日韓の教科書って何が違うの?~近代史記述から捉える歴史認識~Ⅳ
はじめに
早稲田から日韓の未来をつくる連載企画「ワセミレ」。第4回は前回につづき、日韓両国の高校で使用されていた「韓国史(한국사)」と「日本史」の教科書を、主に近代史の内容を中心に比較していきます。韓流ブーム真っ只中の今、日本・韓国における自国および周辺国に対する歴史認識の違いについて、少しだけ覗いてみましょう。
①三・一運動の展開
比較検討:
日本の教科書では、国名が朝鮮に改称された以後の内容について説明する際に「朝鮮」というワードが用いられる一方、韓国の教科書では改称以前と同様に「韓国」という表現が用いられている点が異なります。
三・一運動の展開に関しては、タプッコル公園にて独立宣言書が読まれたというところまでの内容はどちらの教科書にも同様の記載があります。一方、「大韓独立万歳」という特定のワードが登場するのは韓国の教科書に特徴的です。
また、日本の教科書と違って、我々や我が民族などの単語が用いられている点も目立ちます。三・一運動が概ね非暴力的な運動であったという記述は、日韓両国間の教科書に共通していると言えるでしょう。
②三・一運動の鎮圧
比較検討:
日本の教科書でも韓国の教科書でも、三・一独立運動に参加した人々が激しい弾圧に遭ったという内容は共通しています。一方、韓国の教科書では「銃刀」や「拷問」、「無慈悲な虐殺」などの強めの表現が用いられていたり、具体的な地名に触れられていたりするのが特徴的ですね。
また、総督による鎮圧の影響を受けて、三・一運動が次第に武力闘争へと舵を切ったとする内容は、韓国の教科書にのみ記載されています。
③植民地支配政策の変更
比較検討:
韓国の教科書では、日本の教科書と違って、1920年代の植民地政策に関して「文化統治」という単語が用いられている点が特徴的ですね。また、植民支配に対する反発をもみ消そうとしたという、方針転換の意図が明記されている点も韓国の教科書に特徴的です。
三・一運動後に変更された植民地政策の中身については、韓国の教科書ではあくまで表面上の政策に過ぎないとする内容が具体的に述べられており、これが日本の教科書との違いであると言えます。そして、日本の教科書では政策の内容に関して「若干の改善」という表現が、韓国の教科書では「我が民族の不満をなだめるための欺瞞的な術策」という批判的な表現が用いられている点も大きく異なりますね。
④関東大震災における殺傷事件
比較検討:
日本の教科書では「殺傷」、韓国の教科書では「虐殺」という異なる表現が用いられているのが目立ちますね。また、日本の教科書では韓国の教科書とは違って、自然災害が誘発した、流言によって多くの朝鮮人が殺傷されたという風に、殺害という動作の主体が人ではなく特定の現象となっている点が特徴的です。
そして、「対抗運動への恐怖心と、民族的な差別意識」という殺害の背景や、主に日本人が犠牲となった実際の事件について、具体的に説明されているという違いもあります。他にも、日本の教科書では市民・警察・軍のみが殺害に関わった、韓国の教科書では日本人が皆殺害に関わった、と捉えられる表現になっている点が異なります。同胞という言葉が登場するのも、韓国の教科書に特徴的です。
⑤国家総動員法
比較検討:
国家総動員法の制定という出来事については、両国の教科書に記述があります。しかし、日本の教科書では日本の国民の生活についてのみ書かれており、韓国の教科書では日本のみならず韓国にも適用されたと説明されています。
⑥兵力の動員
比較検討:
韓国の教科書には志願兵制・学徒志願兵制度・徴兵制という3つの政策において、「韓国人」が戦争へ動員されたと記述されています。一方、日本の教科書では志願兵制度・徴兵制が韓国および台湾で導入されたと書かれており、学徒出陣の植民地における実施については触れられていません。
また、日本の教科書では兵士を「募集していた」、韓国の教科書では「動員した」といったように、異なる表現が用いられている点も違いと言えますね。
⑦「従軍慰安婦」について
比較検討:
日本の教科書では慰安施設に集められた、韓国の教科書では恐ろしい人生を強要された、苦痛を味わったというように、後者の方が比較的厳しい表現が用いられているという違いがあります。
また、韓国の教科書では「慰安婦」への動員方法が悪質であったとする旨が述べられている点も、日本の教科書と異なります。
⑧「皇民化」政策
比較検討:
韓国の教科書では、1930年代の植民地政策に関して「民族抹殺政策」という単語が用いられている点が目立ちます。一方、「皇民化」政策がとられた、姓名を変更することが強要された等の記述は日韓の教科書において共通しています。
教育政策については、日本の教科書では「日本語教育の徹底」と簡潔に書かれた一方、韓国の教科書では、すべての授業が日本語で進められた、韓国語学習時間がなくなった、韓国語使用が禁止されたとその中身が詳細に記述されているという違いがあります。
さいごに
お読みいただきありがとうございました!日朝国交樹立の流れから植民地支配中までの出来事について、日韓両国の教科書がどのように記述しているかを見てきました。できるだけ主観的な意見はいれずに、この記事を読んだ皆さんの判断にお任せするかたちにしましたが、いかがだったでしょうか?この記事が日韓の歴史について再考するきっかけになれば幸いです。
今回は日本の教科書にも韓国の教科書にも記述がある部分を中心に比較したため、特に韓国の教科書において紹介しきれなかった内容が多くあります。また、本連載記事にて引用した教科書は各国1冊のみでしたが、出版年度や出版社によって書き方が異なる可能性も十分にあります。そのため、本記事に登場した、もしくは取り上げられなかった出来事についても一度調べたり考えてみたりするのもお勧めです!
改めて最後までお読みいただきありがとうございました!
注釈
(3)余談:今回は「끌고 갔다[グルゴガッダ]」を「連れて行った」と翻訳しました。しかし、日本語の「連れて行く」はどちらかというと「데리고 가다[デリゴガダ]」という単語に近い意味合いになります。教科書に登場した単語のなかで「끌고[グルゴ]」は「引っ張る」、「갔다[ガッダ]」は「行った」という意味のため、引っ張って行く、つまり嫌がる相手を無理やり連れて行くというニュアンスが含まれます。
備考
【※】は教科書本文ではなく注釈部分に内容が書かれていることを指します。
*は、補足説明のために追加した注釈です。教科書の原文には記載がありません。
半角のカッコ()は原文に記載のもの、全角のカッコ()は原文にはなく、こちらで追加したものを指します。
各サブタイトル等の引用文以外の文章では、便宜上日本の教科書に登場する名称を基準として用いています。
引用・参考文献
笹山晴生ほか10名,2014,『詳説日本史B』山川出版社(2012年検定済).
도면회 외 8인[ド・ミョンフェほか8名],2020,『고등학교 한국사』[高等学校 韓国史],ソウル特別市: 비상교육[ビサン教育](2015年の教育課程).(本記事には拙訳し引用)
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