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プロレスファン目線で見たACLのヴァンフォーレ甲府


はじめに

「ACLに出場している時のヴァンフォーレ甲府って、ノレるプロレスラーそのものなんじゃないか」

2023.11.6、夜21時過ぎに国立競技場から信濃町駅までの帰り道を歩きながら、私はそんなことを考えていた。


山梨県甲府市に本拠地を構え、現在Jリーグの二部(J2)に所属しているヴァンフォーレ甲府は、2022年天皇杯優勝により、日本のチームでも最大で4枠しか設けられていないアジアチャンピオンズリーグ(以下:ACL)の出場権を獲得した。
これにより、J2からACLに出場したチームは2006年の東京ヴェルディ以来という快挙を達成。


2023.10.4のブリーラム・ユナイテッド(タイ)戦は11,802人、同年11.8の浙江FC(中国)戦では12,256人と、それぞれ国立競技場で行われたACL公式戦では、今季開催された甲府のホームゲームで最多入場者数を更新し、ホームゲームで2連勝という結果も付いている。


それだけではない。
会場にはヴァンフォーレ甲府のユニフォームだけでなく、J1やJ2の各サポーターがユニフォームを着て、平日夜にもかかわらず国立競技場に集結したのだ。

通常、Jリーグの試合ではホームチームとアウェーチームの動線は分けられてており、ホーム側の座席で相手のチームカラーを付ける事は運営側が禁じている事も多い。トラブルの原因になるからだ。
それだけに、ヴァンフォーレ甲府のゲームでありながら他のサポーターも集まる、ある種のJリーグオールスターのような空間が生まれている光景は奇跡に近い。


今回、公式やファンが #甲府のチカラ というハッシュタグで他のサポーターに来場を呼び掛けるアピールも奏功したのかもしれないが、当初はチームスタッフでさえもACLが財政的に厳しい事を明かすほどであった。

「現在のチケット収入の伸びを考えても、さすがにプラスに持っていくのは難しいと試算しています。そもそも当初の予算では、国立開催によって1試合につき1700万円ほどのマイナスを試算していますし、アウェー戦にかかる経費は補填を考慮してもマイナス2700万円を想定していますので、なかなかACL単体で黒字に持っていくのは厳しいですね」
(中略)
「そうですね、国立の1階席がフルで埋まると2万2000~3000人なのですが、今回でいうと、2戦目、3戦目も1試合につき6000枚以上のチケット収入が見込めるようだと、もしかしたらACL単体での黒字が視野に入ってくる可能性があります」
 平日水曜日の夜に、山梨県から6000人以上の集客はあまりにも非現実的だ。こうなると、首都圏の山梨県出身者、Jリーグ各クラブのサポーター有志、あるいは仕事帰りのサッカーファンの力を借りなければ、ヴァンフォーレのACL出場の赤字は確定だ。

J2ヴァンフォーレ甲府のACL出場は黒字か赤字か アウェー旅費&国立ホーム開催費用などを聞いてみた (4ページ目) | Jリーグ | Jリーグ他 | サッカー | web Sportiva (shueisha.co.jp)


それでもホームゲーム2試合を終えた時点で、1試合当たりの試算の倍近くチケットが捌けているし、他のサポーターが来場していることも複数の報道機関で取り上げられるなど、ここに来て風向きがヴァンフォーレ甲府に味方しつつある。


他のサポーターが応援しに行く事に対する賛否も分かれているようだが、それでも、このようなムーヴメントが巻き起こっているのを見ると、ヴァンフォーレ甲府というチームそのものに魅力だったり、肩入れしたくなる何かが詰まっているからだろう。

そのような奇跡的事象を目の当たりにした時に、今回のACLにおけるヴァンフォーレ甲府に対して、いちプロレスファンとしては【プロレスにおける"ノレる"という状況に近い何か】を感じずにはいられない。

今回、現地でヴァンフォーレ甲府の試合を見た中で、このような内容を書きたくなってしまったことも含めて…。


何故私は【ACLのヴァンフォーレ甲府=ノレるプロレスラー】説を唱えるのか?

私が冒頭でACLのヴァンフォーレ甲府を"ノレるプロレスラー"と表現したのには、幾つかの理由がある。

①予算規模が限られた中で天皇杯優勝&ACL出場
②J2在籍中という立場から、海外勢に立ち向かう構図
③クラブ側が"弱みを敢えてさらけ出す"事で生まれた強み


いちプロレスファンとしては、決して潤沢とは言えない資金面と環境の不利を抱えながら、日本を代表する形で海外のクラブチームと闘うヴァンフォーレ甲府と、体格面の不利や不器用さも強みへと変えてみせ、ファンもその姿に共鳴することの出来る、プロレスラーの姿が重なって見えてしまうのだ。
(写真はイメージです)


前述したように、ヴァンフォーレ甲府の予算規模はJ2でも中位と、潤沢な資金を有している訳ではない。
それでも、2022年はJ2所属で天皇杯優勝を達成し、2023年過酷なリーグ戦とACLを戦う中でもリーグ上位に付けている。

たとえば、今回のACLに出場する浦和レッズ、川崎フロンターレ、横浜F・マリノスは、2022年度の年間売上で国内トップ3のビッグクラブだ。ACLディフェンディングチャンピオンの浦和は81億2700万円、川崎は69億7900万円、横浜FMも64億8100万円の年間売上がある。
一方、J2に降格してからもう6年目を迎えてしまったヴァンフォーレの年間売上は、15億6400万円しかない。つまり、ビッグクラブの約5分の1。J2でも中位以下の経営規模なのだから、メルボルン遠征時に39歳のピーター・ウタカがエコノミー席に座って一般客と同じ機内食を食べざるを得ないのも頷ける。

