ある公立高校の人事異動内示日実況中継

公立高校の教員も公務員なので、当然だが年に1度人事異動がある。
高校は、小学校・中学校よりも校数が少ないため、1校あたりに勤務年数も多い。「〇年以上は原則異動」と規定している自治体も多いようだが、私の自治体はそういう規定はない(あまり細かく言うと居場所がバレるため差し控えるが)。それでも数年たてば、職員の多くは入れ替わる。私も昨春、長年勤めた学校を去ったが、新しい先生方が次の時代を支えてくれると思っているので、それほど未練はない(でも本当にいい高校だった)。

某掲示板で、「教員の人事異動の仕組みを教えてください」と質問があると、ドヤ顔でその仕組みを懇切丁寧に語ったり、中には「元人事担当ですが…」とリアル感満載の書き込みがある。本当に人事を担当していたであれば、いくら匿名でもそれを語ってはいけないし、究極的にはその情報は「墓場」まで持っていく覚悟が必要だろう。だからこの手の書き込みは信用していない。
では、実際に教員の人事の仕組みはどうなっているのか?
これは本当に「わからない」のである。
もちろん、人事調書に自分の希望を書き、それについて管理職と面談することもあるだろうが、そこから先は、内示日まで本当に「わからない」のである。

しかし、見方を変えて、「内示日の職員室の光景」をお伝えすることはできる。教員が年に1度最も緊張するこの日の様子を語ってみたい。ちなみに、この様子は都道府県・自治体によってだいぶ違うのかもしれないので、あくまでも「ある自治体のある高校での光景」として見ていただきたい。

まず内示の数日前の職員朝会で、校長より「教員委員会より連絡があり、3月〇日〇時より、人事異動の内示があります。先生方は、〇時には必ず職員室で待機してください」と指示がある。これを聞くと「ついにきたか…」と先生方の緊張がだんだん高まってくる。

さて、内示日当日、授業がある場合は1時間目は「自習」となる。冷静を装ってPCに向かっている人が多いが、内心は穏やかではないはずだ。特に長年勤務した先生、3年生を送り出した先生は異動の可能性が高いため、半ば覚悟を決めた顔になっている(そういう先生ほど、実は異動しないのだが…)

〇時になった。内示の始まりである。教頭が校長室から職員室に向かってくる(おそらく、校長が異動リストを見ながら「〇〇先生を呼んでください」と言うのだろう)。教頭が職員室の誰先生のところに向かうのか。この瞬間が一番怖くもあり、興味深い瞬間でもある。呼ばれるのは、教科ごとになっているので、自分の教科の次の教科の先生が呼ばれると、「ああ、今年は異動無かったんだな…」と実感するのである。教頭とともに〇〇先生が校長室に向かうと、さっそく職員室ではあちこちで緊急井戸端会議が開催される(笑)。「〇〇先生が呼ばれた!」「え~?〇〇先生抜けられるとまずい~」「なんだ、俺異動無かったわ」。実にカオスな光景である(笑)。

職員室から戻ってきた先生に、(なぜか小声で)「どこですか、転勤先?」「〇〇高校です」という会話が交わされ、やがて一通り終わったあと、教頭が「それでは人事結果を報告しますので、先生方会議室にお集まりください」と伝える。会議室にぞろぞろ向かう先生方の中でも、「代わりに誰先生が来るんだろうね?」という会話が交わされるが、多くの先生はメモ用紙と筆記用具を持参している。

ここからが、教員経験のある方なら「あるある」かもしれないが、校長より「〇〇先生は〇〇高校へ異動されます。代わりに〇〇高校より〇〇先生が来られます。〇〇先生、これまでありがとうございました。」というセリフを、一心不乱に、まるで全員が速記者になった如くペンを走らせるのである(笑)。すべてが終わるのが、内示開始から約1時間後。教員にとっては、この1時間が本当に長い。

そのあとは、新たに来られる先生の「情報収集」である。だいたい、誰かが情報を持っていて、「じゃ、〇〇先生は新1年担任かな~」とか、今度は校内人事に話題が移っていく。去られる先生は、少しづつ机の整理を始めてゆく(それでも、最終日まで片付かない人も結構いるのだが)。

ある年には、内示日の日の午後に離任式があり、なおかつその夜に職員送別会が行われたことがあった。予想外の異動になった先生は、離任式・送別会は号泣して言葉にならなかったことを覚えている(もちろん、「残りたい」といういい意味でだが)。

こうした「儀式」があったのち、数日後には校内人事も決まり、学校はまた新しい年度が始まるのである。

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