リケジョが魔王討伐するにはこれで合ってます?【第7話】

 ライブもいよいよ終盤だ。99回目の『春夏秋冬』が終わった。私とミヤビさんを含め、観客は完全にハイになっていた。

「よっしゃー! お前ら、ラスト1曲や! 最後まで、きばってこーや!!」
バキュームのボーカルがそう煽ると、
「うおっひゃあーー! ぶおっひゃぁー!!」
と、完全に理性を失った歓声が響き渡る。
その歓声にはわたしとミヤビさんも含まれていた。
私たちはグローブ博士のことなど、そっちのけでライブを楽しんでいた。

しかし、ミヤビさんが異変に気付いた。
「あれ?! ロマンさん! グローブ博士がいない!」
「え! あ、ほんとだ! さっきまでいたのに! 少なくとも99回目の『春夏秋冬』まではいたはず!」
焦りながら会場を見渡すと、会場の出口付近に肌色の頭を発見した。
「あ! いた! 追いかけよう!」
私たちは急いで出口に向かった。

結局グローブ博士に追いついたのはライブハウスを出たところだった。
「あのー、すみません! 待ってください!」
「何じゃ? わしに何か用かの、お嬢さん?」
「はい! あなたにご相談があって来たんです、グローブ博士」
「ほう、わしの名前を知っとるとは、お主ただ者ではないな。自分で言うのも何じゃが、わしは『アンダーグラウンドな人間』じゃからな」
「自分のこと『アンダーグラウンドな人間』って言うの何かダサいな。……じゃなくって、仲間に教えてもらったんです。グローブ博士に会えば今抱えている問題を解決できるって」
「仲間? 誰じゃそれは?」
                                                                    
「私です。」
私のリュックの中にいるミヤビさんが顔だけ出して挨拶する。
「おお、お主はミヤビではないか。元気にしとったか」
「ええ、おかげさまで。博士もお元気そうで何よりです。今日は急に押しかけて申し訳ありません」
「いや、かまわんよ。お主とは積もる話もあるが……。何か急ぎの用があるようじゃな。それで? お嬢さん、わしに頼みたいことってのは何じゃ?」
「はい、簡潔に申しあげますね。私は魔王討伐を目指している国枝ロマンという者です。先日仲間にした優太老という男が言うことを聞かないので、洗脳する方法を探しておりました。そしたら、ミヤビさんにグローブ博士というヤバい科学者がいると聞いたので会いに来た次第です」
「なるほどのう。簡潔で正直過ぎる自己紹介ありがとう。就活とか苦手そうじゃな」
「あ、分かります?」
「まあのう。で、仲間を洗脳したいって話じゃったな。それなら別に可能じゃよ。」
「え、可能なんですか? すごい簡単に言いますけど!」
「簡単じゃよ。わしからしたら、脳を洗うのなんて靴下洗うのより簡単じゃよ」
「どおりでさっきから臭い訳だ。」
「何か言ったかの?」
「いえ、何も?」
「まあ、ええわい。しかし、ただで協力する訳にはいかんのう。こっちにもメリットがないと」
「それはそうですよね。対価として何をお望みなんですか?」
私が聞くと、グローブ博士は急に真剣な顔つきになった。
「わしの……弟を救い出して欲しいんじゃ」
「グローブ博士の弟、ですか?」
「ああ、わしの大切な弟じゃ。しかし、あいつは今つかまっておるのじゃ……魔王に……!」

第7話 完



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