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適性とは何か?~「総合格闘技」としての仕事に就くということ

新卒時の就職活動において、いかに自分に合った働き口を見つけて内定を勝ち取るのか、ということに関心を持つ方は大勢いらっしゃると思います。

学生さんの就活支援側にも、適性を見極めて適職への最短ルートを歩めるようにするためのサービスを提供される事業者が増えています。「中の人」たちにお話を伺ってみると、体系化された考え方に基づき、丁寧な面談を重ねることによって自己分析、自己理解の伴走をされているようで、利用者からの支持が厚いのもよく分かります。

ただ一方で、事業現場や人事として採用や育成に関わってきた者としては、自分の向き不向きを性急に絞り込んでしまうことには、どこかもったいなさを感じるのです。

一人の人間が持つ多様な可能性に目を向けたうえで、新卒の時点ではまずこの環境に飛び込んでみよう、というのなら分かります。でもキャリアの入口に立つ時点で「私はこういう仕事に向いている人だ」と認知してしまうことによって、果たしてその人はその先ずっと幸せに働いていけるのだろうか、という疑問が湧いてくるのです。

いわゆるジョブ型のポジション設計の場合だと、専門性や組織成果への貢献のしかたという観点で的を絞った募集選考が行われます。そうした点では、一定の方向性を決めて学習・研鑽し、プロフェッショナルとしての道を究めていくことも大切だと言えます。

ですが、新卒就活の文脈で行われているような広義の「やりたい/ありたい」の軸や汎用的な仕事能力の軸で、個人のアイデンティティを早期に固定化してしまうような行為は、一人ひとりが持っているはずのポテンシャルの開花を阻む危険性もあるように思います。

私自身も転職を重ねて様々な業界、企業規模、職種の仕事を経験しましたし、同様の変化をくぐってきた方とご一緒することも多いので、肌感覚としても強く実感していますが、実際に特定の環境、文脈のなかに身を置いて様々なプレッシャーを受けながら成果創出に取り組んでみることではじめて見えてくる適性というものもあります。

ビズリーチに掲載されたこちらの事例でも、仕事を通してWillやCanが見出だされたという体験談が紹介されていますが、とても現実感のある話です。

それほど向いていないと感じる仕事を体験したからこそ、本当に向いている仕事で発揮できる力にも厚みが出てくるという点も大いに頷けるものですし、これからの経験を通じても、まだまだ新しい芽が出てくる可能性にひらかれているのではないか、とも思えるのです。

そもそも、社会人としての仕事経験の多くは、

  • 様々なステークホルダーからの要求や期待に向き合い、

  • 仕事の目的や制約を見定めて解くべき問題を明らかにし、

  • アクセスできるリソースを効果的に活用して試行錯誤しながら問題解決を目指す

という活動の一翼を担うこと、と捉えられます。

このときに求められるのは、人や社会との関わりのなかで、思考と行動の両輪を駆動させて価値を生み出す力です。その柱になるのは「自分の役割を見出だし、引き受けてみる」ことではないか、と見ています。それはどこか、理詰めで考えることや直感的に動くことを超えたところにあるようにも思えます。

ここでひとつ、3月に開催されたトークセッションの書き起こし記事をご紹介したいと思います。

社会を見渡して、自分ができる限り社会を勉強して、解像度を上げた結果、「今このタイミングで、自分がこのポジションでこういうことをやったら、自分を含めたいろんな人が幸せになりやすいだろうな」と思っていることをやっている状態。
(中略)
自分が生きてきた経歴と今の社会の状況から、自ずと「これをやったほうがいいよね」というのが弾き出される。そしてそれをやるのは、僕が選んでいるようで選んでいないんですよね。

上記ログミー記事より、深井龍之介さんの言葉

この話からイメージされるのは、社会に目を向け、様々な挑戦を続けるなかで、自分が求められ、活かされる場所へと運ばれていくように歩んでいく姿です。その姿は、自己分析を重ねて効率よく最適なキャリアを積み上げるといった歩みとは対極にあるようにも思えます。

現実の仕事のなかにはなぜか、縁や運によってもたらされる機会というものがあります。それを引き寄せるのは、誰かが抱える困難を「自分の問題」として受け取り、解決に向けてあの手この手で挑戦する行動です。

そうやって社会からの頼まれごとに真剣に応えようと取り組み続けるうちに、自分という器の活かしかたが見出だされていく、そんなご縁に恵まれることで、人はいつしか「その人らしいキャリア」を築いていくのではないか、と。

自分が自覚する強みにフォーカスしてスマートに、というよりは、その時その時で「どうしても何とかしたいこと」に対して何ができるのか、総合格闘技のようにあらゆる手を尽くしてとにかく挑戦していく過程で、いつしか自分なりの持ち味が花開いていくのではないか、と。

仕事やポジションが人をつくると同時に、やりたい仕事、身を置きたいポジションというのも、そのようにして具現化されていくのだと考えています。

生涯を通じて成長を遂げていくために、限られた過去の経験範囲のなかで自身の能力や価値観を固定的に捉えるのではなく、いま、これからの体験によってまだ見ぬ適性が開花していく可能性に心をひらいていたいと思います。

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