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"新しい生活様式"に「慣れたフリ」して無理をしたまま夏が過ぎる


一橋大学アウティング事件


をあなたは知っていますか?



今から6年前のことで知らない方もいるかもしれないので、簡単に説明すると、一橋大学アウティング事件とは、

一橋大学法科大学院において同性愛の恋愛感情を告白した相手による暴露(アウティング)をきっかけとして、2015年8月24日にゲイの学生が一橋大学の校舎から投身自殺したとされる事件

であり、その後ご遺族が、アウティングをした同級生及び適切な対応を取らなかった一橋大学に対し裁判を起こしています。

その後、同級生とは2018年の一審で和解が成立しましたが、一橋大学側とは一審・二審ともに遺族側の請求が棄却されました。

二審の東京高裁(村上正敏裁判長)は2020年11月25日に一審の東京地裁に続き遺族側の請求を棄却しましたが、判決理由ではアウティングについて「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害するものであり、許されない行為であることは明らか」と言及し、アウティングの違法性に言及した日本初の判決となりました。

ゲイ暴露被害で転落死、一橋大アウティング事件は二審も大学側の責任認めぬ判決


私はこれまで、毎年、「顔も名前も知らない彼」に向けて、ブログを書いてきました。


2016年8月

"レズビアン"の私から、顔も名前も知らない"ゲイ"の彼へ。

2017年8月

彼が亡くなって2年。また、彼のいない夏が来る。

2018年8月

今年もまた、彼のいない夏が過ぎてゆく

2019年8月

令和最初の夏、彼のいない夏

2020年8月

"新しい生活様式"で、彼の命を守れるか



「顔も名前も知らない彼」のために、私が毎年こうやってブログを書くのは、

もしかしたら彼は私だったかもしれない」(=私も彼のように死を選んだかもしれない)


と今でも心から思うからだし、幸運にも今日まで生き残っている同性愛者の1人として、

二度と彼のような死を遂げる人がいないように頑張らないといけない


と使命感のようなものを(勝手ながら)感じるから、かもしれないです。


私は、この1年で彼の裁判が大きな影響を残したと考えています。

それは、彼の裁判自体は棄却されてしまったものの、彼の事件を通してアウティングの危険性が裁判で認められたからです。

アウティング
=  ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーなど(LGBT / LGBTQ+)に対して、本人の了解を得ずに、他の人に公にしていない性的指向や性同一性等の秘密を暴露する行動のこと。


2021年には、職場でのアウティング被害を申し立てていた東京・豊島区の男性に、会社が謝罪し解決金支払うことになったと報道されました。

善意でも危険。職場で同性愛暴露され精神疾患に。豊島区に救済を申し立て


職場で「アウティング」被害者に会社が謝罪 解決金支払う 東京

『アウティング』という行為とその危険性が、彼の裁判からより広く認識され、認められつつある社会に、少しずつですが、なっていると感じます。




彼の裁判以外には、この1年でこんな変化がありました。

・パートナーシップ制度がさらに拡大

自治体が同性カップルなどの申請したカップルを婚姻に相当する関係と公認する制度であるパートナーシップ制度が、日本各地の自治体で導入が進められてきました。

2021年7月現在、全国111自治体に導入され、日本の全人口の38%以上の人たちが、パートナーシップ制度が利用できる地域に住んでいることになります。

【最新情報】
全国パートナーシップ制度導入済み自治体状況!(2021.7.16 更新) 


また、2021年3月末現在、日本全国で1741組がこれらのパートナーシップ制度を利用して、各自治体からの登録を受けています。

パートナーシップ制度 登録件数の経年変化



・ファミリーシップ制度も開始

同性カップルなどのカップルを対象としていパートナーシップ制度ではなく、その子どもを含めた家族の形で自治体が公認するファミリーシップ制度が、2021年1月に兵庫県明石市で始まりました。

「ファミリーシップ制度」同性カップルの子も公認 全国の自治体で導入加速


その後、東京都足立区・愛知県豊田市などでも制度が始まっています。

LGBTを対象とした「豊田市ファミリーシップ宣言」制度を開始します


また、上記のパートナーシップ制度・ファミリーシップ制度が導入されていない自治体では、署名活動などが立ち上がり、各地でLGBTQ+など多様な家族の在り方への周知を求めています。

