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グッドパッチの探索型リサーチ「GUIDE」が広げるリサーチの価値(米田 真依さん)【 #ResearchConf 2023 レポート】

RESEARCH Conferenceは、デザインリサーチ、UXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。

本記事では、株式会社グッドパッチ・米田 真依さんのセッション『探索型リサーチで広げるリサーチの価値』の模様をお届けします。

探索型リサーチプロジェクト「Insight Research(インサイトリサーチ)」のデザインリサーチャーである米田さんに、探索型リサーチを進めるために設計された5つの段階「GUIDE」をご紹介いただきました。

■登壇者

米田 真依
株式会社グッドパッチ
デザインリサーチャー
京都大学経済学部卒業後、パナソニックでの海外グループ会社の経営分析担当、P&Gでのマーケティングリサーチャー職を経て、UXデザイナーとしてグッドパッチに入社。デザインリサーチに関するソリューションを立ち上げ、2022年6月より北海道上川町とのプロジェクトを開始。2023年1月に上川町に移住して住み込みでリサーチを続ける。武蔵野美術大学修士課程CLコース修了。


探索型リサーチを通じて、リサーチの価値観が変化する場面に出会う     

「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させるデザインカンパニー」である株式会社グッドパッチは、デザインパートナー事業とデザインプラットフォーム事業の2つのビジネスを展開しています。

約1年前、クライアントワークとして2〜3ヶ月単位で実施する、探索型リサーチプロジェクト「Insight Research」が開始。米田さんは現在、サービスのデザインリサーチャーとして北海道・上川町に移住し、現地でのリサーチに注力していらっしゃいます。
 
そもそも、本セッションの柱となる探索型リサーチとはどのようなリサーチなのでしょうか?米田さんはセッションの入り口として、リサーチには2つの型があると話します。

  • 検証型リサーチ:仮説の確からしさを検証するリサーチ。受容性や改善点の確認を行う。

  • 探索型リサーチ:新しい方向性の仮説をつくるためのリサーチ。価値や行動、感情を探る。

Insight Researchでは、探索型リサーチを5つの段階で行う「GUIDE」を用いています。

①Goal:着地点を明確にすること
②Untangle:既知と未知を整理すること
③Insight:洞察を得ること
④Direction:方向性を決めること
⑤Entrust:信じて託すこと

フレームワークとして書いてあることにすべて従うのではなく、リサーチの道標として活用しているとのこと。この道標を助けに、クライアントと共に探索型リサーチを行った結果、「これまでさまざまな行動変容やリサーチへの価値観の変化に出会えました」と、確かな手応えを語ります。

リサーチの確からしさに懐疑的だった方が、一緒にプロジェクトを進めることで「今回の結果を今後のプランづくりの指標にしようと思います」と言ってくださることも。また、探索型リサーチの進め方に疑問を持っていた方が、リサーチを経ることで、「過去にまで遡りインタビューを実施してもらって、これまでの蓄積も踏まえることで価値が理解できました」と言っていただけたこともあるそうです。

多くの成功体験を踏まえて、米田さんは、探索型リサーチを「深く分厚いヒントを増やして、チームでの仮説構築とアクション設計を可能にすること」と表現します。さらに、「チームでやるからこそ、アクションが上手くいかなかったときも立ち戻れるようになります」と付加価値まで発見されたそうです。

道標を助けに、5つの段階で進むべき方向を模索していく

ここで、探索型リサーチの道標である「GUIDE」の概要など、各段階について詳しくご説明いただきました。

最初の段階である①Goalでは、リサーチプロジェクトの着地点や実現するものを明らかにすることを目指します。

Goalにおいてのポイントは、組織の将来像を踏まえ、KGI/KPI・OKRなどビジネス視点での目標に紐づいた言語化を行うこと。そして、施策の方向性については、プロジェクトを進めながら決定することだそうです。

「最初に『アプリをつくろう』、『パンフレットを作成しよう』と決めてからリサーチプロジェクトをはじめるのではなく、進めながら最適な施策を考えていくことを大切にしています」と、米田さん。

次の②Untangleでは過去のリサーチ経験等から、わかっていること・わかっていないことを整理し理解する段階。

「Untangleとは、絡まったものを解くという意味。プロジェクトの開始時というのは、イヤホンのケーブルが絡まったような状態のようだと感じたことがある方も多いのではないでしょうか。その絡まりを解きほぐし、整理して理解するのがこの段階です」

