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私にとってフィール調査の鍵となるのは・・・

私の研究分野である比較教育学の研究にはフィールド調査が欠かせません。文献調査ももちろん重要ですがそれを現場で確認し、検証する必要があります。さらに私のように教育現場に還元できる研究をめざす者には現場に足を運んで調査することが必須です。だから私は修士課程の時から毎年のように海外調査に出かけました。少ない年で年に2回、多い時は3,4回行きました。家庭を持つ私は長期で滞在することができません。高齢の母の世話もしていましたので長くても3週間が限界です。だから短期の調査を細切れで年に数回行う結果となりました。

研究を始めたばかりの私はフィールド調査の技法を知りません。調査に必要な人的ネットワークもありません。関連する文献を片っ端から読み、先生や先輩に教えてもらいながら調査方法を学びました。そして自分に合う方法を見つけました。それは足をフルに使うことです。そしてどんな小さな機会も無駄にしないことです。

研究対象とするオーストラリアでは学校、大学、行政機関、社会教育施設、公的および私的研究機関などさまざまな場で行いました。人脈のない私にはゼロからのスタートでした。「だめでもともと」と思いながら日本からメールでコンタクトを取り自己紹介から始めましたが、どこの馬の骨ともわからな一院生の私に対してもたいていの人は丁寧に、そしてすぐに返事をくれました。そして会う日時を設定してくれます。それは大学の先生であっても行政機関のスタッフであっても同じです。教育省の人も訪問を受け入れてくれるました。日本で文科省の人が同じような対応をしてくれるとは思えません。両国の大きな違いを感じました。

実際に訪問した際も驚くほど親切に対応してくれます。情報は惜しみなく提供してくれますし、質問にも丁寧に答えてくれます。英語力が足りず私が理解できないでいるときはわかるまで説明してくれます。多民族国家だからでしょうか。また国民性なのかわかりませんが役人や大学教授であってもみんなフレンドリーです。初めての人に会う場合でも日本のように緊張することはまずありませんでした。

情報収集で大事なことは必要以上に気を遣わないことです。率直に何でも聞いてみることが大事だと感じました。ほしい情報があっても遠慮して求めなかったり、聞きたいことがあっても失礼ではないかと気を遣って聞かないでいると後悔だけが残ります。だめな場合はその旨率直に言ってくれます。自分が情報を持たないときは提供できそうな人を紹介してくれたり、実際に連絡を取ってくれたりもします。こうした親切にどれだけ助けられたかわかりません。

研究テーマから私は大学を訪ねることが多かったですが、同国では大学の先生もフレンドリーな人が多いです。権威をひけらかすような人には会ったことがありません。私はある州の複数の大学を調査対象にしていましたが、いずれの大学でも多くの先生と会いました。研究室やカフェでインタビューさせていただくことが多かったですが、授業に参加したり、学生と懇談したりもしました。個人的に親しくなり自宅に招いてディナーをごちそうしていただいたこともあります。2週間の調査でホームステイをさせてくださった教授もおられます。感謝の気持ちしかありません。

学校現場を訪れることも多かったです。学校で調査をする場合は原則として教育省に申請をして許可を得る必要があります。でも私の場合は先生との個人的なつながりを使って訪問することが多かったです。もちろん校内に入るときは学校長の許可が必要です。

個人的なつながりというのは、私がそれまでたびたび日本の中高生を引率して海外を訪れていたのですが、その際に築いてきたものです。オーストラリア、アメリカ、イギリスが中心でした。ツアーにはたいてい学校体験が組み込まれており、日本人生徒は現地の生徒と一緒に授業を受けます。引率者の私は教員室で待機していることになっているのですが、その間も私は動き回りました。生徒が受けている授業を参観したり、校内を見学したり、スタッフのインタビューなどを行ったりして時間をフルに活用しました。2,3週間毎日学校に行くのですから情報はたくさん得られます。日本との違いも肌で感じられます。部屋でじっと待機しているのはもったいないです。一日が終わると疲れてぐったりするほどでしたが情報は山のように集まりました。

日本の学校でも海外研修を行う学校が増えています。学校体験が組み込まれることも少なくありません。私が学校にいる間も日本の学校のツアーとたびたび一緒になりましたが、先生たちはたいていお茶などを飲みながら職員室で待機していました。引率者としてのルールなのかもしれませんが、先生にとっても異文化の学校を体験するまたとないチャンスです。チャンスは有効に使うことをお勧めします。

出会いのチャンスは研究を離れた個人旅行のときにもあります。数年前にオーストラリアの地方都市を旅行したときです。町の博物館を見学していると受付の女性が話しかけてきました。日本にいたことのある女性でした。地元の学校の先生ですが休日のその日はボランティアで博物館の仕事をしていました。私がオーストラリアの学校教育について研究していると言うと、勤務先の学校に来ないかと言います。またとないチャンスだと思い、翌日さっそく学校を訪ねました。校内を見学し、授業を見せてもらい、先生たちと話もしました。彼女とはそれ以来ずっと連絡を取り合い、必要な情報を送ってもらったりしています。小さな出会いが貴重な情報源となりました。

限られた期間の中でフィールド調査を行う私にとって貴重となるのが時間です。相手の都合を考えるとアポイントメントを一日にいくつも入れなければならない日もありました。場所が離れていることも多かったです。通常は電車やバスを使って移動しますが日本のように本数がたくさんあるとは限りません。乗り遅れたら次の電車やバスまで長時間待たねばならないというのは一般的です。だから乗り遅れないため走ることがよくありました。調査は体力勝負でした。ランチを食べる時間がなくてサンドイッチをかじりながら移動することもありました。

フィールド調査は他人のやり方がそのまま自分にも適合するとは限りません。自分なりの方法を見つけることが重要だと実感しました。

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