私の地元・愛知県でも、「愛知・岐阜にパートナーシップ制度を求める会」という団体が立ち上がり、愛知県・岐阜県の市民の声を集めました。

偏見や無理解に切実な声 愛知・岐阜、性的少数者らの団体がネット調査

特に、東京・足立区では、現職区議がLGBTQ+に対する差別発言を行ったことから問題がより提起され、パートナーシップ・ファミリーシップ制度ができました。

「LGBTばかりになると足立区が滅ぶ」東京・足立区の自民党議員が差別発言

足立区LGBTガイドライン

足立区パートナーシップ・ファミリーシップ制度



しかし一方で、このようなことも起こりました。


LGBTQ+に対する差別発言を行った足立区の区議はクビになっていない

LGBTQ+に対する差別発言を行った足立区の白石正輝区議は、2021年8月現在も区議の職に就いたままです。

当初は、「謝罪する気は全然ありません」「そういう圧力をかけようとすること自体が間違っていると思います」などと発言し、謝罪や撤回はしない姿勢を見せていましたが、その後区議会で謝罪しています。

足立区議、同性愛への差別発言を謝罪、撤回。「認識の甘さによりたくさんの方々を傷つけた」


日本初のLGBTQ+に関する法律として審議中だった「LGBT理解増進法案」の国会提出が自民党の反対により見送り

与党である自民党内でも5年以上の議論を重ね、与党と野党の超党派の協議でいったんは合意したはずの「LGBT理解増進法案」の国会提出が、与党・自民党の反対により見送られました。

自民に大幅譲歩したのに自民がつぶすLGBT法案 保守派の抵抗激しく…今国会の提出断念

「差別は許されない」はダメ?
LGBT法案に揺れた自民党



自民党が提案し自ら潰した「LGBT新法」をめぐる「6年間の経緯」


この法案の審議中には自民党議員から「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」など、数々のLGBTQ+への差別発言があり、大規模な署名運動や東京・永田町にある自民党本部前での抗議運動に繋がりました。

LGBTは「種の保存に背く」と自民会合で差別発言 ⇒ 撤回と謝罪を求める署名が3万筆以上も集まる


署名は最終的に9万4000人以上集まり自民党側へ渡されましたが、受け取ったのは党職員でなく、党本部の庁舎管理を請け負う職員でした。

差別発言をした議員本人や審議に関わる議員でなく、議員でもなく、党職員でもなく、自民党の建物の警備を行うだけの人(=今回の署名に関しては無関係の方)が受け取ったのか。

署名の重みを軽視し、LGBTQ+の人々の存在を卑下に扱う自民党の方針が見えるように感じました。

「命を守る法律を」LGBT法めぐり抗議集会 自民党本部前で300人

「何でこんな国に生まれたんだろう」LGBT差別発言に約9万4千の抗議署名

LGBT差別議員は「辞職を」 抗議署名9万筆、自民党に提出

※2021年5月30日の自民党本部前LGBT差別抗議デモに参加した際の写真




私は2016年から、名古屋市を中心に「メディアやネット上だけじゃなくて、安心して安全な場所で、LGBT当事者の人と会って話してみたい」という高校生・大学生たちの気持ちも踏まえて、

"LGBT当事者やLGBTかもしれないと悩む人たちが気軽に集まって、実際に会って話せる場所"


であることを大切にして、LGBTQ+当事者やLGBTQ+かもしれない若者の居場所・名古屋あおぞら部を運営してきました。

※名古屋あおぞら部についてはこちら
→ 【名古屋あおぞら部】3周年のお礼とこれまでの活動のご報告


そのため、新型コロナウイルスの影響で、不特定多数が匿名で集まるという従来の方法での開催は厳しいと判断して、2020年度は名古屋あおぞら部の開催がほぼ全て休止となりました。

もしクラスターが発生してしまったら?

もし参加者に感染者がいて、参加者に関する情報が新聞などに載って、地元に知られてしまったら?


