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“大きな夢は、描き辛くなってしまったのか?”

 久々に音楽について話してみようか。

 タイトルは私の好きなシンガーソングライターの1人、七尾旅人の楽曲のワンフレーズだ。

 七尾旅人ファンがいたらどの曲か当ててみてよ。


 ……


 ……


 はい、正解は『荒野』です。

 楽勝だよね? 傑作『911FANTASIA』の2曲目だからこのアルバムが好きな人はすぐわかったと思う。

 私は一発目(最初の歌モノ)から心を掴まれた。歌と朗読の垣根をぶっ壊してJ-Popの向こう側へ行こうとしているように感じた。

 ループを繰り返すスペーシーな(ちょっとレトロ)トラックを背景に刻まれる言葉。ちょっと陰謀論を匂わせた部分があるのは賛否両論かも知れないが、この高揚感は病みつきになる。

 ね 簡単だろ?

 記事の冒頭でカマをかけたのはこのアルバムがイマイチ知名度に欠けるからだ。いや、知名度はまあまああるが、ファンにすらそこまで聴かれていないから。もったいないぜ。

 うん、わかるよ。3枚組で2時間50分あるやべえ作品だからね。しかもテロを題材にした重たいアルバムだ。

 これは俺の私物だが「シンガーソングライター異常進化」って笑 うん、よくわかる。かなり異質な作風だもん。テロリズムを題材にした音源を3時間近く聴くなんてなかなか辛いからね。

 でも、希望だって見せてくれるんだ。

 その時ようやく、おじいちゃんは自分がわずかに信じてきた音楽達を、思い出した。大好きなソウルミュージックを、聴き返すようになった。来る日も来る日も考えた。馬麗なりに、考え続けた。

 やがて、こう思うようになったんじゃ。音楽はまだまだ、戦える、と。軍隊よりも遥かにそれは、強いはずなのじゃ。武器は死を生むがしかし、音楽は生を生む。音楽は、まだまだまだまだ戦える。

 「音楽で戦うって....どうすんの?」

 フウウム...それが問題なんじゃなぁ。ワシの大好きなソウルミュージシャン達について、少し話そう。

 いくらでも居るぞ。ウウム、誰にしようかの。

 ...例えば...

 クティの新しいリズムは屈することがなかった。クティには家族が居て家族全員で音を出したから、その音はあまりにも巨大だった。血の繋がりを超えて、魂の家族はどんどん巨大化していった。世界中にな。

 「ふんふん」

 パスコアルは誰もの中の音楽を呼び起こし、それを心から愛した。わあっ!パスコアルに歌わされてしまう!

 嗚呼!口が! 口が勝手に!口が...

 わしらを眺める彼は、音楽家であると同時に、最大の観客だった。のせられたわしらが歌い始めるのを、嬉しそうに、見ていたよ。真っ白い髪とヒゲで、もじゃもじゃの爺さんだった!

 「へぇ」

 ファラオ・サンダースは、師、コルトレーンの痛んだ霊魂の手を引いて、柔らかく愛に満ちた場所へと誘った。さあ、かつてあなたに教えてもらった歌い方で、ようやくあなたを超え、抱きとめる事が出来る。

 メイフィールドはよく知っていた。
自分の娘が何になりたがっているのかまで。

 「私、ミスブラックアメリカになるのよ!」

 そうじゃ!なりたいものになれ!なるべきなんじゃ!ミスブラックアメリカに。だって可愛いんじゃから!白人の女の子にぜーんぜん負けてないわけじゃよ。

 「ほーう」

 そして、マーレイも、命について、よく知っていた。太陽に育てられ、体細胞全体が明晰だった。彼は、こう言ったんじゃ。

 『俺は死の死者なんかじゃない。俺は、生の申し子なんだ。』
『ソウル・ミュージシャンたち』作詞:七尾旅人

 胸が熱くなるよね。俺は“だって可愛いんじゃから”の辺りでキュンとなる。


 ……

 この作品が作られたきっかけの一つが七尾旅人の盟友“国府達矢”の問題作にして傑作『ロック転生』だと聞く。

 メジャーシーンに打ちのめされた国府達矢がロックンロールを打ち破ったこの新しい音楽に触発されて、まるで返歌のように『911FANTASIA』を作り上げたのだとか。

 聞き齧りのエピソードだから間違ってたらごめんね。

 こちらは西洋的、キリスト教的世界観から産み落とされたロックンロールの東洋化、仏教化を試みることで壁を突き破る。エレキギターの音色に日本的なこぶし、節回しが溶け込む奇跡。

 俺は昔高ーい金を出してフリマで買ったが(絶版でプレミアになってたの)、昨年秋からサブスクやYouTubeで配信されている。いい時代になったのかもね。


 そして『911FANTASIA』も昨年配信されるようになったのだ。だから記事の冒頭で『荒野』のリンクを貼れたんだ。もうお金というハードルは取っ払われたんだ、あとは試してみるのみだね。

 俺もこれで歌わていること全部を肯定はできないが、一聴の価値ありだよ。

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