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蘇るカプセル"SHUTL 伝統のメタボリズム 〜言葉と文字〜"

銀座の歌舞伎座を越えて、少し歩いて見えてくる不思議な空間「SHUTL(シャトル)」。
ここは、黒川紀章氏が設計した中銀カプセルタワーのカプセルを再利用し、伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場。建物内には2基のカプセルが格納されており、アートや工芸の展示会、映像上映や講演イベントなどが想定される空間だ。

10月に完成したこのスペースのオープニング展示として今回「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」が開催された。


カプセルの様子

1972年に竣工したメタボリズム建築の象徴と言える中銀カプセルタワービル。カプセルは独立性があり個別に交換し続けながら200年存続させることをコンセプトに建築された。
実際には交換が困難だったことから惜しまれながらも昨年解体された。
建物保存の検討中にコロナが重なり断念、カプセルの売却活動が行われてきたという。記憶を次の世代に繋ぎ、使い方により新たな化学反応が起こることを期待したい。
そしてオープニング展示の作品に、私の好きな最果タヒ氏の名前があったことで何とか最終日の訪問に間に合うことができた。


1.最果タヒ「詩の波紋と共鳴」

展示の様子
展示の様子

詩人で作家の彼女はまだ30代で「現代詩手帖賞」「中原中也賞」など受賞し、若者からも闇深く捻じ曲がった人間の感情を瑞々しくシュールに表現し共感を集めている。映画化もされた「夜空はいつでも最高密度の青色だ」は美しく渇望感を味わう作品だ。
今回は「伝統」と「コミュニケーション」をテーマに執筆した彼女の詩が窓面と外部のコンクリート壁面に円形に表現されている。
円形の言葉は浮遊するように見え、見る角度によりそれらが様々な重なり方をする。円形なので始まりも見る人に委ねられる。
適度にコンパクトな空間だからこそできる演出だ。

2.三重野龍「徐行、スピード落とせ、仮歩道、高野、酒、薬」

展示の様子
展示の様子

ギャラリーSHUTLのロゴも手掛けるグラフィックデザイナーの三重野龍氏が、カプセル内で道路標識や工事用看板など公共のサインと文字の関係性に焦点をあてた作品だ。
ほぼ読めない状態でキャベツの断面にも見えるが、文字とデザインの狭間を彷徨う揺らぎが面白い。

3.松田将英「Sperm」

展示の様子
展示の様子
展示の様子

もうひとつのカプセルは竣工当時の内装が修復され再現された空間。そこには匿名のアーティストとして活動し始め、笑い泣きの絵文字を使った「The laughing Man」で注目を集めた。
今回はこのカプセルのインテリアに1970年代に思い描かれた近未来のイメージにインターネット以降の現代性を融合した作品だ。
宇宙の彼方にいるかもしれない生命体へ地球人の存在を知らせるために送られたメッセージ「ビーコンインザギャラクシー」や「アレシボ・メッセージ」が内装の一部として組み込まれ、元の黒川氏の空間にさらっと調和している。
アーティストの黒川氏への敬意が感じられる作品だ。

カプセルタワーは当時の建築家たちが憂うモノや人のの増殖と更新を体現したもので、私にはカプセルは細胞に見えあの建物はプチプチと細胞分裂を繰り返す物体に見えた。

分解された今もなお、興味深い細胞分裂を繰り返している。

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