはイデオロギーと必ずしもイコールではない。
③期日前から当日にかけては、酒井・須藤の両氏が伸びている。
④上位3人(酒井、須藤、金澤の各氏)はいずれも地元出身もしくは地元での政治活動歴のある候補者であった。落下傘候補は結果的にここで保守票を取り切れていない。

 ➀に関して。酒井さんはまず共闘陣営の票を確実に固めた。立憲民主党本体の宣伝活動に加え、野党各党・諸派による宣伝の力およびポスター貼りの力は大きかったものとみられる。また、立憲民主党支持層が11%と、総支部長が長く活動していた維新の8%を上回っているのも特徴である。もちろん、自民党の不祥事により立憲民主党に追い風が吹いている影響は大きいと思うが、唯一の立憲民主党江東区議である高野はやと区議の日頃の立憲民主党宣伝活動の影響は大きかったのではないか。枝野前代表曰く、「エンジンとなる組織が存在しない状態」「立憲がものすごく弱い地域」というなかで、総支部長が長らく不在だった中でも腐らずに活動を続けてきた高野さんの土壌づくりが功を奏したとみてよいだろう。「3軒がんばれと言われた」というポスター貼りの方の話や、ポスターの掲示軒数(共産党支持層のお宅にもかなり貼ってあったし、酒井さん単独貼りもあった)、電話かけの反応、ビラの受け取りなどの肌感覚とも照合する。こうして立憲民主党の支持率と相乗りするように支持を伸ばした酒井さんは、無党派にも支持を拡大した。これも上記の実地活動での手ごたえと十分合致するものである。立憲単独で行う街宣や他党諸派市民連合、フェミブリッジによる独自の宣伝活動、合同街宣と一緒に行う時とそうでない時で互いを尊重した柔軟な枠組みで戦うことができたことが要因となったように思われる。また、「無党派に忌避された」という要素はおよそあたらなかったように思われる。また、自民党支持層からも「今回は野党どうにかしてくれよ」という声が一定数あり、その一角には酒井さんもいたということになる。自民党ポスターが現時点では殆ど観測できないため、どれほど自民党支持のお宅にポスターが貼られていたのかは定かではないが、普段貼らせていただけないお宅にも貼らせてもらえたという高野さんのコメント、あるいは多党貼りの一角に食い込めたということにも鑑みるとありがたい話である。確かに割合的にはそう多くないかもしれないが、9人の乱戦の中で自民党支持層の1割を獲得できたのは一定の成果であろう。
 ②に関して。これは他候補の話であり恐縮ではあるが、須藤元気氏は江東区東陽町出身である。地元出身で土地勘や個人的な人脈を活かし、組織がない中でも無党派層に一定の支持を広げ、自民党支持層の2割に食い込み、公明支持層からも一定の支持を得ている。もちろん、元格闘家、前参議院議員という知名度も要因としてあるだろう。④にて詳述するが、「保守票を得る条件」というのは、「イデオロギー」よりも「地元に向き合っているか」というウェイトが小選挙区では大きいのではないか。
 ③に関して。期日前投票から当日にかけて伸びたのは、上位2人である酒井さん、須藤さんであった。先述の無党派層の得票率も鑑みると、投票当日に「酒井か須藤か」で悩んだ人が多かったと推察する。知名度の高い須藤氏、飯山氏、乙武氏や長らく地元で活動してきた金澤氏に比べると酒井さんは知名度でまだまだ大きく後れをとっていると思っていた(いくら江東区議を務め、区長選出馬経験があるとはいえ、支部長就任が4月頭であり、今回の選挙は急ごしらえであったのだ)。期日前投票ではそれもあり、リードの幅はそれほど大きくはなかった。しかし、立憲や各党派による必死の宣伝活動の甲斐もあり、投開票前日には「酒井何とかさんよ、看護師助産師ですって」というように街の人の注目を着実に獲得するに至り、NHKの調査に即せば、当日の得票率では30%以上を得て次点以下に10%以上の差をつける結果となった。先述の通り、「唯一の確固たる野党候補」として、超党派で応援したのが実ったという側面は大きいと思うし、ポスターの効果、妨害の異例の事態の中でも必死に街宣車や本人不在街宣、電話かけを続けた陣営の力も大きかったように思う。もちろん、ここには立憲に対する追い風も要因としてある。だが、いずれにせよこの地区で、2代連続選出議員が不祥事で辞職する中で、「立憲頼んだよ」という声の現れと受け止めてよいであろう。
 なお、「維新の見せ方はうまく、野党共闘の見せ方は下手で無党派に忌避される」という言説が、前回の衆議院選以来、度々嘯かれたが、今回の無党派層の得票率を見ればその言説は真っ向から否定されたことになる。黄緑のジャンパーで統一した洗練感のある陣営が、無党派層に関しては上位5人の中で最も伸び悩んでいる。維新の統一感が逆に外部にはかえって「近寄りがたい」「まとまりすぎ」という雰囲気を醸し出した可能性すらあるということだ(これ以上は他候補の話になるので控えたい)。逆に、立憲民主党、共産党、社民党、諸派、市民連合などが連携した酒井陣営は全体の3分の1の無党派を取っており、この点で他候補を圧倒している。むしろ、酒井さん自身が「市民と野党の統一候補」と自ら演説のたびにアピールしていたことや批判もあった新聞の「統一候補」アピールも含めて、「野党共闘」を前面に打ち出したことは間違ってはいなかったのだ。
 ④に関して。上位3人はいずれも江東区に密着してきた人達である。このうち金澤氏は自民支持層を一定数獲得することには成功したが、無党派で伸び悩み、須藤氏は自民支持層公明支持層無党派層で一定の成果をあげている。酒井さんは自民支持層では上記2人に遅れをとったものの、無党派層で大きくリードしたという特徴がある。地元での活動歴と得票割合、保守票の取り込みはある程度相関性があると言える。加えて、野党共闘の有無、イデオロギーというよりもどれだけ地域を愛して活動してきたかということや、どれだけ地域に名前を知られているか、そして真摯に政治に向き合おうとしているか/向き合って来たか(酒井さんはこの点前江東区議という経歴が活きてきたであろう、電話かけ初日のエピソードを振り返ってもこの要因はプラスに働くと思われる)ということが総合的な得票要素となっていると考えられる。言い換えれば、落下傘候補が最終的に上位3人に比べ、「江東区から国政にチャレンジする意義」が有権者にはあまり感じ取られなかったということでもあろう。

