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悟空伝~信じる心 いざ天竺へ ~2010日本女子体育大学発表会

 昨今、女子の新体操はルールが過酷になりすぎたため、男子新体操のように表現を見せる余地が少なくなってしまったように感じることも多いのですが、競技を離れた発表会となると話は別です。
 こと、この日本女子体育大学の発表会は、新体操の技術と能力を駆使しつつも、毎回、「エンターテインメント」志向が強く、見に来ている観客を楽しませること、観客になにかを伝えること、に苦心されていることが感じられます。この発表会を見ると、男子同様、女子の新体操にもエンターテインメントとしての可能性は十分にあるのではないかと思えてきます。

 とくに今年は「孫悟空」をテーマにしたストーリー性のある構成だったので、非常にわかりやすく、盛り上がりのあるいい発表会だったように感じました。過去にも「白鳥の湖」「サウンド・オブ・ミュージック」「オズの魔法使い」「夕鶴」など、ストーリー仕立ての年が何度かありましたが、毎回、かなりよかったと記憶しています。

 やはり、一般の観客にとっては、単に新体操の演技をたくさん見た、というよりは1つのお話が新体操でえがかれていたほうが、楽しみやすいですよね。「音楽やイメージを表現する」のも、新体操をやっている人たちや、見なれた人たちには興味深いのですが、「孫が出ているから」と見に来たような一般の観客だったら、やはり「わかりやすいストーリー」があったほうがとっつきやすいに違いありません。

 ストーリーものは、イメージが固定しているだけに、難しさもあると思うのですが、そこに果敢に挑戦しているのが、「日女の発表会」の面目躍如という感じがします。

 正直、競技成績では、日女は、ライバル・東京女子体育大学に水をあけられていた期間が短くありませんでした。有力選手のほとんどが東女に進学してしまう、そんな時期もありました。

 そんな中で、日女は日女らしく。
表現すること、をより究めようとする姿勢が際立って見えるのが、毎年の発表会でした。プログラムに載っている名前を見ると、それほどのビッグネームはいない、という時期もありましたが、それでも、キラ星のごとくスターのそろった東女にもひけをとらない発表会を毎年つくりあげていたのが日女です。

 近年では、新体操部の人数もレベルも、文字通り東女と拮抗してきた日本女子体育大学は、今年のオールジャパンでついに悲願の団体総合優勝を成し遂げました。じつに昭和52年以来のことでした。

 一時期は、そんな日は二度とこないのでは? と思われた時期もありましたが、ついに・・・2010年、歴史は動きました。
 33年ぶりの王座奪還の原動力になっていたのも、やはりこの発表会ではなかったかと、私は思います。
 長い長い時間をかけて勝ち取った日女の勝利への祝福の意味も込めつつ、日女の発表会の記事を今日から何日か続けて掲載したいと思います。
                                       
 今年の「悟空伝」では、大道具もすごかったです。とくにこの龍!!!
これを作るのにはどれほどの労力がかかったのだろうと思うと・・・。それも厳しい練習 しかし、苦労のかいあって、照明のもとすばらしい効果をあげていました。ブルーのレオタードとの相性もよかったです。
 じつは、この龍の登場する場面では、フェアリージャパンポーラのメンバーであり、日本女子体育大学1年生の遠藤由華、田中琴乃両選手がグリーンのオールタイツで、踊ったのです。おそらく「龍の化身」という役回りだったのでしょうか、ちょっとヒールぽい表情で迫力のある踊りを見せてくれました。ロシアの長期合宿で磨いてきたと言われている表現力が、こういった競技以外の場ではあますところなく発揮されていたように感じました。
 さあ、こんな手ごわい敵と戦いながら、三蔵法師と孫悟空達の天竺への旅はまだまだ続きます。

 大学の発表会のクライマックスといえるのが「4年生作品」。
今年の4年生も、みんなとてもいい表情で踊っていました。表情も動きも、一瞬一瞬が輝いていて、「みんなこの瞬間のために、今まで新体操を続けてきたんだなあ」と、毎年思い、毎年感動します。

