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【REVIEW】『Goodbye Volcano High』恐竜亜人の青春バンド物語は、干渉し、観賞するアニメーション足り得たか?〜価値ある失敗作

【月の裏側のビデオゲーム】とは、メインストリームと外れた場所で、ビデオゲームの可能性を追求するタイトルを特集するものです。

一昨年、実写ADV『春ゆきてレトロチカ』をプレイして思うところがあり、「フルモーションビデオとテキストは混ざり合うのか?」というコラム記事を書いた。

昨年2023年にリリースされた本作『Goodbye Volcano High』(PC/PS4,5)をプレイした時も、それにかなり近いことを考えていたように思う。すなわち、「全編アニメーションとノベルゲーム(的メカニクス)はうまく混ざりあうのだろうか?」と。

『Goodbye Volcano High』は、「これはただのアニメじゃないし、ノベルゲームでもないんだよ」と、プレイヤーにしつこいくらい終始訴えてくるようなゲームである。

実際、本作をアニメーション作品として見るといささか物足りないし、ノベルゲームとして見るにはいささか「アニメーション感」が強すぎると感じてしまう。しかしこの「どっちつかず感」を自分はどこか懐かしく、それでいて、意外なほど「手垢がついていないプレイフィール」と感じた。また、かつてこの方向に可能性を見出そうとした(いちジャンルとして確立しようとした)いくつかの作品のことを思い出したのだった。

執筆 / ラブムー
編集 / 葛西祝

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本作の主人公はトランスジェンダー恐竜、ファング。おいおい、恐竜かよ? と思われるかもしれないが、本作において、キャラクターたちがおもに恐竜ルックであることはプラスに働いていると感じた。造形的にも色彩的にもキャッチーだし、キャラクターが類型的に見えることも上手く避けられているように思う。高校(ボルケーノ・ハイスクール)校内でのイベントはそれほど多くはないものの、高校生たちの日常生活、倦怠と焦燥を帯びた空気感はよく伝わってくるし、トランスジェンダー生徒の日常における苦悩(おもに親とのコミュニケーション不全)についても所々で触れられる。

ただ、本作はクィア・マイノリティを主題に据えているわけではない。メインに描かれるのは『ボルケーノ・ハイスクール』に通う高校3年生・ファングのバンドにかける意欲と他メンバー2人との熱量の違いから生まれるすれ違い(そこには微かな恋心の揺れも含まれているように見える)と将来への不安、友人たちとの付き合い方と距離の取り方に対する悩みなど、これまで多くのティーンたちが経験してきたような、いかにも普遍的な青春ドラマだ。

同級生のSNSを大量に見られたり、時おり友人たちや謎の生徒と交わすチャットの描写はきわめて現代的で、本作の「自然さ」に大いに寄与している。また、日本語訳は動画ストリーミングサービスの青春学園ドラマ(たとえば『ハートストッパー』『私たちの青い夏』といった作品)を見ているように過不足ない出来で、英語(ほぼ)フルボイス+日本語字幕というローカライズ自体はほとんど完璧と言って良い。



本作において、プレイヤーがインタラクト・選択できる要素が意識的に多く用意されていることは、頻出する会話選択肢、スティックと全ボタンを駆使する音楽アクションパートからも明らかだ。「インタラクトできるアニメーション」と言えば、古くは『やるドラ』、昨今では『シュタインズゲート・エリート』といった国内タイトルを思い出すゲームファンも多いだろう。しかし、海外作品でこれほど滑らかなアニメーション感を全面に押し出したノベルゲーム/ビジュアルノベルがかつてあっただろうか?(筆者は寡聞にして知らない)

しかし、ここには前述した『ナイト・イン・ザ・ウッズ』や『Life is Strange』シリーズのような青春のリアルなヒリヒリ感、いたたまれなさは希薄だ。

その理由の多くはプレイヤーに「見えているもの」以外の物語背景があまり感じられないことが大きい。登場する生徒たちもやや類型的で、家がそこそこ裕福だったり、成績優秀で両親も進学に積極的だったりと、表面上は同じように恵まれた生徒たちばかりのように感じた。たとえ本作が扱っている世界が現代ではないとしても、戦争、格差、疫病が世界的に拡大している昨今、各キャラクターの置かれている状況の多様性、生徒それぞれの内面描写をもう少し細かく描いてもらいたかったと感じてしまう(カナダの私立校に通う比較的裕福で典型的なティーンたち「ならではのリアル」がここには描かれているのかもしれないが)。


本作は基本的には1本道のビジュアルノベルに近いゲームである。そんなゲーム部分を担っているのは、キャラクターたちと選ぶことで進める対話、リズムゲームで行われるバンドの演奏パートだ。

