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母の日のトートバッグ

ダブル母の日作戦

前回の投稿からずいぶんと時間が経ってしまいましたが、
今回は色違いのトートバッグを二つ御紹介させて頂きます。


ある日常連の御客様からご連絡頂き、お母様の使われているトートバッグが傷んできたのでフルオーダーで作って欲しいとの事でした。
御客様のもとへ直接出向き、様々な御要望をお伺いした結果、使用する革は牛革と比べて軽く扱い易いフランス産のアルランゴート、内装には国産のピッグスエードを用いる事としました。
打ち合わせも終わろうかという時にお母様から
「同じものをもう一つお願い出来ますか?」と尋ねられ、一瞬意味が分からずきょとんとしてしまいましたが、
「母の日にプレゼントしたいんです。」との事でした。
つまり御客様とお母様とお祖母様の三世代に渡る母の日×母の日とでも申しましょうか、私にとってちょっと大変なイベントになった予感がしたのでした。
密かに心中で「ダブル母の日作戦だな...」と呟いておりました。

試作の日々

フルオーダーメイド、新規作成のバッグなので先ずは試作を行います。
御客様が使われていたトートバッグを基に外観・機能共にアップデート出来るよう検討を行うのですが...
普段型紙作りに使っているチケン紙という110センチ×80センチの大きさの紙を3枚使ってようやく納得行く形になりました。
市販されているバッグ作りの参考書も隅々まで読み込みました。


個人的にオーダーメイドではこの段階で「これ以上考えていると精神的におかしくなってしまうかもしれない」という恐れを抱く程度まで自分を追い込むと、後々良い結果に繋がる気がしています。
職人として正しい方法では無いと思いますが、結果的に御客様が喜んで下さるならまぁ良いかと己を納得させています。
革職人としてのスタートが遅かった分、とことんまで煮詰めないと他の職人さんと肩を並べる事が出来ないですから常に徳俵に足が掛かっている状態を意識せねばという想いもあります。

素材について

今回使用した革はフランス産のアルランゴートと国産ピッグスエード、
ファスナーはYKKエクセラでステッチは私自身が染色した手縫い専用のリネンです。
色はワインとオレンジで各素材とも同色を用意しました。

アルランゴートという革ですが、フランスのアルラン社で生産している山羊革でして、ヨーロッパのハイブランドでも採用されています。
軽く丈夫で発色が良く70色前後から選んで頂く事が出来ます。
コンビ鞣しという方法で鞣されておりタンニン鞣し革より気軽に扱う事も出来ます。
但し山羊ですから牛に比べて小さい個体で製作時にあまり大きなパーツを取れないという点がデメリットとなります。
しかしながらYKKエクセラの600色と合わせて選択肢が多いのは御客様にとって大きなメリットですし、ReiLeatherでは独自に染色したリネンも使っているので組み合わせは無数に存在します。
御客様が迷われるような場合はお勧めのコーディネートを提案させて頂きますのでお気軽にご相談下さい。

制作風景

型紙が完成したら小物パーツから作っていきます。
ファスナーを使用するタイプですとファスナーの引手、タブから着手します。

バッグのパーツで引手は最も酷使されるパーツですので内部を入念に補強しています。
ファスナーと接続するD環は継ぎ目の無いYKKのものを使っているので使用中に開いてしまう恐れはありません。

そしてショルダーベルトを保持する金具の根本、根革です。
こちらは内容物の荷重が集中する場所ですから芯材と補強テープで革をサポートし、バッグ本体との縫い合わせ方も荷重を分散させるようにしています。
これまで自分が作ったバッグや参考用に購入した市販品をもとに研究しています。

マチは底部中央で二分割しています。
真鍮製の底鋲も仕込みました。

玉縁は革の厚みを利用し、中央部より両側を薄く漉く事で芯を形成しています。
芯材を仕込んで作るよりも自然な膨らみになります。
玉縁も二分割して繋げていますが、つなぎ目がなるべく目立たないように加工しています。
因みに一番手前のオレンジの玉縁の画像は自分で見てもどこで繋いでいるのか分かりません。

