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僕が慶應義塾普通部を受けた時

慶應義塾普通部を受けた理由、それはただ一つ。「親が急に言い出したから」早稲田中が第一志望だったはずの僕だが、自分の行きたい学校ってのがいまいちなかったのもあり11月ごろいきなり変更されたことにも大して驚きもせず「そうなんだー」くらいでしかなかった。

僕が受けた時はまだ今の慶應義塾中等部みたいに1日の1次を合格した子だけ3日に行われる2次に進む形式だった。そして中等部は5日が1次だったのだ。長期戦にも程がある……

試験当日、見に行ったこともなかった僕と大学の日吉キャンパスで行われた説明会しか聞いていない母。なんと校舎の場所すらよくわかっていないまま向かった。僕は当時まだ旧校舎であったボッロい建物を見て「ここが俺の第一志望……?テンションあがらないわぁ」とか生意気なことを思っていた。

朝早かったせいか試験開始直前まで爆睡かましてしまっていたのと、クーラーないくせにストーブだけやたらある教室でストーブ真横の席を当てられた僕はストーブの熱と背中に貼った貼るカイロの熱で1教科目(国語だったと記憶している)で滝のような汗をかき、死ぬ思いをした。セーターの下、背中に貼ったカイロを取りたい……しかし「試験中に背中に手を回してゴソゴソするのはヤバいのでは……?」と考えてしまい、読解ではなく流れ出る汗と格闘していた。算数はまるで覚えてないが、社会は香港返還のことが出題されたような……違う学校だったか?理科は「虫取りに行く時に必要なものを全て選べ」みたいな問題が出て「この学校なんなんマジで……」と思ったことを覚えている。

算数と理科爆死した気がしたが、国社が破壊的に得意だった僕は無事一次を通過した。確か世田谷学園を受けに行って帰りに見に行った気がする。日が暮れ始めた中で掲示板にあった自分の受験番号を見つけた時はなんとなくホッとした。

2次では面接、図工、体育があった。まだ図工があった時代だ。図工では「色とりどり形様々な発泡スチロールと竹ひごで生き物を作れ」というお題が出た。僕は何故か即座に亀を思い浮かべて一生懸命作った。自分の作品を見て「なかなかの出来かもしれん……」と思ったのだが、僕の横にいる子が花を作っていたのを見て、「天才か?植物だって生きてるよなぁ!」と心の中で思った。入学してからもその子は優秀だった。

そして衝撃だったのは僕の前にいた子だ。その子は車を作っていた。「く、車…?え、え……?お題、生き物じゃないの?いや、車じゃないのかも……なんか他の生き物なのかも」と思ったが、その子は車輪を指で回して「ヨシ!」と言っていたので絶対車だった。僕の記憶違いでなければその子とはそれきりだ。でも何かクリエイティブな仕事をしていてもらいたいなと思う。

体育では、
①ハンドボール投げ
②20mくらい先のコーンまでバスケットボールを持って走り、帰りはドリブルして帰ってくる
③マットと跳び箱運動
をやった。
①はあまり自分が投げた記憶がない。なんとなくうまくいかなかったような気がしている。
②は、行きも帰りもドリブルしていた子がいたのを記憶している。ドリブルができない子もいたが、最後まで頑張っていたその子は同じクラスだった。バスケが得意だったので心はすっかり山王の沢北になっていた茂山少年は張り切ってドリブルした。ドリブルのうまさはさして関係なかったような気がしている。
③は前転した後に飛び箱の上に乗って降りるという誰でもできそうなものだったが前転ができない子がそれなりにいた。跳び箱から降りる時、見本を見せてくれた人が手をピンと伸ばしてポーズを決めていたのをみて「これが合格の秘訣だ!」と勝手に考えた僕はえげつないくらいに指ピンをした。そして多分そこは誰も見てなかった気がする。

面接では自分なりに色々想定していた。通っていた塾では普通部に行った子がおそらくいなかったのか面接練習をしなかった記憶がある。まぁ西葛西にある小さな塾だったし。本屋に売っていた本か何かを参考にして想定問答集的なものを手書きで作っていた。志望動機とか、特技とか、なんか一般的なやつだ。
3対3くらいのグループ面接だった。それなりに身長の高い方だったのだが、同じグループの2人は僕よりデカかった。一人はとてつもなくデカかった。

最初は志望動機や入りたい部活などで自分の想定問答集通りのことが聞かれ「俺すごくない?当たっちゃってるじゃん」とか思っていた。浮かれていた。次の質問が来るその時までは。

面接官(のちの1年の国語の先生)「では次に、リンゴとミカンはどっちが好きですか?その理由もあわせて答えてください。では茂山君」

はにゃ?

………は?リンゴとミカン?りんごとみかん……ringotomikan……燐誤兎身漢……いや、知らんがな。で、理由?

茂山少年は混乱した。載ってない。「僕の考えたさいきょうの想定問答集」にはそんなこと載っていない。しかし黙ったらダメそうな気がしたのでとりあえず、
「み、みかんです。」
と答えた。

面接官「理由は?」

理由ーー!!理由なんてねぇーよ!好きだから好き!それじゃダメなんですか!!てか林檎嫌いなんだよ!あの噛んだ時の「はしょおあ」って感じが苦手なの!
と、悪態つきたくなったが、頭をフル回転させて理由を考え、会心の答えを0.0002秒で構築した。

「受験までの間、こたつで勉強をしていて、夜、母がこたつに持ってきてくれたみかんがとても美味しく、印象に残っているからです」

こたつ無いです。ごめんなさい。うちの親はリビングで僕が勉強してようがテレビを見て笑っていました。時効なので許してください。

乗り切ったぜ。最大のピンチを乗り切ったゼェええい!

面接官「では隣の……」
A君「りんごです。理由は……」
B君「僕もりんごです。なぜなら……」

は?何?りんごが正答なん?みかんアウトなの?慶應はみかんダメなんですか!?と少し焦った。でもなんとか乗り切った。もう大丈夫だ……

面接官「では、茂山君。山と海はどちらが好きですか?理由……」

いやぁあああ!ナニコレェ!

「海です!何故なら僕はぁ……」

A君「僕は山です。何故なら四季折々……」
B君「僕も山です。理由は……」

ふざけんなぁ!なんで俺だけ答え違うんだぁ!不正だろ!死んだわぁ!てかなんで2連続で俺からなんだよ!



3人とも無事受かってました。入学後は違うクラスだったけど。いやーしかしいい思い出だ。楽しかったなぁ。

25年ほど前のなんのためにもならない受験体験記でした。よく覚えてるねと良く言われるが、毎年のように話す、擦り倒した鉄板ネタなのです。

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