見出し画像

ノスタルジック京都:教師にとっても思い出に残る修学旅行がある

学校での難しい問題を続けて取り上げましたが、教師の仕事は大変なことばかりではありません。楽しいこともたくさんあります。こんな年がありました。京都を離れ関東の公立学校で教員となり、修学旅行の引率で京都を訪れたときのことです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2年生の事前学習から準備を始めた修学旅行。目標や行動の約束、服装などみんな生徒たちで話し合って決めました。自主行動のコースづくりを含めて準備に費やした期間は半年近くになります。「自分たちで決められることは自分たちで決めて実行しよう」という合言葉のもとに様々な話し合いを積み重ねてきました。時には話し合いが紛糾し、意見がまとまらないこともありましたが修学旅行を通して自分たちを向上させようという気持ちが生徒たちの中で次第に強まり、難しい問題をその都度乗り越えてきたように思います。特にクラスの修学旅行委員となった学級委員のナオくんとフーミン、班長のタクミ、カズマン、サヤ、アズ、ケイ、メグの8人はすごく頑張ってくれました。学年全体の会議でも積極的にイニシャチブを取ってくれました。拍手!

当日の行動も素晴らしかったです。電車やバスの乗り降りも整然と行われましたし、見学地でのマナーも申し分ないものでした。修学旅行シーズンの京都はどこに行っても修学旅行生に出会います。中には顔をしかめたくなるような行動をしている人たちもいます。でも、生徒たちの行動は私が自慢したくなるほど立派でした。6月のあのうだるような暑さの中で、他校の生徒がジュースやアイスクリームを口にしているのを横目で見ながらみんなはぐっと我慢していました。行動中はジュースなど買わないと自分たちで決めたからです。「買ってもいいんじゃない?」私は思わずそう言いそうになりましたが、生徒が決めたことなので口を挟まない方がよいと思い、「熱中症になるまで我慢したりしないでね」とだけ言ってそれ以上は何も言いませんでした。それにしてもあの時は暑かった。私も完全に参りました。

バスの中はカラオケで盛り上がりました。最初はなかなか歌が出ませんでしたが、一人が歌い始めると他の生徒も次々に歌い始め、大盛況となりました。それにしても生徒たちが意外に古い歌を歌うのに驚きました。
 
ガイドさんと運転手さんに対する礼儀も完ぺきでした。元気いっぱいのあいさつ。質問されたら大きな声で返答する素直さ。降りるときは頭を下げて「ありがとうございました」と言う礼儀正しさ。ガイドさんが説明しようとすると「しーっ!ちゃんと聞けー!」という声が出るのもすごいと私は思いました。乗客がしっかり話を聞いてくれると嬉しいことはガイドの経験から私にもわかります。ちなみに私がアルバイトでガイドをやっていたこと生徒には秘密でした。

もうひとつすごいと思ったのが点呼の早さ。学級委員のナオくんが「点呼してー!」と言うと、魚屋さんのような威勢のいいかけ声で「1班オッケー!」「2班オッケー!」と班長から返事があり、ナオくんがそれに応えて「1班オッケーね、了解!」「2班オッケーね、了解!」と確認して「先生、全員オッケーです!」と伝えてくれます。こんなに早い点呼は初めてです。

さらに、ホテルが近づくとカズマンが自主的に「しおり」を取り出し「みんな、よく聞け-! ホテルに着いたらなあ、まず副班長が部屋の鍵をもらう。次に...」と私の代わりにスケジュールを確認してくれるのです。私はご隠居さんのような気分でした。「自分たちで何でもやるんですね。すごい学校ですね」とガイドさんがびっくりしていました。「でしょ? すごくいい子たちなんですよ」と私も鼻高々でした。

ホテルの部屋は2人用の個室なのであちこちに分かれいて、だれがどこにいるか確認するのが大変です。名簿を見ながら確認しましたが、確認時間になると二人がドアから顔を出して「〇号室です。ぼくたちいますよ」と言ってくれます。なんて気が利く子たちなんだろうと思いました。ホテルでは自由時間がいっぱいあったので、友達とのおしゃべりやお風呂の時間もたっぷりとれたようです。消灯時刻は11時。これもみんな厳守しました。私が鍵の回収に行った時(何かあった時のためです)にはすでにベッドに入っている生徒もたくさんいました。疲れたのでしょう。「消灯後は部屋から出ない」これもみんなに強くお願いしていましたが、部屋を出るどころか12時過ぎに見回ったときにはほどんどの人が寝ていました。私もそのあとベッドに入ってぐっすり寝ました。修学旅行で教師がちゃんと寝かせてもらえるなんて何という幸せでしょう。不眠不休の修学旅行も何度も経験していた私には夢のようでした。

2日目の自主行動は班ごとによい思い出が作れたようです。どの班も無事に帰着してほっとしました。私は龍安寺で各班が来るのをチェックする係だったのですが、待っている間は「女ひとり」の気分、生徒達が来ると再会に嬉しくなるから不思議です。2,3時間しか経っていないのに。ホテルへの帰着時間に遅れた班も学年で1班(それもたったの2分)というのも驚異的です。夜の報告会ではさまざまなエピソードを聞かせてもらいました。

3日目は朝から雨。予報では雨は降らないはずだったのに。三十三間堂と清水寺に行きました。雨でなければもっとゆっくり見られたかもしれませんが、雨の京都も悪くなかったようです。二年坂、三年坂の石畳も雨で風情が感じたようでした。清水寺の地主神社は込み合っていました。みんな恋の成就に憧れます。最後はお土産タイム。八つ橋を10個近く買っている人がいましたが、修学旅行の楽しみはお土産を買うことにもあります。「わかる! わかる!」昼食の湯豆腐もなかなかの味でした。

修学旅行は多くの生徒にとって楽しい思い出です。でもその年は教師の私にとっても楽しいものでした。問題行動をとがめることもなく、夜中にお説教することもなく、気持ちよく終えることができました。私だけでなく他の先生も同じ思いだったようです。出かける前は正直言って心配なこともありました。でも、あれだけ時間をかけて準備したのだから生徒たちの中に自覚が生まれたことを確信していました。そうでなければあんなに素晴らしい行動ができるはずありません。その年の生徒たちに大きな「はなまる」をあげたいと思いました。

チェックポイントでの仕事を終えてホテルに戻る途中、
懐かしい京都御所の中を歩きました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?