胴とマチ、玉縁の加工が終わったら接着して縫い合わせます。
縫い終わってひっくり返した状態です。


いま振り返ると画像を記録しておく余裕が無くなってきているのが分かるのですが、いきなり内装が完成しています。
このバッグは中央にファスナーを備え、その前後にオープンポケットを擁するので製作上色々な要素を考慮する必要があり現物合わせで作業を進めざるを得ず、今回最も頭を悩ませた部分でもあります。
撮影時に昼寝しているネコをどかす余裕も無かったようです。

ファスナーの加工も行いました。

両サイドのファスナーエンドはバッグ側面まで回り込ませ大きく開く構造にしますが、そのエンド部分がひらひらと動くとみっともないのでホックを仕込んでマチの側面に固定出来るようにしました。
そのホックの頭は革でくるんでいます。

最後に作ったパーツはショルダーベルトでした。


バッグの実物の大きさとバランスを見てサイズを決めたためにこのタイミングでの作成となりました。
芯材を挟んで表裏二枚の革をヘリ返して貼り合わせ、両サイド65センチを縫う必要があります。
バッグ二つ分合計八か所で520センチとなり、新規のバッグ二つの同時進行がどれだけ大変か、心底実感する工程でした。
手縫いで520センチを縫うのに一日掛かり、ステッチは2400センチ、即ち24メートル使用しました。
私自身は子供の頃に水泳を習っており今でもたまにプールで泳ぐ事があるのですが、25メートルプールとほぼ同じ長さのステッチを使ったのかと思うと完成後に振り返っても気が遠くなります。

そしてようやく完成後の画像です

長々と書いてきましたが、やっと完成したバッグの御紹介です。




華やかなオレンジとシックなワイン。
同時に作り進めると春と秋、陰と陽、陰日向のように自分の心の内面を見透かされているような気さえしてきます。
ブルースリーの截拳道や若い頃に好きだったYin&Yangというブランドを思い出してみたり...
そんな思考の深みに潜りつつ作っている時は実はとても集中して作業しているので精確で早く進むものです。

中央にファスナーポケット、前後にオープンポケットを擁します。
ゴートとスエードの組み合わせがとてもシックで素晴らしい質感です。

口元は中央部を若干下げて脇に抱えた時に収まりよくなるようデザインしました。

前面にはポケットを備えています。

中央のファスナーを開いた状態です。
内部にはオープンポケットを二つ、ファスナーポケットを一つ備えています。
この辺りは御客様が使われていたバッグを基にした構成です。

このファスナーポケットと前後のポケットの寸法がバッグの使い勝手を決める大きな要因となるので何度も試作して確認しました。
高さ・幅共に大きすぎても小さすぎても成立しない構造です。


ファスナーエンドはこのようにマチに固定します。
ホックを外して頂ければ大きく開く事が出来ます。
玉縁も良い表情だと思います。

頑強さを感じさせる立体的な根革にヘリ返し合わせのショルダーベルトです。

お借りした御客様のバッグと並べてみました。
サイズ感やポケットの配置はこちらを参考に検討しました。

当日はこのようにコンテナボックスに入れて輸送し直接お届けしました。
このコンテナはダレスバッグ等の製作中の保管にも便利なのです。

御客様にお渡した瞬間に喜色満面、大変喜んで頂きダブル母の日作戦も大成功でした。
この瞬間の為に仕事をしているといっても過言では無いでしょう。
御客様が期待されていた以上のものを届けられたと確信した次第でした。
そして最後にサイズ感を画像に残しておく為に撮影させて頂きました。

T様、この度は御注文頂き誠に有難う御座いました。

オーダーメイドは随時受け付けております。
革製品についての御相談や修理等はreileather@gmail.comまでご相談下さい。


次回は以前からモニターさんを募集しておりますミドルウォレットの完成後に更新する予定です。

モニターさんは引き続き募集中ですので興味のある方はこちらの記事を御覧下さい。

お知らせ

下記ECサイトでは革製品を販売中です。

https://www.creema.jp/c/reileather

過去の制作物は旧ブログを御覧下さい。

ツイッター、インスタのアカウントは@reileatherです。
最後までご覧頂き有難う御座いました。

ReiLeather 山田智之

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