主催者として、そしてLGBTQ+当事者の1人としてそう考え、やむを得ず休止していました。


依然として感染者数が少なくない愛知県で、"参加者の皆さんのプライバシー"と、参加者の皆さんの"セーフティーネットとしての安心して出会える場所の必要性"と、どのようにバランスを取って運営していくべきか。

悩みながら休止を続けていましたが、徐々に、参加してくれていたLGBTQ+当事者、または、LGBTQ+かもしれない若者たちの状況が心配になってきました。

SNSだけでは、彼らの状況が1年間ほとんど掴めずにいたからです。

そのうち、SNSを介してだったり、LGBTQ+かもしれない若者たちの周りにいる大人たちを介してだったりから、

そろそろ限界だから、名古屋あおぞら部を早く再開させて欲しい」

と連絡をもらうようになりました。

そこで運営再開を決め、2021年3月から従来通りの「不特定多数が匿名で集まる」という方式で再開しました。


(コロナ以前の名古屋あおぞら部の会場の様子。
狭い和室に集まってお菓子を食べながら、談笑したり相談をしたり、時には寝転がったりふざけ合ったりして楽しい時間を過ごしていました。)


名古屋あおぞら部を2021年3月に再開してから今日まで少し時間が経ち、少しずつ、名古屋あおぞら部を休んでいた1年間(= LGBTQ+かもしれない若者たちの行き場がない状態が続く期間)で何があったのか、理解できてきました。

これまでなら、悩み始めの段階で名古屋あおぞら部などのリアルな場で他のLGBTQ+かもしれない若者たちに相談できて、大事まで至らずに救えたようなケースが、初期段階で支えがないまま1年以上が経過し、家族関係や交友関係、そして何よりLGBTQ+かもしれない若者本人の心身の健康状態が著しく悪化しているケースに何件も遭遇しました。

また、私の体感ではありますが、名古屋あおぞら部を始めてからのこの5年間よりも今の方が精神的に不安定な子が多いように感じていて、この活動を止めるわけにはいかない、と強く感じています。



もちろん、マイノリティに限らず、精神的に不安定になっている人が多い時代だと思います。

コロナで仕事も生活も変わってしまって、娯楽や息抜き、生きがいを失ってしまった人も多くいます。
私自身も息抜きとしていた趣味や旅行が長らく十分に出来ずにいます。

うまく息抜きができず、仕事で追い詰められ、休職に追い込まれている同世代の友人が、いま私の周りに何人もいます。



これらの状況を踏まえて、名古屋あおぞら部を休んでいた1年間(= LGBTQ+かもしれない若者たちの行き場がない状態が続く期間)の影響が、心身の不調などの形でこれからより顕著になっていくのではないか、と感じています。


(最近名古屋あおぞら部で使用している、イーブルなごや2階視聴覚室)


LGBTQ+を取り巻く社会は、確かに変わってきました。

LGBTQ+に明らかに差別的な発言をする議員がいれば、瞬く間にSNS上で炎上し、LGBTQ+を差別しないように訴える声がたくさん溢れます。

LGBTQ+を取り巻く制度も、確かに変わってきました。


でも、今日でもLGBTQ+に明らかに差別的な発言をする議員はクビにならずに議員を続けているし、国会に法案の提出すらされていないし、戸籍上同性同士の婚姻はおろか、パートナーシップ制度ですらも導入していない自治体が依然として全体の約60%もあります。


そして、何より。

教育現場と家庭という、LGBTQ+の若者にとって大きな壁になりやすい2つの場所は、いまも抜本的な変化は遂げることができていません。



社会が変わることも、制度が変わることも、もちろん重要です。

ただその上で、教育現場と家庭、すなわち皆さんの周りにいる家族や先生や友人など身近な人たちの意識を変えていかないと、彼のように死を選択するLGBTQ+の若者を完全に止める事はできません。


どうしたらLGBTQ+の若者を救えるか。




"新しい生活様式"に「慣れたフリ」をして無理をしたまま、彼が居なくなって6度目の夏が過ぎていきます。




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