見出し画像

空白の時間を持つ 

仕事の合間にちょっとぼーっとしているとすぐ言われました。「何ぼーっとしてるの?」「暇なの?」「やることないの?」やることはいっぱいあるのですが。

私はぼーっとするのが好きです。「ボーっと生きてんじゃねーよ!」という言葉が流行っていますが、ぼーっと生きているわけではありません。ぼーっと生きないためにぼーっとしているのです。空白の時間を大事にしているのです。

ぼーっとしていても頭の中では様々な思いが浮かんでいます。良いアディアが浮かぶのはむしろぼーっとしている時のことが多いように感じます。もちろん空っぽの状態のときもあります。いずれにしてもぼーっとする時間は自分にとってすごく大事です。必要だと思います。そんなに長い時間でなくてもいいのです。一日に数回、いや一度でもいいからそんな空白の時間を持ちたいと思っています。だから教師をしている時はそんな時間を努めて持つようにしていましたし、生徒にも勧めていました。

学校は分刻みで動いています。授業以外にも様々なプログラムが組まれています。行事も多いです。一つの行事が終わると休む間もなく次の行事に向けた準備が始まります。常に時間に追われているような気がしていました。忙しさの中で自分を見失いそうになることもありました。忙しいと人の話をうわの空で聞いたり、やるべきことを忘れたり、いい加減になったりします。イライラして人を不愉快にさせてしまっているのに気づかないこともあります。生徒とゆっくり話す時間が持てず、相談に乗ることもできません。気がつけば「早くしなさい!」と急き立てている自分がいました。こんなことではいけないなと思いながら流されていることが多かったです。

忙しさの波は生徒の中にも押し寄せていました。授業が終わると委員会や部活などそれぞれの活動場所に向かい、教室でだらだらとおしゃべりをする(だべる)生徒の姿をだんだん見なくなりました。昔は薄暗い教室で「恋バナ」など楽しんだものです。先生の「早く帰りなさい」と生徒の「あと少し!」というやり取りは過去のものになりつつあるように感じていました。帰りの学活をやっているときも「先生、早くして!塾に遅れちゃう」と言う生徒が現れるようになりました。学校、部活、塾、習い事とスケジュールがぎっしり詰まっている子も少なくありません。そんな子どもたちを見ていて心は大丈夫かなと心配になりました。

だから私は折に触れて生徒に言いました。「空白の時間を持とう」と。ほんの少しでよいからあえて何もしない、何も考えない時間を持つことを勧めました。ただ空を眺めてもいいですし、目をつぶっているだけでもいいです。そんな時間を持つか持たないかで気持ちがずいぶん違ってくるように感じます。だから授業を数分早く切り上げて空白タイムを設けることもありました。わずかな時間ですが生徒は喜んでくれました。もちろん授業から解放される喜びもあるでしょう。中にはぐっすり眠ってしまう生徒だっていました。

最近は教師の忙しすぎる状況が問題にされ、教師の働き方改革が進められています。確かに教師は忙しいです。私が教師だった頃も忙しかったですが、今はもっと忙しくなっているようです。でも、その忙しさは本物でしょうか。意味のある忙しさでしょうか。生徒と向き合うことによる忙しさでしょうか。忙しさの中身が変わってきているように感じます。生徒の指導とは直接関係のないことや教師がやるべき仕事とは思えないことで忙しくなっているように感じます。忙しくて生徒と向き合えないのであれば本末転倒ではないでしょうか。

顔を合わせれば「忙しいね」と言葉を交わします。「忙しい」が合言葉のようになっているようにも感じます。忙しいのが当たり前になっており、忙しくしていないといけないように思う人もいるようです、だから「忙しい?」と聞かれると忙しくなくても「忙しい」と答えます。仕事をしていないように思われないためです。忙しそうなふりをしているということはないでしょうか。忙しいと思い込んでいることはないでしょうか。「忙しい!忙しい!」と言っているうちにいつしか忙しいと思い込んでしまうこともあるようです。こんなことを言うと現職の先生たちからは「現実をわかっていない」と反発されそうですが、先生たちにはあえて多忙感の中身を考えてほしいと思います。そして多忙な状況を抜け出す道を自分で探してほしいです。「無理だ」と言わずに空白の時間を持つ努力もしてほしいです。外部の改革に期待しているだけでは自分を失うことになりかねないと思うからです。

女子生徒の放課後のこんな様子を学級通信に載せたことがあります。

放課後の窓辺でじっと外を眺めるミエちゃん。 思索にふけっているのかな?
こんな時間を持つのはいいね。



この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?