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マイ・ライフ・サイエンス(29)「動物の口」

 先日、近くの漁港で月一で開催されている朝獲れ市場に行き、鯖や黒鯛などを購入し、漁師のおじさんにその場で三枚におろしてもらい帰宅しました。アラももちろん持って帰ってきたので、帰宅するや冷凍保存する為に、出刃包丁片手に小口に切り分けていたのですが、まな板の上の大ぶりの鯖の頭を見ながら、鯖の口の形に魅入りつらつら考え「鯖にとっては、この口の大きさや形は、一番理想的な形状なのだ」という結論に勝手に至りました。
 ということは、現在、この地球に生息しているすべての動物の口の大きさと形は、それぞれが生きる環境での理想的な形状に違いないのではと、想像し始めると、なんだか動物口腔形状学の博士のような気分になり、動物の口の形を思い描いていました。
 例えば、カバは主に草原の草や水生植物を食べ、時に肉も食べる雑食性ですが、あの巨大な身体を維持する為には大量の草を必要とするから、あんなにも大きな口なのでしょう。カバの進化過程では周囲には食物となる大量の草が繁殖していたはずで、そうして環境に適したのがあの口の大きさだったのでしょう。鯨もまた同様の環境に適合した種が残り現在の鯨の大きな口になったと思われます。
 では、人間はどうかというと、道具や火などを持たないでいた頃は、この口の大きさで噛み切り咀嚼できるような食べ物に限定されていたはずで、自然界にある木の実や雑穀や貝などに限定されていたように思います。
 やがて、よりカロリー値が高い動物の肉を得ようと考えたのでしょうか、その為に狩猟道具を考えつき、人間の口の形状にはそもそも合うわけがない猪や鹿などの動物や魚を狩猟するようになったと思われます。
 さらに、狩猟道具を考えつく前に存在したのが包丁となる鋭利な石だったのは間違いありません。というのも、鹿を狩ったとしても、このひ弱な口の形状ではガブリと噛みちぎり咀嚼することなどは無理ですから、狩猟道具よりも先に調理道具が存在していたのでしょう。
 やがて、生肉では健康被害もあり、また長期保存もできないという知恵が働いたのか、火を使って炙ったり燻したりしたのだろうと想像します。
 調理道具と狩猟道具を作ることを発見した人間は、その後巨大なマンモスでさえ狩りをして、その肉を切り分け、人間の口の形状に合うサイズに整えてから食べたのでしょうし、それ以降、現在に至るまで、私たち人間は、その口の形状を大きく変化させることなく生存してきました。
 しかし、動物それぞれが、それぞれ環境に適合した口の形状をしているのだと考えると、私たち人間は、本来はこの口の形状に合った食物だけを食べるのがあるべき姿なのでしょうが、牛や豚や魚などのカロリーが高い食物を切り分け火を使って口に運んでいる私たちは、そのおかげで長寿を得たわけでもありますね。
 やがて、狩猟から農耕へと移行すると、米や麦や雑穀や、芋や果実やと、人間の口の形状に適合する食物を安定して得ることになり、人口が増えていったのではないかと思います。
 こうして口の形状やサイズから人類の歴史を省みるのも、たまには良いものです。中嶋雷太

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