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【エッセイ】「思う存分、幸せになれ」vol.5 「救世主」

今回は、エッセイと言いつつも雑記になるかもしれない内容だ。正直、話に纏まりをつけられるかわからない。ただ、日常生活の中で考えていることを少し書いてみたいと思う。

ここ最近の日本は、「自分を愛する時代」へと変遷しつつある。これまでは他人を一番に考える生き方が美徳とされてきたが、自己犠牲をしながら生きてきた人々は自分を愛することの重要性に気づいた。近頃は、「自己肯定感を上げましょう」「自尊心を高めましょう」「自分を大切にしましょう」という言葉を散々耳にするし、TwitterやInstagramを覗けば、セルフラブについて発信するアカウントは無数に見つかる。

そうしたアカウントが近年急増し、数多あるということは、それだけ需要が高いということだ。つまり、人々は何かに悩み、セルフラブに関する情報を欲し、それらのアカウントをフォローして投稿を心待ちにしている。かく言う私も、そうした投稿の言葉を読んで心が軽くなったことは多々あるので、それが悪いことだとは言わない。

ただ、時折思うのだ。「これを投稿している彼らは人々を救いたいんだろうか?それとも彼ら自身が救われたいのだろうか?」と。

投稿者にこの質問をすれば、おそらく10人が10人とも「私はこれを見てくれている方々を救いたいから発信しているんです!私が救われる為だなんて意味がわからない」と一蹴されるだろう。彼らは苦境を乗り越え、辛酸を舐め、そこから這い上がるために巷の自己啓発本を読み倒し、自分と向き合ってきたはずだ(私自身もそうだった)。その経験を踏まえて自分の言葉で他者を勇気づけるような発信ができるというのはひとつの才能であるし、素晴らしいことだと思う。

しかし、私もその手の投稿を幾度となくしようとしてきたからこそ感じるのだ。そうした内容は、書いているうちに人々を救っているような気持ちになる。まるで自分が自己肯定感や自尊心について理解しており、悩んでいる人々に知識を享受しているような気分になる。だが、ふと気づく。

「私は人々を救おうとしているが、本当は私が救われたいのではないのか…?」

これは本当にわかりづらく、同時に恐ろしいことである。そこには「他者を救うふりをすることで救われる自分」がいるからだ。「あなたの為に」と言いながら、自分でも気づかない心の奥底のほうで「私の為に」と思っている。調べてみると、心理学ではこの現象を「メサイアコンプレックス」というらしい。メサイア=救世主。誰かの救世主になることで、自我を保とうとすること。つまり、矢印は相手ではなく己に向かっており、己の中にある埋めるべき穴は空っぽのまま。他者を救うことで、なんとかその穴を埋めようとしているのだ。

こうして考えてみると実感する。人は人を救うことなんてできない、と。もちろん、救いのきっかけを与えることはできるだろう。だが、自分を救えるのはあくまでも自分だけなのだ。そしてそれは私だけでなく、彼を救えるのは彼だけであり、彼女を救えるのは彼女だけであり、あの子を救えるのはあの子だけなのである。外の世界に溢れるセルフラブの言葉が心を軽くするきっかけにはなっても、その人を本当の意味で救うことにはならない。救いは常に、自らによって齎されるものだからである。

ただこれは絶望ではない。むしろ希望だ。私たちは常に私たち自身を救うことのできる唯一の存在なのである。その尊さは計り知れない。そこにこそ、世間が目指していたセルフラブの根源があると私は考える。存在しているだけで素晴らしいこと、私は私の為に生きていることの重要性が、ここで証明されているからだ。

自分すら救えていない人間の「あなたの為に」という言葉や気持ちが、どれだけ傲慢さを含んでいるかわかるだろうか。この言葉を聞くたび、私たちが何故か押し付けに近い感覚を覚えるのは、その言葉を発した当人の為の言葉だったからなのだと今なら分かる。「あなたを救うから、私も救って」と言っているのだ。皆、外の世界に救いを求めている。だが先ほども書いた通り、答えは“自分自身”という存在が既に表しているのだ。それに気づいている人間はどれくらいいるのだろう。

私はまだ自分すら救えていない。
だから救うのだ。私自身によって。
許し、愛し、認め、尊重する。
これから思う存分、私は私を幸せにするのだ。


…なんてことを書きながら字数を見ると、それなりに多くなっているのでここらへんでやめようと思う。だからなんだと言われてしまえばそれまでの内容だったかもしれないが、今回についてはどうしても記しておきたかった。雑記にまわすかと思っていたメモを推敲し、ここまで落とし込めたことが純粋に嬉しい。

ここまで読んでくれた方、いらっしゃるかな。
どうもありがとう。
何かを考えるきっかけになれば幸いである。





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