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【読書会感想】いろいろセンスオブワンダー

 noteの記事が縁で、読書会に参加させてもらっている。私は月イチペースで同じ学習支援のボランティアに参加している方々を対象に読書会を開催しており、一応私が司会役を担っているが、毎回かなりテキトーな進行である。「みなさん、思ったことは言ってくださいね」と言い、そのとおり自分が一番言いたいことを言っている。
 先日の読書会は、参加者がテーマに沿った本を紹介する形だったので、私が開催している読書会と同じスタイルだった。進行の方が抑制のきいたコメントを紹介が終わるごとにしてくださって、そのコメントが大層よくて、とてもいい気持ちで参加させてもらっている。ありがとうございます。

 読書会のテーマが「感情とは何か」だったことから、私は好きな歌集を紹介するつもりであった。というのも、テーマを聞いたときに即座に思いついたのが坂井泉水や宇多田ヒカルの歌詞だったので、彼女たちの歌詞や詩、短歌の話をしようかな、と思っていて、短めの紹介の準備もしていた。
 ところが、前夜に読んでいた六車由実『驚きの介護民俗学』がとてもよくて、最初に本を紹介をしてくださった方の話を聞いているうちに、最後まで読み通していないにもかかわらず、こちらの本の紹介がしたくなってきた。最初の方のお話を、感情は自分の内側に留まるものでなくもっと外に開かれたものであり、言葉によって理解し味わうことが出来る、というように聞いて、六車氏の高齢者施設での言葉の収集の話がしたくなった。まぁ、単純に読んで面白かった本の話を聞いてもらいたかったのです。

 私が本を読んでよかったなと思うことは、自分の感情を観察する術を身につけられることだ。「言葉」に落とし込むことで、私は私の感情を理解することが出来る。そして、言葉にならない感情が豊かに広がっていることを理解出来る。

 六車由実『驚きの介護民俗学』

 筆者は介護の現場に、利用者の生活改善のための情報収集とは異なった、民俗学の文脈に連なる好奇心に基づく情報収集の態度を取り入れた。介護現場の中で、民俗学的視点から利用者の方々の生き方を見出す。

 タイトルに「驚き」とある。聞き書きでは、聞き手の態度の中に「驚き」があることが重要だが、驚き続けることは難しい。このことについて、筆者は民俗研究者としての矜持と知的好奇心で向かい合っていく。聞き手の驚きが、話者と聞き手に介護される・する側とは違う回路をひらいていく。

 筆者は高齢の女性が昔組紐を編んでいたことを知り、やって見せてもらおうとして、昔と同じように手指が動かないことに彼女は消沈してしまった。ならば自分が教えてもらおうとしたが、不器用で覚えが悪く、教えるのは難しいね、と彼女はまた肩を落としてしまう。筆者は翌日の休日一日使って何とか編み上げ、出来た組紐を女性に見せると女性は「いい子だ」と言って優しく筆者の頭をなでてくれる。筆者のこういった真面目さが文章の端々から伝わってきて、それがとても良かった。私はずっとワクワクしながら読んだ。レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』を思い出していた。

 学習支援の教室に、あるカードゲームが大好きな子がいる。あんまり楽しそうなので、そのゲームのアプリを入れて数回やってみたが、どうにも興味が持てずルールが全然頭に入らない。その子には、「やってみたがルール覚えられんかった」と言い、「そういうこともあるよね」と言われた。先に生まれた者の矜持と好奇心でこのゲームに向かい合うことも出来たのかしら、と思う。

 次回の読書会のテーマは、「自由とは何か」だという。私が勉強が大事だと思う理由は、勉強すると自由になれるからだ。来月ほかのみなさんの話を聞けることをとても楽しみにしている。