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新訂版:2~3%の下落は想定内


NISA損切りという名のリトマス試験紙

 先日、中東情勢の悪化を警戒した、リスク資産の売りによって、株式市場全体で続落した。

 SNS界隈では、ネタなのか本気なのか、真相は定かではないがNISA損切りなどの悲鳴が聞こえるが、この程度の下落は長期間投資をしていれば〇〇ショックよりも遥かに軽微かつ高頻度で発生するため、個人的な感想では誤差の範疇であり、大袈裟だと感じてしまう。

 仮に本気で耐え難い損失だと思っているようであれば、自身のリスク許容度を見誤っているし、ネタであれば投資初心者に株式は怖いものと言ったネガティブな先入観を与え、投資人口が減少することで、長い目で見れば自分達の首を絞めることに繋がりかねないため、発信する意図がわからない。

 後者は私個人ではどうにも出来ないから放っておくとして、前者で気分が沈んでいる方は決して退場する前に、これを機に自身のリスク許容度に見合った投資方針を模索して頂きたいと思う。

 まず、大前提として余裕資金で投資すること。私は保有資産の95%程度を有価証券で保有しているが、これは総額が多く、たった5%の現金比率であっても、耐乏生活に慣れていて生活コストが低廉なのも相まって、半年〜2年程度は持つ計算によるもので、割合だけ見て真似するのは考えものである。

 最低でも、毎月確実に発生する生活費用半年〜1年分を確保して、そこから溢れた分を投資資金として運用すべきで、明日の生活費のために、なけなしのお金でリスクを取るような、ギャンブルになってしまっては本末転倒だ。

 ある意味、最初に経験する下落相場は、投資家としての適正を測るリトマス試験紙であり、NISA損切りで国に騙されたと本気で思っているなら、これまでの運用方針を見直すか、資産運用から一旦は距離を置いたほうが良い。

最後にゼロを乗じたら意味がない

 世界同時株安となると、どの株式を持っていてもある程度の下落は免れない。だからこそ、順調に株価が上がる前提で投資するのではなく、最悪、どの程度まで下げるのかを念頭に置き、心理的に耐えられる損失額を逆算してから運用するべきだと考える。

 私は〇〇ショックで、一時的には最悪半値になり、それが平均5年前後継続するものと想定している。だからこそ、生活防衛資金として半年〜2年程度の現金は取り置く。

 それに加え、安定配当が見込める高配当銘柄で、生活費用の全部とはいかなくとも、少なくとも半分以上は賄えるよう意識していることから、生活費半年〜2年分の現金があれば、実質的に1〜4年以上は持ち堪えられる計算となっている。

 だから、実際に数十万円単位で下落したところで、事前に想定していた範囲内の下落率でしかなく、世界経済は現在に至るまで、長期では右肩上がりで成長し続けているのだから、これからもきっと成長し続けるだろうと考えられれば、2~3%の下落では動じなくなる。

 むしろ、安値は積極的に買い増して、取得単価を下げられる絶好の機会だと捉えられる。誰もがスーパーで値下げシールが貼られた商品は買いだと思うのに対して、こと株価になると、誰も買いたがらないどころか、必死になって売りたがるのだから実に非合理的である。

 株式は出資者の権利を小口化したものだから、その会社の一部を所有するに等しい。別に株価が下がったところで、その会社の本質的な価値が目減りしていなければ、長期的には株価は元に戻るのだから、下落局面は安く買えるチャンスに他ならず、周囲に流されているだけだと相場の養分になりかねない。

 周囲が流行りの銘柄で大きく儲けているのを見ると、自分だけ置いて行かれる感覚に襲われるかも知れないが、景気は循環する。己を知り、自分に適した長く続けられる投資方針を、愚直に続けてさえいれば、いつか報われるターンが巡ってくる訳で、本来、資産運用は自分との闘いなのである。

 2019年〜2021年はアメ株一強で、日本株に投資している奴は情弱扱いだった。しかし、昨今は日本株が伸びており、既に直近5年リターンはアメ株を上回っている。私みたいに、馬鹿にされていた頃から日本株のポテンシャルを信じて、愚直に積み増し、握り続けていた人は今、報われる展開となっている。景気循環とはそういうものだ。

 だからこそ、途中、どれだけハイリターンで運用したところで、リスクを取りすぎて最後に乗じる数字がゼロになった瞬間、全てが無に還るのだから、派手に勝つことよりも、たとえ地味な手法でも、パーソナリティやリスク許容度に適した、負けない運用方針を確立することが重要ではないだろうか。

資産形成よりも、資産保全を念頭に置く

 そもそも、国策で「貯蓄から投資へ」、「資産運用立国」が謳われて、新NISAで非課税枠が拡充された背景と相まって、投資=資産形成=株式の図式が大衆に植え付けられている側面があるように思う。

 しかし、これまで投資経験がなく、学生時代に金融教育を受けていない、金融リテラシーが十分に身についていないであろう、多くの大人が行うべきは資産「形成」ではなく、資産「保全」だと私は考える。

 単なる言葉遊びに聞こえるかもしれないが、資産形成は積極的にリスクを取って、資産を増やすための運用に対して、資産保全は今ある資産を守るための運用と、意味合いが異なり、多くの富裕層はプライベートバンクを用いて、後者に注力しているイメージが強い。

 とどの詰まり、老後資金不足問題などを発端に、公的な年金はアテにせず、自助努力で資産形成しましょう感を出しているが、投資に慣れていない人が、右も左も分からない状態で、銀行窓口の営業マンや、自称投資インフルエンサーに言われるがまま投資をしても、儲かる筈がなく、却って損をする可能性が高い。

 だからこそ、資産を増やすことよりも、これまでのデフレ経済下で貯めてきた円預金を、昨今の円安やインフレから守るために、資産を何で運用するべきかを念頭に置いたほうが、本来取るべきの資産運用のあり方が、浮き彫りになるのではないだろうか。


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