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博物館へ行こう#7「さいたま文学館」(「ふしぎ駄菓子屋銭天堂へようこそ 番外編たたりめ堂へようこそ」)

レンタル学芸員のはくらくです。ようやく朝晩は涼しくなってまいりました。このあとは急激に涼しくなりそうな予感がしております。最近は本当に夏と冬しかないですね。今回は文学館に行ってきました。

今回来訪した館

名称:さいたま文学館
区別:公立・文学
住所:〒363-0022 埼玉県桶川市若宮1-5-9
アクセス:JR高崎線 桶川駅下車。西口から徒歩約5分
ウェブサイト:http://www.saitama-bungakukan.org/

外観

さいたま文学館は、記憶にある限り、3回目の来訪だと思います。はじめてきたのは、県内に住んでいたときだったかと思います。県と桶川市が共同で利用する複合施設になっていて、文学館は指定管理者(権限の移譲も含めた総合的な委託)によって運営されています。

入り口

展示室は1階部分と地下1階部分にあります。1階には常設展示として、埼玉県にゆかりのある作家や文学作品が地理的にわかるようになっていました。また、映像と音声を利用したマルチメディアによる展示です。平成9年の開館当時のものと思われます。わたしの勤務先でも課題になっているのですが、やはりメディアを利用した展示は、時代の流れとともに「古さ」を感じさせてしまう部分ではありますね。展示手法には流行り廃りがあります。最近では、ターポリン製のバナーの利用と文字をぎりぎりまで削ぎ落としたキャプションが流行っているような気がします。常設展をリニューアルもしくは新規開館した館の場合は、プロジェクターによる投影を、スクリーンではなくモノに行う、いわゆるプロジェクションマッピングを取り入れている館が増えているように思われます。今は新しい技術ではありますが、遅かれ早かれ、「昔の技術」になっていきます。それを更新することにも、少なくない予算が必要になるでしょう。将来的に更新が必要になった場面で、予算化できるのか。なかなか難しい問題だと思います。複数台のプロジェクタや機械を組み合わせて動かしているものですと、その同期を取るための定期的なメンテナンスも必要。本当にどうすればいいのか悩んでしまいます……。

それはさておき、地下の展示室に行ってみましょう。地下の展示室は、半分が常設、残りが企画展示に利用されているという感じでした。常設展では、1階で紹介されていた作家を中心に、複製を含む初版本や直筆原稿などが作家ごとに展示されていました。

企画展の導入部分

企画展は『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』というシリーズ物の児童文学を取り上げたものでした。いくつかの館を巡回しているようです。この前後に行った博物館の企画展も巡回展を行っていました。実はわたし自身は巡回展に関わったことがないのですが、巡回を行う場合にもいろいろなパターンがあるようです。

複数の館が合同で実施する

県内や同じ財団が運営している館、姉妹都市等の博物館などが連携してひとつの展示を行う場合です。この場合、展示にかかる予算を分散することができたり、展示にかかわる作業を分散したりすることができるので、ある程度の余裕のある館であれば、魅力的な試みになることが多いのではないでしょうか。その一方で、調整にそれなりの時間と人とを費やすことになるため、自由に身動きは取りづらくなるような気がします。

企画制作会社等が企画する

世の中には、博物館や美術館に展示企画を売り込むことを生業としている方々がいらっしゃいます。そんな展示制作会社等から企画を購入するという場合もあるようです。イメージですが、博物館には少なく、美術館に多い印象はあります。わたしは実際にこのパターンの経験がないのですが、どれくらいの予算感なんでしょうね……。ドラマなどにあわせて行う巡回展もこの一種だと思います。プロモーション会社が中心となって、いくつかの館に声をかけて展示を行うケースです。
今回の展示もおそらく展示会社によるものなのではないかと思います。

都道府県や財団の巡回展

都道府県や県の財団などが巡回展をやることもあります。埋蔵文化財に関する財団が多いせいか、なんとなく考古学で多く行われているイメージがあります。「発掘された日本列島」は文化庁が毎年行っているようです。今年で29回目とのこと。

今回観た展示は資料らしい資料もない展示といいますか、基本的には『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』という児童小説のキャラクターや設定などを紹介するものでした。作中の雰囲気の再現などもあり、展示というよりも催し物に近いのではないかと思います。先日観に行ったトキワ荘マンガミュージアムで行われていた原画展とも異なった雰囲気で、とにかく不思議でした。

おそらく人気のコンテンツを用いて展示を行っているので、ある程度の入館者数は見込めるのではないかと思われます。いまはどこの施設も入館者数=入館料を稼ぐことを求められる時代です。入館者数を抜きにして、施設の運営を考えることはできません。館蔵資料の活用や地域の歴史・文化の紹介という面は薄いかもしれませんが、公の館であれば地域の方にレクリエーションや文化を提供する機会として、パッケージされた企画展を購入するという判断があってもいいのではないでしょうか。ただ学芸業務の介入する余地が少ないため、学芸員としての経験やその展覧会の実施が館の財産にはなりにくいように思います。