 以上、長くなったが、看護師・助産師、江東区議を経て、こどもまんなかを江東区から国政に広げ、不祥事まみれの江東区の景色を転換させんとする酒井なつみさんの姿勢が江東区の有権者に評価されたものと考える。
 
 今後の酒井なつみ陣営の課題としては、以下の3点が挙げられる。

➀東京15区において、立憲民主党は酒井さんと高野さんの「2人商店」であり、組織も含めまだまだ基礎体力をつける余地があること。
②酒井なつみさんの実績や活動および立憲民主党の政策・ビジョンを積極的に発信し江東区の皆様に伝える必要があること。
③酒井陣営として、地域最大の課題である「防災」をはじめとする課題にさらに力を入れていくこと。

 ➀について。勝ったとはいえ、根本的には解消されていない問題だ。衆議院議員が1人送り出されたとは言え、都議はゼロ、区議は高野さんのみ。もちろん、他党派との関係は良好であるし、今回築いた野党共闘のネットワークは大成功であったし今後も継続すべきだと思う(市民連合の方も「当面この体制は続くだろうね」と仰っていた)が、それに「おんぶにだっこ」ではいけない。立憲民主党として基礎体力を強める必要がある。そのための話し合いも行われる予定であり、私も協力する所存である。加えて、1年半以内に行われる次期解散総選挙では、今回の補選とも異なり、多くの応援弁士、自治体議員、ボランティアを呼ぶことはできない。私は自分の選挙区が立憲空白区のため応援に入ることができるとは思うが、次回も勝てるためには、枝野前代表の言葉を借りれば「エンジン」となる組織作りが急務となる。後援会がしっかりしていた島根長崎に対し、酒井なつみさんの体制作りはこれからである。もちろん、今回の補選で形成されたボランティアも重要な構成要員となるであろう。市民ひとりひとりが積極的に参加し、党派を超えて次回以降も「草の根の力」で酒井さんを送り出したい。
 ②について。酒井さんが衆議院議員としてどんな活動をしているか、また立憲民主党としてどんなビジョンがあるか、をセットで江東区の皆様に伝達する必要がある。後者に関しては高野さんが既にかなり力を入れてくれているが、高野さんと酒井さんだけでは限界がある。私たちも街宣手伝いやポスティング、報告会などの企画、SNSでの発信など、出来ることを協力していきたい。2代続けて選出議員が不祥事で辞職するという災難に見舞われた江東区で、新たに選ばれた酒井さんがどんなことをするのか関心を寄せてくださる方は多いだろう。酒井さんの今後の活動を支持者としてしっかりと注視するとともに出来ることを協力していきたい。酒井さんが区長選で得た票は34292票。今回は49476票。15000票を上積みしているが、更に多くの江東区民の方に酒井さんの良さを認識していただくために、また酒井なつみさんの知名度や実績を知っていただくためにも必要なことである。
 ③について。これは、第16節にも書いたが、江東市民連合の共通政策にもあったし、地域の課題として避けては通れない問題であるが、今回の選挙では深掘りできなかった点である。防災に関して、私も江東区の地理や課題を学び、知見を深めて陣営と共有したいと思う。特に課題は高齢者や子どもの避難体制確保である。ほかにも地域の課題は山積みである。子育てに関しては、酒井さんの領域なので江東区の「こどもまんなか」を国政に届け、更に子育てしやすい国づくりのためにご活躍いただきたいところだ。そして、そうした真摯な姿勢は党派・イデオロギーを超えて評価されるものであると確信している。

 以上のような課題はあるが、我々は酒井さんを無事に国会に送り出すことに成功した。そして、選挙から3日後の5月1日、酒井なつみさんが初登院する日がやって来た。その日の朝は、門前仲町で当選報告街宣が行われるということで、私も立ち会うことにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?