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愛言葉

いきなり曲を紹介するあたり、僕も変わってないなあ、大人になってないなあ、なんて思いますが、まあいいからお聴きくださいな。

僕がボカロを聴き始めたのが2011年だから、もう11年も経つんですね。
DECO*27さんも、割と黎明期から活動されてるから、今も「ヴァンパイア」「サラマンダー」とか、ヒットソングを生み出してる息が長いクリエイターで、本当に尊敬してます。

そう、聴き始めた頃によく聴いていたのが「愛言葉」でした。

そして、ボカロクリエイターとしては当時かなり異色で挑戦的だった、フルボーカルアルバム「ラブカレンダー」をリリースしたのが2012年。
悠木碧さんや中川翔子さんもシンガーに起用して、自身も歌ったり、MVにレフティのギターを持って出たり。
今も「ラブカレンダー」は定期的に聴きたくなる、大好きなアルバムの1枚だったりします。以後に出た曲よりも、「ラブカレンダー」の収録曲・アレンジが好きかも。

そう、僕も立派な「古参」なわけです。
今のボカロファンからすれば、ある意味「懐古厨」、もっといえば「老害」にあたるのかも。

「愛言葉」は、当時のDECO*27さんからすれば、集大成みたいな曲でした。
最後の間奏に、それまで発表した曲の一部を取り入れる、他にはないチャレンジングなことをやってのけたのです。

2011〜2013年当時、僕はかなりのボカロ曲を聴いていました。
ニコ動の週間ランキングを片っ端から聴いて回ったり、好きなジャンル(例えばバラードとか、民族調とか、ジャズとか)を開拓して回ったり。
そんな僕が言うから間違いないです。
当時のDECO*27さんは、ボカロ文化を牽引していた。誰もしていないことをやっていた。

そんなDECO*27さんが、「愛言葉II」を発表したのが2013年。

「愛言葉」のオケをブラッシュアップしたものに、進行はほぼそのままで、別メロと、さらにそれまでの曲と、それからの意気込みを綴った曲。
最後の「引用」部分は「ゆめゆめ」という、彼の一つの分岐点になったような曲の一節を盛り込んでいます。

大学1年になっていた当時の僕は、「愛言葉」のアンサーソングともいえるようなこの曲に感動して鳥肌が立ったのをよく覚えています。

その5年後、「愛言葉III」の発表が2018年。

この頃も、彼は「アンドロイドガール」「乙女解剖」「スクランブル交際」など、多くの有名曲を打ち出しています。
でも。でも。
「愛言葉III」は、僕には「悲鳴」のように聞こえたことをよく覚えています。

僕ら"II"を嫌って"I"に戻って 何回だって間違ってきたよ
消えない後悔と冷めない愛情が恋を再起動する
ほら"I"を嫌ってまた"II"に戻って IIIになって愛を繋いでいこう
言いたい感情は 伝えたい正解はたったひとつだけ
ありがとう

(「愛言葉III」/DECO*27)

歌詞に「I」だの「II」だの「III」だのストレートすぎるし、その数字がそれまでの「愛言葉」たちと、それまでに作った曲たちを指していることは明らかです。

「多くの人が一旦離れていったボカロ文化圏、そして「懐古厨」と「新規勢」とのせめぎ合い、それに疲弊してしまった自分自身。苦しくても、自分はボカロクリエイターでしか生きていけない。でも曲を作り続ければ、きっと、新たな世界が拓けるはずだから、今は我慢の時」

そんな声が聞こえてくるような気がしたんです。

「ハチ」さんこと米津玄師さんが、ある意味、ボカロとの訣別曲ともいえる「砂の惑星」を発表したのが2017年ですから(それ以降、「ハチ」さん名義のボカロ曲は発表がありません)、初音ミク10年のその年に、世代交代があったといっても過言ではありません。
米津玄師さんは、それ以降、東京五輪のテーマソングともいえる楽曲を制作するような紅白アーティストになる道を歩みました。
一方のDECO*27さんは、ボカロクリエイターを続け、依然新たなチャレンジをしては、人気曲を発表し続けています。

それぞれの苦しみがあるのだと思います。
でも、「愛言葉III」は、あまりにも自分には苦しく聞こえすぎた。
以降、DECO*27さんの曲はあまり聴かなくなりました。
でも、音楽ゲームにハマってしまった近年、やはり彼の楽曲は無視できないほど多くの楽曲がゲームに登場します。
そんな中の、5/27の「愛言葉IV」でした。

聴いてみていかがですか。
完全に個人の感想の域を出ませんが、とてもとても、伸び伸びと曲を、歌詞を、書いているように感じたんです。
「III」の前後のヒットソングの歌詞をふんだんに散りばめ、さらにはその曲で尖っていた歌詞を「愛言葉」のタイトルに相応しい柔らかな表現に替え、「I」「II」「III」みたいな、ストレートな、ある意味「不器用」な表現は次のように変わりました。

一途になるほど 逃げたくもなったよ
散々な僕のこと 呼んでくれてありがとう
君のいない未来考えらんないよ これから先も二人で、それがいいじゃん

(「愛言葉IV」/DECO*27)

「一」途だった「I」の頃、「二」げ出したくなった「II」の頃を振り返り、そして「III」の頃は「散」々だったと自分を評価しています。
でも「IV」の今の自分を「呼」んでくれたのは「君」なのです。
「未来」という単語を使っていることから分かるように、「君」は「初音ミク」であり、ボカロであり、ボカロ文化圏であり、ボカロ曲を楽しむリスナーであり、それを生み出す自分自身でもあるわけです。

米津玄師とは違う「未来」を歩むことを決め、その「未来」を、「3分39秒」の曲(sasakure.UKさんとの共同制作「39」も3:39の楽曲です)で、それまでの楽曲をふんだんに散りばめながら遊び心満点で思い切り楽しんでいる。
投稿日、5/27も、「DECO*27」の「(デ)コニーナ」と掛かってますね、確実に。

聴いている僕も元気がもらえました。
素敵。ブラボー。
「III」からの5年くらい、常人には分からないような苦しみがあったんだろうなあ。でも、それも超えて、あるいは自分に取り込んで糧にして、ある場所に達したんだろうな。

ということで、ふう。誰でも到達し得るような考察終わり。
この時点で2,500字くらいいきましたね。
本当は、ここまでが前段のつもりでした。
最初に決めたタイトルは「定点観測」としていて、彼の「愛言葉」の4曲になぞらえて、僕自身の定点観測を自分なりに振り返ろうとしていましたが、酒の勢いで書いても翌朝後悔するだけなので、そんな野暮なことは今夜はやめとくことにします。

定点観測、大事ですよね。
DECO*27さんは、「愛言葉」が一種の定点観測なのだと思います。

僕の定点観測は、何だろう。
あなたの定点観測は、何ですか。

おやすみなさい。

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