 新体操を長く続けている間には、楽しいことよりも苦しいことのほうが多かったりします。早く解放されたいなあ、と思うことも少なくないでしょう。だけど、最後の最後のこの瞬間に「やってきてよかった!」と思えれば、それで帳尻があってしまうような気がします。
 現役のときには、好きで踊っているはずでも、どうしても怒られることが多いものですが、卒業すると、心から「踊ることが楽しい!」と思えるようですよね。この姿を見ればわかります。こうして、「新体操を続けることの達成感」と「踊る楽しさ」を存分に体験した人たちが、それぞれの立場、それぞれの場所でまた次の世代の子ども達を教えていくんですよね。
 教える身として目指すものはそれぞれ違うでしょうが、おそらく「新体操の楽しさを伝えたい」「新体操を好きになってほしい」という思いだけは共通なんだろうな、と思います。

「楽しい」といえば、おそらく毎年、この発表会を誰よりも楽しんでおられるのでは? と思うのが、石﨑朔子先生です。

 いくつになっても、どんな扮装でも(笑)。
 観客の前で踊ること、表現することは楽しい! と身をもって教えてくださる、石崎朔子先生のこのパフォーマンスが、生徒たちに与える影響は大きいのではないでしょうか。
 それは、生徒たちだけではなく、この発表会を見に来ている多くの子ども達、それから、その親御さん達。みんなに、「新体操ってこんなに楽しいものなんだ」と教えてくれると思います。
 まだ、日本女子体育大学の発表会を見たことがない方は、ぜひ来年、足をお運びください。おそらく! 石崎先生はまた来年も見事なパフォーマンスを見せてくださるはずです。

 天竺への旅の途中の「闘い」を表現しているのがリズムの作品です。
日女の発表会では、たいてい1場面は「闘い」が描かれていて、そこはリズム(ダンス)で表現されていることが多いように思いますが、私は昔から、このリズム作品が大好きです。

 正直に言わせてもらうならば、10年前には、日女と東女の発表会を見比べたときに、身体能力的な差は否定できないと感じました。ただ、こういったリズム作品になると、日女も当時からまったく遜色がなく、むしろ凌駕しているように感じることもありました。
 「踊る日女」・・・それが当時から私が、日本女子体育大学の新体操に対してもっている印象です。技術や競技成績ではおくれをとることがあったとしても、「踊ること」「表現すること」へのこだわりは捨てない、そんな姿勢に潔さも感じていました。その「踊る日女」の象徴が、このリズム作品である、と私は思っています。

 手具を駆使した絢爛豪華な作品もよいのですが、日女のよさがいちばんよく見えるのは、こういったリズムの作品のように感じます。本当に見事に、音楽にのって、そろって、そして隊形変化などでダイナミズムを感じさせるリズム作品をよくも毎年つくりあげてくるな、と感心します。
 体育大学とはいえ、舞踏科もある日本女子体育大学ならでは、の芸術性高いリズム作品は一見の価値あり、です。

 悟空たちは、妖怪たちとの闘いに勝利し、いよいよ天竺へ向かいます。
そして、旅のおわりが近づいてきたときに、悟空誕生からここまでの日々が、走馬灯のようによみがえってきます。

 いよいよ悟空たちは、天竺にたどりつき、「経典」を手に入れるのですが・・・。この発表会のラストでは、この経典が大きな役割を果たしていました。

 経典を開くと、そこに日本女子体育大学の新体操部員たちの名前が列記してありました。
 こういう結末を、私は「青い鳥オチ」と呼んでいるのですが、さんざん苦労して探していた青い鳥(幸せ)は、わが家にいた、というあれです。

 三蔵法師と悟空たちが、はるばる天竺まで旅したのは、「尊い教え(経典)」を手に入れるためでした。なぜ経典を手に入れたかったのか。そこには幸せや平和を実現するための教えがあるから、だったと思います。

 では、なぜ新体操をみんな、続けるのでしょうか。
 新体操でなにかを実現したいから、ではないかと思います。
 その「何か」は、人それぞれ。試合での勝利を求める人もいれば、観客の喝采、親の喜ぶ顔、自分の満足感・・・。
 それを得られたと思える人もいるし、得られないままだったと思っている人もいるでしょう。だけど、いざ経典を開いてみれば、そこに書かれていたのは、「仲間の名前」。

