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教員を辞めて大学院に進学

私は50歳になる直前に公立中学校の教員を辞め大学院に進学しました。在職中に直面した様々な疑問や課題を解決したかったからです。現場で取り組む努力もしましたが解決できませんでした。そこで決断したのが大学院への進学です。在職のまま進学する方法もありましたが、私はそれを選びませんでした。中途半端になると思ったからです。大学院でじっくり腰を据えて研究したかったのです。
 
研究分野は比較教育学。海外の教育制度や実践を調査し日本の学校教育への示唆を得ることが目的です。私は研修や引率、旅行などで海外に行くことが多く、現地の学校を訪問することがたびたびあります。その際に感じるのが日本の学校との大きな違いです。国が違えば教育制度が異なり、実践方法も違うのは当たり前です。海外の教育について語るときよく投げかけられるのが「単純に日本と比較できるのですか」という疑問です。「外国の教育は進んでいて日本の教育は遅れている」と言っているように受け取られることもあります。でも私は日本と海外の教育を比べてどちらが進んでいるとか遅れていると言うつもりもなければ、良いとか悪いとか言うつもりもありません。どちらにも良い点もあれば、改善すべき点もあります。文脈が異なるので単純な比較ができないことは承知しています。同じ国でもひとくくりにできないことも多々あります。けれども何らかの示唆は得られるのではないかと思います。海外を体験して初めて気づくことや、改めて考えさせられることはよくあります。それまで当たり前だと思っていたことがそうではないことにも気づかされます。そうした思いから比較教育学を選択しました。
 
退職に迷いがなかったわけではありません。退職すれば当然収入がなくなります。大学院に進学するには費用がかります。家事に費やす時間が削られ家族にも負担がかかります。高齢の母の世話もしています。さらに、教職を離れることへの未練がないわけではありません。教師の仕事は楽しく、当時は教職人生の中で最も充実していた時期かもしれません。でも決断は揺るぎませんでした。大学院に進学するのはその時しかない、定年を待っていては遅すぎると思ったのです。
 
その後一年の準備期間を経て私は大学院に進学しました。進学したのは歴史ある都内の総合大学の教育学研究科。修士課程に入学しました。教員養成系の大学は考えませんでした。現職教員が多い教職大学院も候補にしませんでした。矛盾しているようですがそれまでどっぷり浸かってきた教員の世界から少し離れたところに身を置きたかったのです。進学先は教育学系の大学院ですが、教員養成よりも教育そのものについての探求に重点が置かれており、私のやりたい研究に向いていると思ったからです。
 
さらにその大学は私が高校生の時にいちばん行きたかった大学です。当時関西に住んでいた私は親元から離れて東京の大学に行くことは許してもらえず地元の大学に進学しました。また、大学卒業後は大学院に進みたかったのですが、大学の学費を出してくれた親に大学院の学費まで負担をかけることはできないと思い、大学卒業後は関東で公立中学校の教員になりました。大学院はいつか自分が働いて得たお金で行こうとずっと考えていました。結局30年かかりましたが私はあこがれの大学かつ大学院への進学という2つの夢を50歳にして同時に実現することになりました。
 
研究は思った以上に大変でした。毎日膨大な量の文献と格闘し、睡眠時間は大幅に減りました。夜の授業がある日は家族の食事を準備して家を出ました。高齢の母を見守りながらの研究も綱渡りのようでした。特に調査で海外に出かけるときは携帯電話を肌身離さず持ち歩き、いつ連絡があるかとひやひやしていました。長時間の通学も身体に応えました。学会発表では多くの厳しい指摘に晒され、投稿した論文は酷評されました。ボツになった投稿論文は数えきれません。心が折れそうになったのは一度や二度ではありません。
 
でも研究は楽しかったです。若い院生とのディスカッションは刺激的で、研究を通して新たな出会いがたくさんありました。学ぶ楽しさは辛さよりはるかに大きかったです。2年間の修士課程を終えたあとは博士課程に進み、60歳を前に博士の学位を取得しました。その間も現場に根差した研究をするため、小学校から大学まであちこちの教育現場で教壇に立ち続けました、現職教員の研修にも携わり、県内の学校を100校近く訪問しました。大学院での研究は私に人生後半の新たな目標を与えてくれました。その間に築いた人的ネットワークでその後の私の生活は大きく広がりました。決断は間違っていなかったと確信しています。
 
大学院の受験、院生生活、研究の進め方、学会発表、海外での調査、学位取得に向けた論文執筆、人的ネットワークの構築方法など詳細はいずれ少しずつ書いていきたいと思います。
 
 
 

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