リケジョが魔王討伐するにはこれで合ってます?【第6話】

 ミヤビさん(鶴)の助言により、グローブ博士とやらのところに行くことになった。
彼はあまり表には出せないタイプの科学者らしい。そんなやつに会いに行って大丈夫か?

「で、そのグローブ博士ってのはどこにいるの?」
「彼はフリーランスの研究者ですから、基本的にはどこにいるか分かりません」
「じゃあ会えっこないじゃん」
「でも大丈夫です。今現在どこにいるか大体目星はついてますから」
「そうなの?」

何で大丈夫なのかよく分からないが、私はミヤビさんを信じてグローブ博士がいるらしいところに付いていくことにした。

名古屋市。初めて来る土地だ。ここのライブハウスにグローブ博士は現れるらしい。

「本当にこんなところにグローブ博士が来るの?」
「はい。このライブハウスの最前列に彼は現れます」
「そうなんだ……。」

私たちがライブハウスに入ると、会場は既に通勤ラッシュの電車よりも寿司詰め状態になっていた。
ちなみに、鶴であるミヤビさんを見られる訳にはいかないので、私のリュックに無理矢理ねじ込んでいる。頭だけがリュックから出ている状態だ。ビレッジベンガードで買った奇抜なリュックと言えばギリ言い訳できそうだ。

「何これ?! こんな人混みの中初めてなんだけど!」
「そりゃそうですよ。今日来るのは超人気アイドルグループの『バキューム』ですから」
「バキューム?」
「え、知らないんですか? 彼女らは最近話題の『人生共有系』アイドルです。」
「『人生共有系』アイドル? 何だそれ?」
「はい。彼女らはライブを開くと、唯一の持ち曲『春夏秋冬』を100回連続で歌うんです。観客は100回分の春夏秋冬を一緒に歌う。つまり100年分の思い出を彼女らと共有できるって訳です。これが『人生共有系』アイドルと呼ばれる理由です」
「やばっ。何か思想強めなアイドルやな。てか私たちも100回『春夏秋冬』を聞かないといけないってこと? 普通に嫌なんだけど!」
「そうなりますね。まあ中盤くらいまではしんどいけど、90回目くらいになってくると、よく分からなくなって気持ちよくなれるみたいですよ! ランナーズハイみたいな感じです!」
「そうなんだ……。で、肝心のグローブ博士はいるの?」
「いるはずです。彼はバキュームの大ファンですから。毎回ライブの最前列で応援してるくらいには」
「あー、なるほどね。だからここにグローブ博士がいるって思ったのね。じゃあグローブ博士は今日も最前列にいるのかな?」
「んー、正直人が多すぎて見えませんね……。もう少し前に近づいて見ましょうか」

ミヤビさんがそう言った途端に照明が消え、ギターの音が鳴り始める。

「あ、ライブが始まりました!」

ミヤビさんの声は最後まで聞きとれず、観客の歓声にかき消される。
ステージの袖からボーカルが現れる。
一層盛り上がる会場。
人が多すぎて、前に行こうとしていた私たちは身動きがとれない。

「どうしよう、ミヤビさん! これじゃ前に行けないよ! グローブ博士を見つけられない!」

「いや、大丈夫です、ロマンさん! あれを見てください!」

ロマンさんが指さす方を見ると、肌色の球体が高速で上下運動を繰り返していた。

「何だありゃ?」
私が聞くと、
「あれがグローブ博士です!」
「え、どういうこと?」
「ですから、あの肌色の球体がグローブ博士なんです!」

そう言われてよく見てみると、ハゲ頭の男が一人だけ激しい縦ノリを繰り返しているのが見えた。
私は一瞬でグローブ博士がやばい奴だと確信した。
『春夏秋冬』はガチガチのバラードだったのだ。

第6話 完






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