 あの有名になったせりふではありませんが、「持っているものは・・・仲間です」そのものです。
 それぞれに「何か」を求めて、新体操の道を旅してきたけれど、最後には「仲間」を得ることができて、そのことが「何か」を手に入れたことに等しいのだ、と。
 求めて、求めてきたものを、自分たちはすでに持っていたのだ、と。そんなラストに私には見えました。

 私たちは、多くのものを新体操で手に入れてきた。十分に報われてきた。そのことに気がつくかどうかは、その人次第である。

 それが、悟空たち(新体操に懸けてきた人たち)が最後に得た「教え」ではないかと。
 演技も演出もすばらしかった今年の発表会でしたが、私の胸に伝わってきたそんなメッセージが、なによりもすばらしかったです。

金の卵達の競演!~賛助演技~

 日本女子体育大学の発表会のもう1つの見どころは、賛助演技の数々です。日女の卒業生が指導をしているクラブが出演していることが多いのですが、それぞれのクラブにとってよいモチベーションになっているに違いありません。
 この豪華な夢舞台に出演できた幸せな子どもの中には、当然、「大きくなったら日女に入って、あの発表会に出る!」と夢見る子も出てくるでしょうから、大学にとっても学生確保の一助となっているかもしれません。

今回、賛助で出演していたクラブ、学校を紹介しておきましょう!
 
●飛行船新体操クラブ
 最近の飛行船は、新体操祭や発表会でも、凝ったコスプレを見せてくれますが、ここでも!(笑)群舞は、バレリーナのような優雅な雰囲気ですが、この見事な後ろバランスをしているのは猿? 孫悟空というか、猿? カワイイです。

●誠心幼稚園グリーングリーンクラブ
 まだクラブをもっているだけもドキドキ、なちびちゃん達が大挙出演! 演技も一生懸命さがにじみ出ていてほほえましいのですが、さらに、この表情! カメラマン・小林隆子さんの真骨頂とも言える子ども達のかわいらしい表情が絶品です。バレエダンサーをよく描いたドガの絵のようです。

●ピュアRG
 日女の賛助常連のピュアRGですが、ここは毎年毎年、「よく練習してきたなあ」と感心するような演技を見せてくれます。しっかり基礎のできた動きも美しいし、手具を駆使したリスキーな連係などもあり、「発表会演技だから無難にまとめておこう」という感じではないのです。その志の高さには感服します。

●ソレイユ
 こちらも常連組のソレイユです。賛助でのソレイユの作品は、いつも観客を楽しませることが意識されていると思います。今回の作品も、衣装も小道具(バランスボール)も振り付けも楽しかったし、子ども達がニコニコ笑顔で踊っているのもよかったです。

●国士舘大学
 賛助に男子新体操を入れるとは・・・やるな、日女! 今年はそうですよね、国士舘大学ははずせないでしょう。私が見ていた席の近くに座っていたおばあさんは「あら、ほら、テレビドラマに出ていた子達だよ、あらあら、うまくなったねえ」と感心していました。もしかして、烏森高校と間違えてますか?(笑)うーん、いくらなんでも半年ちょっとでこうはなりませんけど。女子のフロアなので、タンブリングはやや控えめだったようですが、男子新体操の魅力を代々木第二体育館の満員のお客さんに見せてくれました。

●ASKAスポーツクラブ
 今年の賛助で、いちばん「気合い入ってる~!」と感じたのが、このASKAさんの作品でした。「悟空伝」の一場面としての出演だったので、チャイナ風衣装、小道具(扇)で、しっかり物語の世界に入り込んだ演技で、とても楽しかった。マスゲーム的な動きがすばらしくそろっていて、これも相当な練習を積んだのではないかな、と感じました。素晴らしい発表会の一部を自分たちが担っているのだという自覚がひしひしと感じられる演技だったと思います。

 かなり前から、日女の発表会は見る機会が多いので、こうやって賛助で踊っていたちびちゃんで、今は日女の学生さんという例もたくさん見てきました。この中にも、いずれ日女で活躍する子もいるんだろうという楽しみもいっぱい! の賛助作品でした。
<「新体操研究所」Back Number> 2010.12.23~28.掲載

20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。