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音楽があれば(19)晩夏に聴きたい四曲

 梅雨が明け夏になり「アチー」とか言いながら、気づけばお盆が終わり、晩夏となります。
 実は、この晩夏になって、ようやく夏の曲を聴きたくなります。夏の始まりではなく晩夏なのは不思議ですが、おそらく夏が過ぎゆく季節に寂しさを覚え、私としては珍しく少しだけメランコリックになるようです。
 毎年、この晩夏に聴きたくなる曲は、その年々で変わりますし曲数も数十曲はのぼるのですが、必ず聴きたくなるのが四曲。吉田拓郎「祭りのあと」(1972年)、井上陽水・安全地帯「真夏の終わりのハーモニー」(1986年)、サザン・オールスターズ「真夏の果実」(1990年)、そしてMONKEY MAJIK「空はまるで」(2007年)です。
 これまで何十回も経験した晩夏は、わーっと開放感あふれて過ごした夏を終え、ある種空虚感が募るころあいで、小学校のころの体験、つまり長い夏休みが終わり二学期に入る直前の憂鬱が、その根っこにあるようです。
 やがて、中学・高校・大学と、親の手から離れた自由気ままな夏を謳歌したあとの晩夏となります。そして社会人になると、学生時代のようにそんなには長く休めないものの、わずかな夏休みをとって楽しみ、仕事へと戻ってゆきます。
 こうした数十年もの晩夏の積み重ねがあり、その都度感じてきた空虚感が背景にあって、私の心はメランコリックになるのでしょう。
 では、この四曲を何故鉄板のように聴きたくなるのか…ですが、「祭りのあと」は私の初恋にからんでおり、「真夏の終わりのハーモニー」と「真夏の果実」は成人としての恋愛にとても密接にからんでいます。その詳細はいつの日か語るとして、それでなくとも晩夏という切なくて空虚感溢れる季節なのに、具体的に進行する恋愛のタイミングに現れたのがこれら三つの曲でした。生きていると、その時々の心象風景にピタリと合う曲があるものです。
 この三曲とは異なり、「空はまるで」は、純粋に良いなぁと思った曲でした。ロサンゼルス事務所の所長として駐在を終え帰国したのが2003年で、グラミー協会の会長やスタッフたちと長年仕事もやってきて、ロサンゼルス駐在で私の音楽性もかなり深まったと思います。そうしたころあいに、上手くは言えない感覚ですが、私が聴きたい曲のイメージが夏雲のように湧き上がっていました。
 そして、数年後、2007年のある日、「空はまるで」に出会いました。「そうだよ、この感じ!」と喜んだ私は繰り返しこの曲を聴いていました。ちなみに「この感じ!」の流れとしてその後に現れたのが2009年のtrain「Save Me, San Francisco」と「Hey, Soul Sister」です。それまでのハードロックやヒップホップの大きな流れと異なる、心の開放感に溢れる「この感じ!」の曲たちで、グラミー賞も受賞しました。
 さて、2023年の晩夏です。
 もちろんこの四曲を聴きながら、去り行く夏をメランコリックに楽しむでしょうが、久しぶりにギターを奏でてみようかと考えています。今夏は一回もギターに触れなかったので、左手の指先はふにゃふにゃですけれど、爪弾く感じが、ちょうど「この感じ!」にピッタリでもあります。中嶋雷太

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