J2ヴァンフォーレ甲府のACL出場は黒字か赤字か アウェー旅費&国立ホーム開催費用などを聞いてみた | Jリーグ | Jリーグ他 | サッカー | web Sportiva (shueisha.co.jp)


私はプロレスファンになって8年以上経つが、今から10年ほど前、柏レイソルのホームゲームに足繫く通うサポーターの1人だった。
サッカーにはジャイアントキリングという言葉もあるように、強いチームをカテゴリーの差を問わず破るチームが出てくる点も魅力的ではあるが、それでも、戦力を有するチームを相手にした時には苦戦する事の方が多い記憶だったし、中々ジャイアントキリングというものは起こるものでもない。


誤解を恐れず言うならば、プロレスにおける【持たざる者が持っている者を倒すドラマチックな展開】を、サッカーやACLの舞台において体現している点でも個人的に共通項があると考えている。


敢えてさらけ出した"弱み"と、それによる共感

とはいえ、他のサポーターの動員を狙うと言っても、そう簡単に当て込めるものではない。
ただ、通常ならタブー視されそうな他のサポーターに向けたお願い事も、敢えて実情をリアルにさらけ出す事で共感へと変わっていく。


恐らく、これがルヴァンカップや天皇杯だったなら、また違った反応だったのかもしれない。
そして、甲府がJ1の立場で挑戦する場合だったら、同カテゴリーでライバルにあたるJ1のサポーターも大挙する光景は実現しえなかっただろう。


日本を代表して出場するACLの舞台に、J2勢という立場も代表して出場している。
今回、この2つが重なり合って、他のサポーターまでもがヴァンフォーレ甲府を応援するという、奇跡的事象が生まれたと私は考えている。


プロレスにおいても、飛んだり跳ねたりパワーもあってグラウンドテクニックも得意という【何でも出来るタイプ】よりは、怪我や出世の遅れ、スランプといった挫折の数々を経て人間味を増したタイプの方が、観客としては応援にも熱が入るし肩入れしやすい。
ACLのヴァンフォーレ甲府は、間違いなく後者にあたる。


甲府サポーターではない私が、10月も11月もACLの甲府の試合を進んで観に行ったのは、「何となく久しぶりにサッカーが見たかった」、「新国立競技場に一度行っておきたかった」という思いだけではない。
直前に読んだネット記事で、甲府がACLで参戦するにあたっての苦労が語られていたからである。

「だったら、国立競技場に行ってみようかな?」という何となくな動機が、こうして次のチケットを買う原動力にさせているのだ。


救われた、クラブチームと甲府サポーターによるウェルカムな雰囲気

ただ、今回のように他のサポーターが応援出来る状況は、ヴァンフォーレ甲府と甲府サポーターによるウェルカムな空気作り無くして成立しない。
この心意気に私は救われているのだ。


2023.11.8の浙江FC戦では、SNS上で他のサポーターたちが集うという座席の区画を敢えて購入して、ダメ元で自宅にあった柏レイソルのユニフォームを持ってきたのだが、周囲はJ1・J2問わず数えきれないくらい色とりどりのユニフォームが座席を埋めた。


そして、ゴール裏だけでなく、メインスタンドやバックスタンドはヴァンフォーレ甲府のチームカラーである青色に染まっていた。


試合前は初めてお会いした両隣の方から声をかけていただいたり、他サポ連合軍の方達もウェルカムムード。
試合中は、私の座る座席から手拍子が絶えず起こっていたし、最初は歌詞が覚えられていなかったチャント(応援歌)も、試合が進むにつれて口ずさめる人たちも次第に増えていったのである。


試合後も他サポ連合軍からヴァンフォーレコールが自然発生していたし、帰り際にレイソルのユニフォームを着ていたら、他の甲府サポーターの方々から「わざわざありがとうございます!」、「もし宜しければ次も是非…!」という声をかけていただいた。

ここまでウェルカムな気持ちに接してしまうと、ヴァンフォーレ甲府の包容力の高さはハンパないと感じずにはいられなかった。


まとめ

今回の【ACLにおけるヴァンフォーレ甲府での、他サポ連合軍】の存在に関しては賛否分かれる部分はあるだろう。


個人的には、他のチームのユニフォームを着た人が訪れる光景がスタンダードとして成立していくとも思わない。
これは排他的な意見では決してなく、クラブチーム側だったり、ACLという海外挑戦の舞台だったり、他のサポーターがヴァンフォーレ甲府に仮託したい何かだったりが合わさった結果生まれた奇跡的光景で、ある種のイレギュラーだと私は思う。

そして、ここに「他サポも応援するべき」みたいな強制が入ってしまうと、この光景は途端に歪な物へと変貌するだろう。
現に、そのような"べき"論が無かったことで、サッカーから離れてしまったプロレスファンの私でも行ってみたいと思えた所はあるから。


何より、J2リーグ在籍中と思えぬほど、ヴァンフォーレ甲府は強かった。

ACL常連チームのブリーラム・ユナイテッド相手にも初出場と思えぬほど競り勝てていたし、浙江FC戦ではアウェーで0-2敗戦を喫した中でもホームは4-1勝利でリベンジを達成。中でも後者は面白いくらい崩しが上手くいき、私の周囲からも「いやあ、強い…」、「この強さは凄い」と漏れ出ていたほどである。

この実力と奇跡が折り重なった歴史的光景を、我々は何処まで見ることが出来るのだろうか?
今の動向が楽しみになってしまうくらい、私は今のヴァンフォーレ甲府というチームやサポーターに惚れてしまいそうだ。

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