見出し画像

純粋無垢が駆逐される社会の異常さ


いつの間に、ヒトは疑い深く成るのだろう?

 世間はゴールデンウィーク。自宅で過ごす派が最大派閥とはいえ、金銭的に遠出が厳しいからと、帰省する人もそれなりに居るのだろうか。私が居住する特段、これといった観光名所がないような田舎でも、普段よりも楽しそうなテンションの子どもの姿が目立った。

 毎日がホリデーの私からすれば、桐谷式優待生活のソレで、いつもと変わらず自転車で爆走する毎日だが、桐谷さんと大きく異なるのは、自転車に金を掛けていてクロスバイクである点だ。

 クロスバイクと言えど車重は10kg以下と、ロードバイクのエントリーモデルに負けず劣らずの軽量さと、シティサイクルの半分程度の重量であり、部品さえ換装すれば、ロードバイク並みの走りが期待できるモデルのため、学生が通学で使うTREKやビアンキ、GIANT辺りの廉価モデルよりも高価な代物に乗っている。

 これが何を意味するか。ただでさえ車社会の地方で、マイノリティの自転車ユーザーの中でも、風貌からしてガチなロード乗りでもなければ、長距離通学する学生でも、逆走した挙句に逆ギレする主婦でもなく、ラフな格好にも関わらず、パッと見、速そうな自転車で爆走している若者と、その異端さ故に悪目立ちしてしまう側面は否めない。

 そんな、いかにもな路地裏の超特急感を醸し出して、自転車で爆走していたら、前方に路地裏で遊んでいる子ども達を視認したため、飛び出してこないよなぁ…と思いながら減速、徐行していたところ、屈託のない笑顔で手を振られたため、片手ではあるものの全力で振り返したところ、横目で見た範囲ではキャッキャしており、とても喜ばれていたように感じた。

 これには、厨二病真っ盛りの頃合いに、エヴァの(旧)劇場版で、中途半端が一番悪いというミサトさんの持論に感化され、その後、それを地で行く高校時代の部活顧問と出会ったことが関係しており、たとえ悪ふざけであっても、全力でふざける(取り組む)癖がついている。

 そのため、同級生や同僚からは、ことあるごとにアイツ頭おかしいと褒められ、先輩や上役からは収集がつかなくなる程度にガチギレされては和解or絶縁することを繰り返していたことから、反射的に全力スイッチが入り、精一杯手を振り返したのだが、喜んで頂けたようで何よりだった。

 それと同時に、相手が悪意を持っていた際でも、自分の身を守れるよう、減速、徐行して、注意の対象として疑いの目を向けてしまった、自身の心の汚さや性格の悪さに多少モヤった。

クレームを入れた本人が困る未来にざまぁw

 このモヤり方は身に覚えがある。かつて、電車を運転する立場だった経歴から、子どもからしてみれば、大型自動車のゆうに超える重量かつ超大編成の鉄の塊を、自在に操る操縦者はある種、ヒーロー的な存在であり、電車に向けて手を振って、操縦者から何かしらのレスポンスが返ってくると、とても喜ばれる。

 職業柄、殺伐とした環境下で、唯一和む瞬間でもあったのだが、年々世知辛さを増す世の中では、手を振ろうものなら、それを見ていた乗客が、ハンドルから手を離していた!安全意識が成ってないと苦情を貰い、サービスで警笛を鳴らそうものなら、近隣住民からうるさいと苦情を貰う。

 上役から事情聴取をされようものなら、「あなた方も昔はやってましたよね?なぜ今やるとダメなんですか?」と2位じゃダメなんですか並みにプッシュしても「時代が違う」の一点張りだった。

 そのため「私はあなた方が無責任に夢を与えていた時代に生きてますので悪しからず」とガン無視していたが、20代半ばで身体が壊れる程度に、労働者としては報われない結末を迎えたため、自身をすり減らす行為だったのは間違いない。

 国交相のパブリックコメントで、路地裏の超特急の異名で知られる某社が、13連勤手取り14万電鉄と揶揄される程度に、シフトワーカーで人命を預かる重責の割には薄給激務な業界である。

 定量情報だけを見比べれば、こんなんじゃ、やってられねぇと投げ出したくなるような待遇だが、それでも続ける人が居るのは、自分が夢を追いかけたり、子ども達に夢を与えられるような、定性的な面で魅力のある職種だったからではないだろうか。

 そこが失われてしまえば、成り手は確実に居なくなる。

 マクロで見れば人口減少社会で、輸送人員が減少する未来が目に見えている斜陽産業。公共交通である手前、ヤードスティック規制で本業の単価も上げられず、それでいて民間企業という矛盾を抱えている以上、本業だけで利益を出そうと思うと、人件費を含めた経費削減以外に施しようがない。

 待遇の悪さが変えられないのであれば、それをペイできる妙味がなければ、労働集約型産業で最も重要な、労働力の確保に窮することになり、鉄道事業そのものが持続不能となる未来が、地方では既に表面化しつつあり、バス業界は都市部でも顕著だ。

 今になって緑のたぬきJRがカスハラに毅然とした対応を行うことを表明したが、これも声だけ大きいクレーマーの言いなりになれば、現場の負担が増して成り手が居なくなることを危惧しての、場当たり的な対応だろう。

 正直なところ手遅れ感が強く、まわり回って窓口閉鎖や減便などのサービスダウンに繋がっている現状からして、もはやクレームを入れた本人が困る未来にざまぁ見ろとしか思わない。

 そんな性悪な私も、かつて冒頭の子ども達のように、憧れの存在に屈託のない笑顔で手を振っていた筈であるが、社会に出て数々の悪意と対峙してきたことにより、元来の純粋無垢さが駆逐されたのだと思うと、おかしいのは自分自身ではなく、やれ同調圧力やら、嫉妬心から来る足の引っ張り合いを始めとする、多くの悪意に染まっているこの社会なのではないかと思う今日この頃である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?