Untangleでは、(1)フェーズの明確化と、(2)既知の可視化の2つのステップがあります。

フェーズの明確化ではフローチャートに従い、検証型と探索型のどちらのリサーチをすべきか見極めるそうです。

自分たちの事業がどのような価値観や行動の人に向けたものなのか。どのような価値を提供するのか。結果、KGI・KPI/OKRにどうつながるのか……。この3つのポイントを解像度高く言語化できているかを振り返ります。

すべてを言語化、可視化できている場合は、検証型リサーチの実施へと移るそうです。1つでも答えが明白でない場合に探索型リサーチを行うことをおすすめしているとのこと。

続いて、③Insightは、Goal・Untangleで明らかにしたことを元に、問いの設計・リサーチ設計・実施・分析を行う段階です。

まず問いの設計、次にリサーチ手法や対象など、リサーチの具体的な内容についての設計をし、最後に実施と分析を2セット以上行います。

問い・リサーチの設計の2つのステップにおいての大事なポイントとして、「ユーザーの立場で“問い”を言語化すること。最初の段階のGoalでは、サービス提供側のビジネス的な視点で目的を定義していましたが、ここではビジネス的な言葉は使わないようにします」と米田さんは強調します。

さらに、リサーチ設計をチームで進めて具体性が増すと、「実は前のステップで設計した問いが違っていたかもしれない」と思い至ることも珍しくないといいます。米田さんは、「問いは修正ができるものです。柔軟に変えていくことが大切です」と付け加えました。

実地・分析のステップでは、2セット以上繰り返すことをポイントとしています。その理由はふたつ。

ひとつ目は、リサーチの質の向上です。1セット目では、リサーチ設計自体の課題や深掘りしたいポイントが浮かび上がることが多いといいます。次のセットで見つかったポイントを修正し、リサーチの質を向上できるのです。

ふたつ目は、リサーチの価値を伝えることにつながるためです。プロジェクトのメンバーにはリサーチ未経験者もいます。1セット目では恐る恐るのチャレンジだったとしても、流れを一度体験することで、2セット目以降は積極的になるケースが多くあるとのこと。

また、1回目と2回目のリサーチの設計を変えることで、設計によって意味と質がいかに変わるかを実感できるのも大きなメリットだということです。

④Directionは、洞察を基に着地点までのアクションを決める段階。アクションアイデアを洗い出し、優先順位を決め、タスクへと落とし込んでいきます。

「この段階に十分な時間と労力をかけてもうまくアクション案が出てこない場合は、Goal・Untangle・Insightいずれかの段階に戻ることが必要です」と米田さんから進行に関するアドバイスもいただきました。

最後の⑤Entrustは、どのような洞察を得て、どのような思考プロセスでアクション案に至ったのか、記録に残し伝える段階です。リサーチレポートの作成、レポート・リサーチデータの保管、必要な場合に応じて関係者を巻き込み、ワークショップを実施します。

GUIDEの各段階を解説する中で、米田さんは繰り返し、立ち戻ること・見直すことの重要性を参加者に伝えていました。思い切ったUターンをサポートする段階が、このEntrustです。

探索型リサーチの本質は価値の探索

最後に、全工程において米田さんが大切にしている観点についてもお話しいただきました。

探索型リサーチの本質は「価値の探索」。潜在的に感じるものを含む、人が感じている価値と、自分たちのアセットを掛け合わせて考えることが必要です。そのうえで、自分たちがどのような形で価値を届けられるのかを理解する必要がありますし、それこそが価値の探索だと米田さんは強調します。

まずは、ユーザーを含めたステークホルダーを理解することが欠かせません。さらに米田さんは、ユーザーだけでなく、その周囲にいる人々まで理解することも重視しています。

現時点でのステークホルダーだけではなく、過去からの文脈や、未来へのつながりも理解する必要があります。そこから、長く続く普遍的な価値観が見えてくるとのこと。反対に、変わっていく価値観やその変化の要因について考えることは、未来に起こりうることを探るヒントになるといいます。

セッション中、米田さんはInsight Researchを、「まるでスキューバダイビングのようなもの」と例えました。ダイビングは、一番前にいるダイビングガイドと呼ばれる人の後ろで隊形を組んで進んでいきます。大海へと潜ろうとする人々のダイビングガイドとなる、GUIDEを詳細に学べるセッションとなりました。

▼資料・動画
GUIDEのさらに詳しい解説と当日の資料が、Goodpach Blogで公開されています!ぜひご覧ください。
仮説を生み出す「探索型リサーチ」を成功させるには?グッドパッチ流の秘訣を大公開

また、当日の様子はこちらから動画でご覧いただけます。併せてご活用ください!

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[編集]若旅 多喜恵[文章]野里 のどか   [写真] リサーチカンファレンススタッフ

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