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120 職員室に出入りする業者の人間模様

かつて学校の職員室には様々な業者が出入りしていました。今は受付(事務室)での確認が徹底されており、入校許可を取るのも難しくなっているようですが、以前は容易に出入りできていました。「だれだろう?」と思う人も少なくないように思います。

出入りの多かったのは教材納入業者、保険の外交員、旅行業者、書店や出版社の営業担当、運動部関係の用具やユニフォームなどを扱うスポーツ用品店や制服を扱う衣料品店の業者などです。

保険の外交員はたびたび来校していました。ほとんどが女性でいわゆる「保険のおばちゃん」と呼ばれる人たちです。とても熱心でした。契約している教員を訪ねてくるのですが、その他の教員からも契約を取ろうとしているのがわかります。全員にアメ玉を配り、自分の名前と似顔絵を描いたコピーを置いていました。座席で仕事をしている非契約の教員がいるとアメ玉を手渡しながら笑顔で挨拶をし、ちょっとした世間話を投げかけます。そしていつしか保険の話に持っていきます。そのあたりの話術は巧みです。さらにアメ玉を配るというのがミソです。業者から金品を受け取ることは禁じられているのでアメ玉ひとつだって本来なら許されません。でも小さなアメ玉を問題にする人は現実にはいません。教員はたいてい口に放り込みます。収賄とは言いませんが、食べたら受け取ったことになります。小さなアメ玉で教員との関係を構築しようとする作戦はまさに「おばちゃん」だから考えられるのでしょう。

教材納入業者もよく顔を出していました。特に新年度が始まる頃は必ず来校し、教ごとに教員の机に副教材の見本をどっさり束にして置いて行き、しばらくして注文を取りに来ます。特定の業者が独占的に注文を取ることが多く、新たな業者を開拓することはまれです。複数の業者が入っていることはありました。見本の数は半端ではありません。教材が決まると見本は不要になりますが、活用できそうな見本は教師がそのまま所有し著作権に配慮しながら活用したりします。業者が持ち帰ったり教師が処分することもあります。何年も埃をかぶったまま教材室に置かれることも少なくありません。

複数の教材納入業者が同じ教材を扱っている場合はどちらで購入するか担当教師が決めていました。ある若い女性教師が「〇〇社(教材納入業者のひとつ)の人って何だか気が弱そうで注文も取れないみたいでかわいそうだから注文してあげた」と言うのを耳にしました。業者選定の基準はいろいろだなと思いました。

教科書会社の営業担当が来校し、資料などを届けることもありました。さすがに教科書採択の時期は自粛したようですが、継続して採択してもらうためでしょうか、授業に役立ちそうな情報を一生懸命探して届けていました。

一般の出版社の営業担当もよく来ていました。新年度になると特に新採用教員に狙いを定めて挨拶に訪れ、教育関係の書籍を推薦する光景がよく見られました。新人ばかりのところに集まるので「仕事の邪魔をしないで」と教頭が苦言を呈していたこともありました。

旅行業者は修学旅行や遠足などで関わることが多く、営業担当はたびたび顔を出していました。顧客の対象となる人数が多いのでどの会社も受注に向けて一生懸命だったようです。

小売り業者もたびたび来校していました。いわゆる行商です。海産物や果物を販売する業者なども来校したりして、職員室の一部が出店のようになることもありました。記憶に強く残っているのは東北の海産物を売りに来た若い女性です。東北訛だったのでおそらく東北の地元から来ていたのだと思います。上下絣のモンペ姿で行商という雰囲気の女性だったのですが、で旅回りの役者さながらの前向上をしたかと思うと歌って踊り始めたのです。商品を買ってもらおうと必死だったようですが職員室には異様な空気が流れました。現在では想像できないような光景が繰り広げられました。私にとってはちょっと物悲しい記憶です。


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