対話に関しては、予想以上の選択肢の数に驚く。さらに各キャラクターの好感度バロメーターまで用意されている。だが、会話選択肢の多さが本作の魅力に寄与しているか?と言えば、そうとも言いがたい。多くの会話選択は会話の運びと相手キャラクターの好感度に影響を及ぼすのだが、ここにはかなり難があるように思う。

と言うのも、主人公の台詞としてプレイヤーがある台詞を選んだ際、直後のダイアローグに繋がらない、選んだ台詞が反映されていないことが多々あるからだ(おまけにどの台詞が好感度に影響したのかもきわめて判り辛い)。


例を挙げよう。主人公ファングの台詞としてプレイヤーが「イヤだよ」という台詞を選択したとする。だが実際にファングの口をつく台詞は、「イヤだよ」とはほとんど関係ない(時にはそのニュアンスさえも残っていない)ように感じられてしまう時があるのだ。本作のテキストがその滑らかなアニメーションから分離していることを感じる瞬間である。

やがて「ファングの台詞を選択している」というプレイヤーの「ゲーム的実感」はじょじょに、しかし確実に薄まっていく。おまけに選択肢そのものにエフェクトがかかり、こちらが選ぼうとしていた選択肢そのものが消失してしまうこともある。このギミックはファングの深層心理を意識しての演出なのだろうが、プレイヤーの主体性を削ぎ、ファングとプレイヤーの同一化を妨げることを助長しているように思う。

こうした小さな乖離の積み重ねによって、物語の進行が自分の選択と何処か「ずれている」と感じられてしまうのは本作のウィークポイントだろう。枝葉の部分で「ゲームらしい演出」に目配りしたことで、結果、アニメーションとゲームの自然な融合を阻んでしまっていると感じた。


ウォルト・ディズニー『ファンタジア』から『涼宮ハルヒの憂鬱』文化祭・音楽会の回まで、アニメーションとは、「音楽と同期する快楽」を長らく表現してきたメディアであるように思う。しかし本作の楽器演奏・リズムゲーム部分はどのシーンもゲーム的手応えが低いうえに、曲と同期している感じがきわめて薄い。或るライブの場面でプレイヤーが出せるメインの音は、マラカスとよく聴こえないバスドラくらいなのだ(主人公はボーカル&ギター担当なのに!)。

そんなリズムゲームパートがおまけ的要素ならともかく、「バンド、音楽への情熱」が本作のメインテーマでもあるため、このパートはそれなりに面白く作られていることが必須と感じる。ここは同じくバンドを扱った『ナイト・イン・ザ・ウッド』や『Musicial Story』といった昨今の作品や、さらに遡れば『ウンジャマ・ラミー』『バストアムーブ』(初代PSのリズムアクションゲーム良作)といった古き良きゲームと比べても相当落ちる。収録曲そのものはキャッチーで良曲が多いだけに、ここの部分はもう少し練ってもらいたかった。何度もトライ&エラーしたくなるようなリズムゲームパートを作れていたら、本作の印象はかなり変わっていただろう。


ストーリーに途中から挿入される、バンドメンバーの1人がDMを担う彼らのTRPG(風アナログゲーム)はゲームマスターの語り口こそ本格的だが、いささか長すぎるうえに、キャラ画と1枚絵の背景に変わるため、アニメーション感は減退する。キャラクターの内なる声や見えない関係性がこの中で少しでも語られるのなら、TRPGが出てくる必然性もあるのだが、そういうわけでもない(しかしダイス振りや場所移動などの選択によって、本編よりこちらのパートの方がノベルゲーム的な楽しみやスリルが感じられるのは本末転倒感がある)。


エンディングまで約3時間のプレイは良質なアニメ映画を鑑賞したようでもあるし、中編のビジュアルノベルをプレイしたようでもあった。しかしさらに正確に言うなら、「そのどちらでもない」というのが近い。こうした筆者の所感はかなり素朴なものではあるが、本作に対して、自分を含めて多くのプレイヤーが抱くであろうこのファジーでどこか煮え切らなく、名付けがたいプレイフィールの中に、このゲームの可能性の萌芽が宿っているのではないか。一朝一夕には作れそうもないこのようなジャンルが、新しいゲーム的メカニクスを組みこむことができれば、これまで日の目を見なかった「観賞し、干渉する全編アニメーション・ノベルゲーム(ビジュアルノベル)」の傑作が生まれるのではないか? 『GoodBye Volcano High』は、そんなことを(無責任に)夢想させるのに充分な——これからぴくりと動き出すかもしれない——恐竜の卵のような作品だった。



ラブムー
ライター、ゲーム翻訳者、詩人。2020年まで都内で名曲喫茶を営む。ポップカルチャーと酒と猫をこよなく愛する。
翻訳作品→『Milky Way Prince -The Vampire Star』『Mediterranea Inferno』ほか
●Twitter: @Lovemooooooo


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