見出し画像

【カコメンのみなさまへ】オンライン読書会の報告(第5回)

第5回オンライン読書会を開催いたしました。

今回紹介された本について、私の目線からご紹介します。


りえ:笹井宏之『えーえんとくちから』

 好きな短歌を6首選んで、それを画面に映しながら、笹井さんの作品の好きなところを紹介しました。はじめさんから、「短歌ってあまり触れて来てないのだけど、どうやって読めばいいの?」という質問が出て、私は一瞬フリーズ後、質問の新鮮さに感動しました!26歳で夭逝した彼の創作は『ねむらない樹』という短歌の雑誌名に受け継がれています。「えーえんとくちから」は私が困ったときに唱える呪文。


しゅんご:上間陽子『裸足で逃げる』

 大学で教えながら、沖縄で女性支援を行っている上間さんの著作。上間さんの『海をあげる』はYahoo!ニュース本屋大賞2021年ノンフィクション大賞を受賞して話題になりました。上間さんが、話を聞く相手に温かいものを飲ませる、帰り際にちょっと高そうなお菓子を渡す、といった点から本の紹介が始まったことに、取材することを仕事にしている人の着眼があるなあと思います。私も読んだことがあり、カコメンからこの本が紹介されたことがとても嬉しかったです。


はなたん:河合香織『選べなかった命~出生前診断の誤診で生まれた子~』

 出生前診断が広がっていく中で、誰にとっても他人ごとではない事件、裁判だと思います。はなたんが職業柄気になっていた本で、大変重い内容だけど大事なことなので紹介することにしたとのこと。少なくとも、否応なく決断を迫られる立場に追い込まれたときに、社会的に支援があってほしいと思いました。


はじめ:金田信一郎『がん治療選択』

 食道がんの診断を受けた著者が、自身の治療法を選ぶにあたり、様々に情報収集し取材し、自身の心情についても語った本。はじめさんが仕事関係で読んだ本(たくさんあった)の中からの一冊です。取材対象がその道の第一線で活躍されている方々なのがすごい、というはじめさんの実感のこもった感想が印象に残りました。


 今回は社会人メンバーがそろい、私以外は自分の仕事にまつわる本が紹介されたと思います。各々の仕事への向き合い方、どんなふうに本を読んでいるかなどが窺える会となり、今回もとても楽しかったです。参加してくださった方、ありがとうございます。      

 春なので、4月は読書会開催回数を増やしてみようと思っていて、参加してくださる方がいたら、あと2回やりたいです。紹介したい本がちょっと思いつかないなぁ、という方は、本の紹介なしでも構いません。楽しくやりましょう。よろしくお願いします。


 以下、『えーえんとくちから』や読むことや私の成り立ちのこととか考えています。恥ずかしげもなくクソ真面目に書いております。

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす    笹井宏之

 私はこの歌が大好きで、純度が高すぎて死にそうなくらいの愛の歌と思っている。わたしは一本の樹で、どこへでも行けるあなたが自分のそばで休んでいるその時に、木陰にあなたを入れながら実を落とすくらいのささやかさで愛を伝えている。

 このイメージの背後にはシェル・シルヴァスタインの『おおきな木』の無償の愛や、ワンピースが想起する無垢さ、実を落とすという間接的な交流から感じる自制があり、それらの関連を考えた時に立ち上がってくるのが私にとっては先述のようなイメージである。

 笹井さんの作品を読んでいると、自分と周りの事物との境界が曖昧になるところがあって、風、自転車、まくら、大きな何か、が自分でありあなたでありみんなである、といった不思議な気持ちになる。それは、私が私になる前の、居間の陽だまりの中の、キラキラ舞い上がる埃を見ていた時間の中にいるような気持ち。作者と作品の関連をどうとらえるかは、丁寧に考える必要があると思うが、彼の身体が弱かったこと、長い時間を過ごしたであろうベッドを想うと、そういった弱さ、儘ならなさこそが、逆に振り切れた形で彼の作品世界を作っていて、その世界が私とも繋がっている感じがする。人が人と繋がれるのは、弱さや儘ならなさからではないか。

 短歌をどうやって読んでいるか自分なりに考えると、短歌の言葉から思い起こされるものとそれらの関連を読んで、そこで読み取ったイメージの根拠や妥当性をもとの言葉に戻って確かめ、言葉とイメージの間を行きつ戻りつしながら、生まれた作品世界を味わう。読み取るイメージは私のこれまでの経験に基づいているので、他の人と全く同じということはないし、自分の中でも塗り変わったりする。こう書くと、短歌を読むときに限らず、日々常にしていることだよと思う。

 そういった行きつ戻りつ味わうことの土壌の上に、私は、傷ついた少女の言葉をどうやって聞くか、私は、出生前診断にどう向き合い何を選ぶのか、私は、治療法の選択や自己決定をどうしていくか、が成り立っていくと思っている。

 あと、話は飛ぶけれども、一瞬のフリーズ中、「え、だって問答無用で良くね?」って実はちょっと思ったけど、「わかって当然、というのは変だし、良さを説明できないのも確かに変よな」と思ってフリーズは解けた。よかった。