坐位の座り直しについて考察【前編】
人間の基本的活動はほとんど座位姿勢で行われる。
以前回復期病棟に勤務していた時は脳卒中患者を多く受け持つことが多かったが、あまり良い姿勢といえない状態の方が多いと感じていた。
そこで今回は今まであまり取り上げられてこなかった脳卒中患者における「座り直し」について運動学的側面や神経的側面から考察していこうと思う。
記事が長くなるため2回に分けて執筆していく。
坐位の役割
直立立位はヒト特有の姿勢であることは学校で習ったことがある人が多いだろう。
犬も猿も座ることはできる。しかしヒトの座位姿勢はヒト特有である。
骨盤を立ててその直上に体幹が乗るような坐位姿勢を取れるのはヒト以外いないのだ。
ただ我々人類は座るように進化してきたわけではないと思われる。実際に、腰椎椎間板の圧は立位と比較し坐位の方が高いと言われている。
直立立位では骨盤も直立し、坐位では骨盤が20~50°後傾するので、坐位姿勢では椎間板の前方へ偏った圧が常にかかり続ける。
私たちの生活と坐位は密接に関わっているので坐位を取らないという選択肢はほとんどない。
問題は脳卒中などの疾患により骨盤の左右傾斜・後傾したままで長時間座ること、坐位姿勢から動けない(座り直しができない)点にあると考えている。
坐位はどうやってとっているのか
坐位姿勢には様々な構成要素が含まれている。
・足底、坐骨など地面に触れている部分への圧、同部位への床半力
・前庭感覚や視覚情報、体性感覚情報の統合による垂直の知覚
・網様体脊髄路、前庭脊髄路による姿勢制御系の作動による抗重力筋の伸張反射の興奮性増大
・腰椎骨盤リズムによる座面への柔軟な適応力
ざっと思いつくものを列挙してみたが、これだけでも複雑なのがわかる。
では脳卒中患者の坐位姿勢とはどんな特性があるのか?
脳卒中患者の定型坐位姿勢
前額面上の問題でいうと
・頭頸部、体幹、骨盤の麻痺側への傾斜
・麻痺側肩甲帯の下制
・麻痺側股関節外転、外旋、足部接地不良
・脊柱の麻痺側への回旋
矢状面上の問題でいうと
・骨盤後傾とそれに伴う脊柱全体の屈曲
・頭頸部前方突出
当然姿勢には個別性があり、パターンで姿勢を見ることは危険だが多くの脳卒中患者に当てはまる内容である。
端坐位での移動(座り直し)について
坐位の座り直しで必要な要素とは何か?
今回は車椅子上での座り直しに絞って考察していこうと思う。
座り直し動作を構成している要素はやはり「起立」と「着座」
この二つだと考える。
しかしながら患者さんも私たちもどこか別の運動として捉えてしまっていることが多い気がする。
今回は前提知識の共有のためCOP、COMについてまで解説する。
COPとはCenter of pressureの略語で圧力中心のこと
COMとはCenter of massの略語で質量中心のこと
地面と接地している部分には垂直抗力が働いており、それらを囲んだ部分が支持基底面(BOS:Base of support)となる。垂直抗力をそれぞれ結んだ中間地点がCOPである。
COMに対して地面から垂直に引いた線をCOG(Center of gravity)という。
COMとCOPが離れた状態で動こうとすると各関節へのモーメントが増加し必要とされる力は大きくなる。
起立着座に関わらず、動作を見る上でこの視点を持っていると役に立つので覚えておくと良い。
今回はここまでとして、次回脳卒中患者の座り直しでよくあるパターンについて解説していく。
おかげさまで最近は歩行についての記事が好評いただいている。
ぜひ時間がある人は目を通していってほしい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?