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深海に漂う④

眩しい。
差し込む光が、午後を告げていた。
やってしまった。無断欠勤だ。
慌ててベッドサイドのテーブルに手を伸ばす。…手を伸ばす??
携帯電話がない。いや、サイドテーブルがない。
周囲を見回す。…自分の部屋じゃない。
ハッとして布団を捲る。履いている。良かった。
知らないスウェットだか、上下ちゃんと着ていた。
とりあえず、先ずは職場だ。
見回した視線の先に、濃い青色のソファーの上の鞄。携帯を取り出す。病院からの着歴がある。…3回も。
ため息越しに聞いた、留守録の師長の声が尖っている。そりゃあそうだと思う反面、少しやりきれない。
今まで、遅刻も欠勤も、ズル休みもせず、急な勤務変更にも笑顔で応えてきた。なんだか、もうどうでもよくなって、携帯電話を放り投げて寝転ぶ。
初めて見る天井に、昨日の記憶が蘇る。

人見知りなのか視線を合わさず、でも穏やかな表情で相槌をうつ女性と、にこにこと話が尽きない店主。
確か、幼馴染の2人で、女性が「たまき」さん。店主さんが「あつ」さんと呼ばれていた…と思う。
暫く、思い出してみるが、昨夜の記憶が所々ない。
今まで、どんなに飲んでも酔い潰れないと言う自信があったのだけど…。まぁ、飲みに行くと必ず酔い潰れる、いつまで経っても飲み方が大人にならない春姫とだから、余計に酔い潰れる訳にいかなかったのかもしれない。
無断欠勤にブラックアウト、初めてのやらかしが2つ…。
頭がこの状況への対応を拒否している。
とりあえず顔でも洗おうと、風呂場を探す。途中にキッチンがあり、2人用の小さなダイニングテーブル。
その上に、コンビニのおにぎりとペットボトルのお水。
そして、
「律さん
 おはようございます。
 食べられるなら。
 18時半には帰ります。
 ココに居てくれて良いし、
 帰るなら鍵は閉めた後、ポストに。
         環  」
と、綺麗な文字で手紙が置いてあった。

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