魑魅魍魎『新型コロナウィルスの空の下で』
「シリンジ?」
日本がまだ今ほどコロナ、コロナと騒いでいなかったホワイトデーの頃だ。
バレンタインデーのお返しも兼ねて、俺はかれこれ16年ほどの付き合いになる美雪とランチをしていた。
東京・恵比寿にあるフレンチレストランで、1万5千円ほどのワインボトルを開けて、白チョウザメやら子羊の肉が食えるコース料理を味わっていた。
春先の青空の広がる心地よい日中で、店内はほぼ満席だった。
「そう。シリンジで……」
美雪は周囲を一度確認してから、声を抑えながらこう続ける。
「精液を吸い上げ